216話.VSソロモン①(ゴエティアによる精神支配状態)
魔物達の大半が消し飛んだのを確認した後、急いで城内の地下へと『ワープ』する。
指定場所は入口の大きな門があった場所だ。
ソロモンと戦いになっているだろうし、邪魔にならなそうな場所はそこしかなかった。
「ぐはっ……!」
「くぅっ!?」
「ハハハハ!素晴らしいぞこの力!これならば……!」
アーネストとアスモが吹き飛ばされてこちらへと転がる。
アーネストはともかく、どうしてアスモまで?
「よぉ蓮華、意外と早かったな……」
ふらつきながらも立ち上がり、軽く笑ってそう言うアーネストに簡潔に伝える。
「ああ、魔物は大体倒してきたから、後は皆でも大丈夫だと思う」
「え……いや、俺が言ったのはソロモンに力が流れないようにマナのコントロールしてくれって話だったよな……?」
アーネストが怪訝な顔でこちらを見てくる。
「それアリス姉さんがなんとかしてた」
「……」
アーネストが絶句した。気持ちは分かる。
「会長!蓮華さん!」
「「!!」」
アスモの呼びかけで、こちらに向かってきていた魔法を間一髪で避ける事ができた。
「ハハハ。ソロモンが押されていた状況に戻ったわけだが、果たして今回も同じように行くかな?」
右手を翳しながら、こちらを不敵な表情で見ているソロモン。
でもなんだろう。確かに見た目はソロモンなんだけど、何かが違う。魔力の質も変わらないのに、存在が歪に感じる。
「蓮華、こいつはソロモンじゃねぇ。ソロモンの持ってた魔剣、それがソロモンの体を乗っ取ったんだ」
「なっ!?」
剣が持ち主の体を奪うとか、そんな事が出来るのか!
「我はゴエティア。神々を支配する至高の魔剣也。クク……貴様の持っているソウルイーターでは、我には傷一つつけられはせぬぞ」
「そうかな?試してみないと分からないじゃないか。私にはソウルがその魔剣に劣るとは思えないんだよね」
「クク、吠えるではないか。では、試してみるが良い!王の力をその身で味わえ!」
ソウルを構え、ソロモン……いやゴエティアと対峙する。
横でアーネストもネセルを構えて睨んでいる。気付けばアスモは何か大きな魔法陣を形成していた。
「会長、蓮華さん。私に考えがあります。もしそのまま倒せるならそれで構いませんが、倒せなかった時は……私がやります」
「了解!行くぞアーネスト!」
「おお、行くぜぇっ」
同時にゴエティアの元へと飛ぶ。
私は左から、アーネストは右から、魔力を込めた剣を振った。
「ククッ……『オーラ』を使いこなし『魔力』も力強い。確かに貴様達は神々の中でも上位に位置する力を有しているようだが……」
ゴエティアの持つ魔剣ゴエティアは、もはや剣とは呼べない形に変形していた。
途中までは剣なんだけど、先がいくつもの蛇が集まったかのように分かれている。
それがソウルとネセルを意思を持って噛みきろうとしているかのように、防いでいる。
気のせいでなければ、常に変形している。
「気を付けろ蓮華……!こいつぁソードブレイカーの性質をもってやがる!」
「!?」
「ほぅ、良く気付いた。いや、ネスルアーセブリンガーの入れ知恵か」
ゴエティアが剣を振るう流れに合わせて、ソウルを引き離す。アーネストもネセルを鞭のようにしならせて、ゴエティアの魔剣から離れた。
「どうした、もっと我と打ち合おうではないか。その結果その魔剣達が壊れようと、我の手に掛かれた事を光栄に思えるだけ得だぞ?王自らの処断など、滅多にある事ではないのだぞ?」
ソウルが簡単に壊れるとは思わない。だけど、ゴエティアからは何か不吉な物を感じて、どうしても強気に出れない。
