表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

441/713

215話.圧倒的な力

「っ!……分かった、すぐに片づけてくるから、絶対に負けるなよアーネスト!」


 ソロモンをアーネストに任せ、私は城の外へと『ワープ』してから、全体を見渡す為に空へと飛翔する。

 海辺を見れば、一面黒に埋め尽くされた海を、白銀に輝く鎧を着た者達が押し返している。

 あれは……!


「第三、第四小隊はそのまま第七、第八小隊と入れ替わり傷を癒しなさい!陣形を崩してはなりませんよ!」

「「「ハハッ!」」」


 カレンだ。ここから見ても綺麗な布陣だと分かる。千里眼の魔法と、シルフの力で風に乗って声を聞き取る事が出来るので助かる。

 海が凍り、その上を皆が滑るように走りながら魔物達を倒している。

 すでにおびただしい数の死体が積み重なっているんだろうけど、それらは海に沈んでいるんだろう。


 照矢君達も奮戦してくれている。あ、ミレイユがこっちに気付いたね。視線だけ向けて笑ってくれた。

 カレン達は善戦してくれているけど、流石に範囲が広すぎるね。

 防波堤を作っていて、その内側に冒険者達や騎士達が控えてるけど……あの数を撃退できるかどうか。

 母さんには手出しするなって言われたけど……少しくらい手助けしても良いよね?

 っと、その前にソロモンが仕掛けている術式を解除しないとだね。


 辺りに揺蕩(たゆた)うマナを感じ取る。……う~ん、マナの流れも、魔素の流れもおかしい所がないというか、城に向かっている流れというか、それが無い。

 どういう事だろう、さっきまで確かにソロモンへと流れる力があったのに。


 そこで気付いた。凄まじい魔力が渦巻いている場所に。

 恐らく結界が張ってある。だけど、それでも抑えきれない力が外へと漏れているんだ。

 その場所へと視線を向ける。

 そこにはアリス姉さんと、オシリスがぶつかり合っていた。


「アリス姉さん……!」


 私は急いでその場に向かおうとして……止めた。

 それは、アリス姉さんの邪魔をしちゃいけないとか、そういう事を考えたからじゃない。

 視えたんだ。アリス姉さんは、私に気付いた。そして、口だけ動かした。


『ま・か・せ・て』


 私は口をきつく結んだ後、微笑むのを止めれなかった。

 うん、アリス姉さんが任せてって言うなら、私から言う事は何もない。

 だってアリス姉さんだからね。他の言葉は要らない。


 私はただ、黙って頷いた。するとアリス姉さんは戦いの最中だというのに、こちらに再度視線を向けて、口だけ動かした。


『か・つ・よ』


 それから、アリス姉さんはオシリスとの戦いに集中したのか、こちらには視線を向けなくなった。

 大丈夫だ。今のアリス姉さんが負けるわけない。

 視線を戻そうとして、アリス姉さんとオシリスが戦っている結界内に、女神像が壊れている事に気が付いた。

 普段ならそこまで気にしないんだけど、あのアリス姉さんが居た場所である事が気になった。


 憶測だけど、ソロモンの術式をアリス姉さんが壊した?だから、ソロモンに力が流れなくなったんじゃないだろうか。

 そうなると、アーネストに言われて外に出た私は無駄足だったという事になるんだけれど……。

 と、とにかく、それならそれで急いで戻らないとアーネストが危な……いや、これ以上ソロモンが強くならないなら、アーネストならソロモンに勝てるだろう。

 あいつは本気を出していないって言ったけど、それは間違いない。

 瞬間的な力なら、あいつは私よりもはるかに強いんだから。


 なら、今手助けが必要なのはサンスリー王国の皆だ。

 見れば、離れた位置に大砲のようなものが配置してある。あ、丁度光った。

 凄まじい爆発音と共に、魔物達が消え去る。って前線に出てた皆は!?


