217話.VSソロモン②(ゴエティアによる精神支配状態)
「馬鹿な!何故なんともないのだ!?神々すらも支配する事が可能な魔道具なのだぞ!?」
あのペンダントが、支配の魔道具だったのか。
私達はリヴァルさんから未来の話を聞いている。
その中で、ソロモンが魔道具を多用している事も聞いていた。その中でも、他者を支配する力がある事は特に注意して聞いた。
『蓮華、アーネスト。ソロモンの力なのか、母さん達を契約で縛った後に魔道具を創らせたのかは不明だが、他者を支配する力を持っている。洗脳と言い換えても良い。だからまずは、マインドコントロール、ブレインコントロール、そして魅了といった基本的に禁術とされている魔法、魔術に対する抵抗力を鍛える。奴と戦う時は、常に対魔力を構築しておけ。並大抵の力ではお前達には効かないが、同格相手では意識しておくだけでも差があるからな』
時の世界でリヴァルさんから対抗手段を学んだ。勿論ノルンとゼロも一緒にね。
だから、効かない。効いてやるわけにはいかない。
「ハァッ!!」
「ぬぅっ!?」
一瞬の隙をついて、アーネストがペンダントへ一閃する。
ゴエティアは咄嗟に後ろへと飛んだけれど……ピシッという音と共に、ペンダントは砕けた。
「これで、テメェは卑怯な事ができねぇな」
「……少し、貴様達の評価を上方修正せねばならぬようだな」
アーネストはネセルをブンと振り、再度構えをとった。油断も隙も無い、完璧な姿勢。今が戦闘中でなければ、見惚れていたかもしれないくらい、堂々とした姿。
リヴァルさんの世界では、アーネストはソロモンに操られてしまっている。それも、私を……リヴァルさんを助ける為に。
だけど、今アーネストは私の隣に居る。それが凄く心強い。
「ん……?どした蓮華?」
私がずっとアーネストを見ていたからか、ゴエティアから視線は外さずに私へと声をかけてきた。
「いや、なんでもないよ。さぁ、勝つぞアーネスト!」
そう言うと、アーネストは一瞬だけこちらを見て、フッと微笑んだ。
「おう!行くぞ蓮華!」
「ああ!アーネスト!」
私達は地面を力一杯に蹴り、ゴエティアへと飛び掛かる。
「王の力、甘く見るでないわっ!」
ソロモンの全身から、凄まじい魔力が吹き荒れる。
その魔力は刃と成り私達へとぶつかる。
「チィ……!この程度で、止められるかよっ!」
「かすり傷なんて気にしないっ!くらえゴエティアッ!」
私とアーネストの波状攻撃をゴエティアは防ぎきれず、後方の壁へと吹き飛んだ。
「ガハッ……!おのれ、王に膝をつかせるとはっ……万死に値するぞ……!」
こちらを睨みながら、フラフラと立ち上がるゴエティア。
勝てる。アーネストと二人なら、負けるはずがない!
「認めよう、貴様達は今の我よりも強い。支配も効かぬとあれば、致し方あるまい。この手はあまり使いたくなかったのだがな」
言うと同時に、ゴエティアの、いや私達の足元に、黒く……どこまで続いているのかも分からない、大きな魔法陣が形成された。
「なっ!?会長!蓮華さん!アレは不味いですっ!阻止してくださいっ!」
「「!?」」
「あの魔法陣は、『ブラッドロストスキュラー』!魔法陣の上に居る対象から、根こそぎ魔力を奪う大魔法です!私の形成していた魔法陣で発動を遅らせますから、そのうちにっ……くぅっ!?」
アスモの顔が苦痛に歪む。魔法陣を魔法陣で邪魔をするには、単純に構築処理能力の勝負になる。
魔法陣には魔法を発動する為の文字があり、意味がある。その意味を書き換える速度の勝負になり、尋常じゃない魔力が消費される。それだけに魔力回路に絶大な負荷がかかるんだ。魔法を発動するだけなら、そこまでの負荷じゃないけれど……相手はゴエティア。凄まじい負荷がかかっている事は容易に想像できる。
「行くぞアーネスト!」
「おうっ!」
ゴエティアの元へと飛んだと同時に、凄まじい重力に押し潰されたかのように、地面へと縫い付けられる。
「「ぐっ!?」」
私とアーネストは、ゴエティアを見上げる形となった。見下ろすゴエティアの目は、金色に妖しく光っていた。
「そうだ、王の元に跪け。アスモデウスよ、貴様の構築していた魔法陣は素晴らしい。我が魔法を抑える為に制御を一時手放したな?それを我が見逃すと思ったか?」
「まさか、『ブラッドロストスキュラー』は囮だったんですか……!」