アーネストも同じ気持ちなのか、すぐに飛び掛かるような真似はしていない。
「お前はどうして神々の世界を支配しようと思うんだ?」
「ハハハ、愚問よな。貴様達は息を吸う事に疑問を感じた事はあるか?それと同じ事だ。我は王。故に、支配する。それだけの事だ」
王が民を、国を治める。それ自体は悪い事じゃないと思う。地上は12の国があって、それぞれの王が治めているし、それで皆笑って暮らせている。
だから、それを否定するんじゃなく……その先をどう考えているのか、聞かないとと思った。
「支配して、どうするつもりなんだ?」
「ふむ、そうさな。特に何も考えてはおらぬな。人間のように俗物的な欲求もありはしない。我は王、故に支配はするが、我を敬う者共を根絶やしにしようとは思わぬでな」
……なら、放っておいても特に問題ないんじゃないだろうか。そう思いかけたのを、その後の言葉で後悔した。
「ただ、間引きはせねばならぬよな。強者の足を引っ張る弱者は要らぬし、善も悪も、我の前には等しく無価値。故に、等しく管理してやろう。永遠を生きられぬ者共にも仕事を与えよう。我の贄と成り力となる存在故、大切に扱ってやるとも」
結局、力を持つ上に立つ者っていうのは、いつもこうだ。
下に居る人達を物としてしか見ない。利用価値があるかどうかで考える。……人も神も、こういう所は変わらないんだろうか。
勿論、全ての人がそうじゃない事は分かってるけれど、割合は多いんじゃないだろうか。
きっと、私の考え方が甘いんだろう。絵空事で、綺麗事。だけど……それでも私は、優しい人が上に立って欲しいと思う。
人の心を汲める人が、人の苦しみが分かる人が、上に立って欲しい。
権力に溺れ、好き勝手する貴族も多いだろう。幸い、私はこの世界ではまだ知らないけれど。
「そっか。なら、私は君とは相容れない」
だから、言う。
「私は、強者も弱者も関係なく、一緒に居たいと思える人が一緒に居れる世界を望むから」
そう、これだけは、元の世界でも今の世界でも変わらない、私の想い、考え方だから。
「お前の好きには、させないよ」
ソウルをゴエティアへと向け、言いきる。
ゴエティアは意に介していないようで、微笑を浮かべている。
「へへ、俺も人間に嫌な奴が居るって事は知ってるけどよ。良い奴だって居るのも知ってっからな。そりゃそういう嫌な奴だけ排除できるなら、俺はそれも良いとは思うけどよ」
「おいアーネスト……」
「まぁ話は最後まで聞けって。でもよ、その嫌な奴だって、誰かの良い奴なんだよ。俺にとっての嫌な奴でも、全員の嫌な奴かっていやぁそうじゃねぇ。そういう人間関係が面白いって思うんだよな」
「会長が真面目な事を……!」
「ここで茶化す必要ねぇよな!?」
アスモが両手で口を押えながら心底驚いている。あの、魔法陣形成しながら器用な事してるね……。
「とにかく!ゴエティアの支配する世界ってのは、俺にとってつまんねぇ世界になりそうなんだよな。だから、邪魔する。俺はそんだけだ」
そう言って、アーネストは再度ネセルを構えた。
うん……そんなお前だから、私は一緒に居たいと思えるんだ。
「クク……良かろう。ならば、我は貴様達を屠り、支配への第一歩としよう。いや、そも貴様達を配下にするのも愉快か?」
ゴエティアが首に掛けているネックレスが赤色に光った。
「危ねぇ蓮華っ!」
「!?」
その光がこちらへと向かった瞬間、アーネストが私の前に出た。
「アーネスト!」
「……」
光がアーネストを包みこみ、収まった。
「大丈夫かアーネスト?」
「おう、なんともねーぜ」
「何!?」
驚いているのはゴエティアだった。