 凄く焦ったけれど、どうやら撃つ前に射程範囲内から下がるのを徹底しているようで、味方に被害は出ていないようだ。

 当たり前かもしれないけど、それをちゃんと実行するには指揮系統がしっかりしていないと難しいだろう。

 大したものだよね。大砲のようなものに、ローブを纏い杖を手にした人達が集まっている。

 成程、魔力を充填してるのか。あ、あれはアニスだね。よし。


「皆、カレンお姉様達が抑えてくれている間に、次弾装填を急ぎなさいっ!」

「「「ハハッ!!」」」

「カレンお姉様……私も、前線に行ければ……」

「カレンも、アニスがここに居てくれるから安心して前に出れるんだと思うよ?」

「それは……って、えぇぇ!?れ、れれ蓮華お姉様ぁ!?」

「「「「「!?」」」」」


 おおう、アニスが叫ぶから皆の視線が集中しちゃったよ。


「やっ。空から見て戦況は大体分かってるけど、ちょっとマズイね」

「蓮華お姉様……はい。っと、お前達!気持ちは分かるが今は手を休めるな!」

「「「「は、はいっ!」」」」


 アニスの一喝で、こちらを見ていた人達が自分の作業に戻る。うん、流石だ。


「アニス、カレンの指揮がある中央は良いけど、左翼と右翼が段々押されてるみたいだね。防波堤に居る兵力も、あの数に攻められたら持たないんじゃない?」

「……仰る通りです。不甲斐ないですが、少しでも魔物達を減らす事しか、私達には……」


 辛そうな表情でそう言うアニスに、私は肩に手を乗せ、ポンポンと叩く。


「皆が頑張ってるのは分かってるよ。だから、少しだけ手助けしてあげる。残りは、頼んだよ?」

「蓮華お姉様!?」


 そう言ってから、私は再度空へと飛翔する。


「うん、良い眺めだ。元の世界じゃ東京タワーとか観覧車にでも乗らないと見れない景色なんだよね。さて……」


 私はマナを両手に集める。そう、魔力ではなく、マナをだ。


「精霊達、私に力を貸してもらうよ」


 集まる、集まる。けれどその力は荒れ狂う事は無く、水面に一滴の水が落ちるかのように静かに。


「狙いは、皆と肉薄している魔物達の奥。さぁ、消し飛べ!『エレメンタルバースト』」


 空から穿つレーザーのように鋭く。龍の吐くブレスのように広範囲に。

 魔物達を消し炭にしていく。




-アニス視点-




「皆が頑張ってるのは分かってるよ。だから、少しだけ手助けしてあげる。残りは、頼んだよ?」

「蓮華お姉様!?」


 蓮華お姉様は、そう言って空へと飛んでいかれた。


「あ、アニス様、蓮華様はなんと……」

「私達に、手を貸して下さると」

「!!」

「不甲斐ない……私達はまた、蓮華お姉様の手を煩わせて……!」

「アニス様……」


 空を見れば、もはや点にしか見えない蓮華お姉様の元に、凄まじい力が集まっているのが分かった。


「なん、て……」


 凄い、力。暴風のような力ならば、感じた事はある。けれど、あの力はどこまでも静かで……清らかで……力強い。

 そして、光が放たれた。見るもの全てを浄化するような閃光は、海辺へと続いている。

 その先を見れば、あれだけ居た魔物達の大群が、きれいさっぱり居なくなっている。

 残された魔物達は、カレンお姉様達が戦っている、街に近い魔物達だけ。これなら、確実に守る事が出来る。


「作戦を変更する!我々も前線へ出るぞ!」

「「「「「おおおおっ!」」」」」


 蓮華お姉様、その背中は遠いですが……いえ、ずっと追いつけなくても構わない。けれど、ずっと追わせて頂いても構いませんか?

 私とカレンお姉様の、最愛のお方。



-御剣照矢視点-



「うおぉぉっ!」

「グァァァッ!」


 これで何体目なんて覚えちゃいない。皆と共に目の前の敵を倒し続ける。

 倒しても倒しても次の魔物が前へ前へと進み出てくる。

 倒した魔物を足場にして、後ろの魔物が次々に。


「大型来ますわ!一時退却!」


 カレンさんの指示で、俺達も後ろへと後退する。

 当然魔物達も追ってくるが、その後に大型殲滅魔法で後ろの魔物達は大半消える。

 その後、後ろに迫ってきた魔物達を倒して前にまた戻るの繰り返しだ。

 ただ、倒しても倒しても減った気がしない魔物達を前に、俺達は少しづつ疲弊していった。


 そんな時だった。


(みな)、下がるのじゃ!蓮華が何かするつもりじゃ!」


 ミレイユが叫んだ。俺達は全員迷わずに退却する。魔物達もすかさず追ってくるが、知った事じゃない。

 その数秒後、後ろで凄まじい爆発が起こった。

 大型殲滅魔法なんて比じゃない爆音に、鼓膜が破れるかと思った。

 こちらに迫ってきていた魔物達も硬直している。


 何があったのかと視線を向けると、一面綺麗な青……海が、見えていた。

 え?さっきまで、魔物で埋め尽くされていて、海なんてとてもじゃないけれど、見えなかったのに。


「あははっ……蓮華サン、マジパネェ……!」


 玲於奈が笑いながらそう言う。そうか、これが……蓮華さんの力なのか。

 凄い、なんて言葉が陳腐に聞こえるくらい、凄い。

 俺達の助けなんて、あの人には要らなかったんじゃ……そう思うけれど、きっとあの人は笑ってそんな事はないよって言うんだろうな。

 うん、俺達は俺達に出来る事をやろう。


「よし、蓮華さんのお陰で残りはわずかだっ!やるぞ皆!」

「当然じゃン!このままじゃ蓮華サンに自慢できねぇし!」

「が、頑張ります!……支援をですけど」

「うむ、妾も消耗を考えて力を抑えておったのじゃが、これなら我慢せずとも良さそうじゃ!」


 ミレイユがそう言った後、海から顔だけスラリンが出してきた。


「もう、流石にお腹いっぱいですよぅ。私も上で腹ごなしの運動します~!」


 そういえば、スラリンはずっと海の中で魔物達の死体の処理をしてくれてたんだった。

 思わず笑いそうになったけど、ごまかしておこう。


 空を見上げれば、すでに蓮華さんの姿は無かった。まぁ他の誰かが居ても遠くて判別は出来ないんだけど。

 戦局を変える英雄っていうのは、あーいう人の事を言うんだろうな。

 俺も勇者って言われる職業なんだし、頑張らないとな!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