「クク……そうではない。大魔法足る『ブラッドロストスキュラー』は発動に時間がかかる。その間を、こ奴らの相手をしながらでは発動が難しかろう。よって、戦い始めた時から貴様が構築していた大魔法の制御を奪う事を考えたのだ。流石は大罪の悪魔アスモデウス、見事な大魔法だ。これを受ければ、我とて身動きを封じられたであろう、今のこ奴らのようにな」
つまり、この力はアスモの魔法という事か……!凄まじい力に、身動きが取れない。
今こんな事を考えるのはあれだけど、やっぱりアスモは凄い。
「さて、ではそこで見ているが良い。我が大魔法の発動をな」
「させません……!」
アスモデウスが魔法陣から飛び上がり、手に大きな鎌を出現させた。
「食らいなさいっ!『クリムゾンブラッドリーパー』!」
ゴエティアの周りを大鎌が乱舞する。けれど、ゴエティアはそれを難なく受け止める。
「軽いなアスモデウス。その程度の魔力では、我に通らぬ」
「っ!!」
「お返しだ。『スピア・ザ・グングニル』」
ゴエティアの手から大きな槍が出現した。赤く染まったその巨大な槍は、凄まじい魔力を内包している。
「アスモ、避け……」
「逃げろ、アリシア……!」
私達は立ち上がろうとするも、両手で体を起こす事しかできない。そんな私達を見て、アスモデウスは微笑んだ。
「王の力を受けよ!」
ゴエティアはその槍を、アスモに向かって解き放つ。
凄まじい速度でアスモに迫るその槍を見ても、アスモは動かない。
「なに、してんだ!避けろアリシア!」
「アスモッ……!」
「ククッ!避けようとしても無駄だ。『スピア・ザ・グングニル』は我の宝具の一つでな。必中、故に避ける事は出来ぬ」
「「!!」」
そして、ゴエティアの言葉が終わる前に、アスモデウスの体を巨大な槍が貫く。
「ごほっ……」
「アリシアーーー!!」
アーネストが、凄まじい声を出して、立ち上がる。
空中を飛んでいたアスモは槍に貫かれ、口から血を流しながら地面へと降下した。
地面へと叩き付けられる寸前、アーネストが抱きとめる。
「アリシアッ!馬鹿野郎、なんで避けなかった!お前なら……」
「ええ、これに、集中してなければ……避けれたかも、しれませんね……」
「これ……?」
「会長、動けた、でしょう?」
「あ……」
言われて気付く。私に掛かっていた重力も、気付けば消えている。
「足を引っ張るつもりは無かったんですが……すみません、会長、蓮華さ……ごほっ」
「もうしゃべるなっ!蓮華、頼む!」
「分かったっ!」
私はゴエティアに注意しながら、アスモの元へと『ワープ』し、治療を始める。
「ごほっごほっ……」
おかしい。回復魔法をかけているのに、全然回復しない。いや、それも違う。確かに回復はしてる。だけど、瞬時に傷が出来ているような……。
「ククッ……ハハハ!中々酷い事をするではないか」
「どういう意味だ」
「言っただろう。『スピア・ザ・グングニル』は避けられぬ、と。そしてそれは、相手が死ぬまで刺し貫く我が宝具。故に、傷を癒せば再度同じ苦しみを与えるのだ」
「「!?」」
そんな……!なら、私のしている事は、アスモを苦しめて……!
「助けたいのならば、宝具の持ち主である我を殺すしかないが、貴様達にそれは不可能だ」
「……テメェを殺せばアリシアが助かるってんなら、もう容赦しねぇぞ!」
アーネストはゴエティアへと攻撃を仕掛けた。
ゴエティアは手にしている魔剣を振るい、アーネストと渡り合っている。
「ごほっ……蓮華、さん……私の、事は……気にしなくて、構いません……会長と、共に……ゴエティア、を……」
口から血を吐きながら、アスモが言う。駄目だ、今私が治療を止めればアスモは死ぬ。それが分かる。
だけど、治療を続ければアスモはずっと『スピア・ザ・グングニル』に貫かれ続けて苦しみ続ける。
どうしたら……!
「ぐはっ!チィィッ……!」
私が動けないでいる間に、アーネストがこちらへと吹き飛ばされてきた。
「蓮華、あいつは俺がなんとかする!アリシアを頼む……絶対に、死なせねぇでくれっ……!」
「アーネスト……ああ、分かってる……!」
「任せたぜ。うぉぉおおおっ!」
「ククッ……無駄な事を!」
ゴエティアとアーネストが一対一で戦っている間に、何か手はないかと考える。
『スピア・ザ・グングニル』は必中の効果を持つ。そして効果が継続する……だから治療をして結果的に無かった事にしても、再度傷が復元してしまう。
回復を続ければ傷で死ぬ事は無くても、精神が持たないかもしれない。
どうすれば良いんだ……!
そんな時、居るはずもない声が聞こえた。
「苦戦してるようじゃない?手、貸そうか?」
「助けに、来たよ」
ノルンと、ゼロの声が。