220話.ゼクンドゥスの罠
「ゼクンドゥス!」
大量の悪魔達を背後に従え、腕を組んで笑みを浮かべながらこちらを見下ろしている男こそ、ゼクンドゥスだった。
こいつと出会ったのは、王国フォースへとオーブに魔力を込める為に向かった時。
カレンとアニスに初めて出会い、一緒にルグンドス遺跡の奥へと辿り着いた先に、こいつは居た。
「フ、つれないな蓮華よ。俺の事はゼクスと呼べと言っただろう?」
額に手を当て、ポーズを取っているこいつをアーネスト達は半眼で見ている。
「知り合いか蓮華」
「ほら、前に言ったろ。学園で魔物が溢れた時に、私が遅れた……」
「ああ、あん時の。って事は、その前のオーブの時からか?」
コクンと頷く。それだけで、アーネストの表情が真剣な物へと変わった。
「おい」
「む?貴様は確か……そう、蓮華の兄アーネストだったか。なら自己紹介をし……」
「いらねぇよ。蓮華のストーカーだろ?まだ続けるつもりなら、俺がテメェを消す」
「なんだと……?」
アーネストはネセルをゼクンドゥスへと向ける。だけど、私はそれを制す。
「ちょっと待ってくれアーネスト。こいつは、私が倒す」
「蓮華?」
こいつのせいで、私はアリス姉さんの死を見せられた。例え悪夢だったとしても……許すものか。
「……そうか」
私の表情を見て悟ってくれたのか、アーネストはネセルを下げ、一歩後ろへと下がってくれた。
「ゼクンドゥス、集まりに参加していないと思ったら、貴方は何をしているの?」
今から戦いを仕掛けようと思っていたら、アスモが前に出た。
「知れた事。その意識を失っているソロモンを見るに、やはり失敗したのだろう?俺にとっては、ソロモンの作戦が成功しようが失敗しようが、どちらでも良かったのでな」
「なんですって?」
「俺の目的は最初から変わらない。蓮華を俺の嫁にする。それだけだからな」
「……」
身振り手振りを加えて、アホな事を言うこいつに眩暈がする。
アスモも開いた口が塞がらないようだ。
「ソロモンの作戦が成功したならば、弱った蓮華を俺が頂くだけで楽になったのだが……失敗しても、それはそれで構わん。準備は十分に整ったのでな。後は発動をするだけなのだよ!『ブラッドロストスキュラー』!」
「「「「「!?」」」」」
その魔法は、ゴエティアが使おうとしていた大魔法。しかし、その魔法陣は地面に見当たらない。
「フハハハハ!良いぞ、良いぞ!魔力が俺に集まる……!この魔神ゼクンドゥスの体に、もっと、もっとだっ!」
見れば、どす黒い魔力が地面からゼクンドゥスへと流れている。これは、一体どこから……!?
「クス、疑問かしら?教えてあげてもよろしいですわよ?」
「お、お前は……!」
忘れない、忘れるはずがない。
最初に出会った時はノルンと二人掛かりでも敗れ、ユグドラシルに体を任せた時ですら引き分けた。
その後アリス姉さんや照矢君達と一緒に出会った時は、見逃された。
「お久しぶりですわね。蓮華、ノルン。それにその仲間達、かしら?」
「初音……!」
この時間のない時に、ゼクンドゥスだけじゃなく、初音まで出てくるなんて、予想外すぎる!
「私が冥界に行ったのは、覚えているでしょう。そこで、彼の手伝いをしてあげましたの。つまり、『ブラッドロストスキュラー』の魔法陣は、冥界ですわ」
「なっ!?」
「クス、勿論普通に出来る事ではありませんわ。私の本体は冥界に今も居ますもの」
そういう事か。冥界から、なんらかの手段でゼクンドゥスへと力を流している。なら、この初音を倒せばその流れは止まる、か?
「つまり、テメェを倒せばそのストーカー野郎の強化はなくなるってこったな?」
同じ見解に至ったのか、アーネストが初音を睨む。
対して初音はその黄金色の双眸を細め、笑った。
「そうなりますわね。さぁ、楽しい戦いを始めましょう?」
初音が、アーネストのように双剣を出現させる。戦うのは望む所だけれど、ゴエティアの事もある。
このままだと手遅れになるかもしれない。
「アスモはソロモンを連れてリンスレットさんの元へ報告に行って。ノルンとゼロは、ユグドラシル領に居る母さん達に、ゴエティアの事を伝えて欲しい」
「「「!!」」」
「ここは私とアーネストでなんとかする」
「でも蓮華!」
「頼むよノルン。時間が無い、このままだと地上が死の大地に変わってしまうかもしれないんだ」
「っ……分かった。絶対に負けんじゃないわよっ!」
ノルンはゼロと頷き合い、この場から飛んで離れた。
アスモも頷き、ソロモンを連れて行ってくれた。
意外だったのは、初音は追わず、ゼクンドゥスも手出しをしなかった事だ。
「フ、意外そうだな。元より、あの者達に興味は無い。言ったろう?俺の目的は蓮華、お前だ」
「クス、私も今は貴方に興味がありますわ。その体、人間のものではなくなっていますわね?とても興味深いですわ」
私はソウルを構え、ゼクンドゥスと向き合う。
アーネストもまた、ネセルを構えて初音と向き合った。
「……やるぞ、アーネスト」
「おう、蓮華。こっちの事は気にすんな、本気でやらねーと勝てねぇぞ」
「分かってる」
初音の力は、例え本体でなくとも凄まじい強さを誇るだろう。
そしてゼクンドゥスは、あのゴエティアよりも高い魔力量に至っている。
「クク……行くぞ蓮華、まずは軽くダンスを舞おうではないか!」
ゼクンドゥスが両手を広げ、こちらを手招きしている。
踊るつもりは無いけど、お前は絶対に倒して終わりにしてやる!