212話.海を埋め尽くす魔物達
蓮華とアーネストがソロモンと戦い始めた同時刻。
サンスリー王国の最右端、海上都市ベオグラードでは、悪魔達と戦っている者達が居た。
一つは騎士達。
一つは冒険者達。
一つはモンスターハンター達。
そしてもう一つはこの世界とは別の世界より女神の手によって転移させられた者達。
皆が力を合わせ、サンスリー王国を支配していた悪魔達を撃退していた。
そんな中、ある者が気付き、声を上げる。
ある者は驚き、ある者はそのまま地面へと座り込み、ある者は発狂しそうになっていた。
「マジかよ……あンなもン、どうやったって上陸阻止とか無理じゃン……」
海を埋め尽くすほどの魔物達を確認し、玲於奈が言った言葉に、兄である照矢は震える手を握りしめながらも精一杯の声を上げる。
恐怖に飲まれないように。仲間達を勇気づける為に。
「大丈夫だ!あんなもの、蓮華さんやアーネストさんに比べたらスライムみたいなもんだ!俺達なら絶対勝てる!」
「兄ちゃん……そうだな、蓮華サンやアーネストサンなら、あんなもン屁でもねぇよな。うっし、気合入った!」
玲於奈は両頬を手でパンと叩く。ジンジンと痺れる両頬の感覚で、体の震えが止まった。
「あのぉ~テリヤ様~。私が沢山とか、死んじゃいますよ~?」
「あ、いや、スラリンがって意味じゃなくてね!?」
照矢的には、あるゲームでの最弱モンスターを例にしただけなのだが、自分の仲間であるスラリン事ローズは、スライム族でありながら古の魔王なのである。
「これスラリン、テリーにそんな意図があるわけないじゃろ。というかスラリンがあれだけ居たら逃げの一手なのじゃ、想像するだけで恐ろしい……」
スラリンの主、現魔王であるミレイユが両手で体を抱きしめながら青い顔でそう言うので、照矢達は笑いだした。
「ははっ。でもそう考えたら、あんなの何て事ないな。俺達は海に向かおう!」
照矢の言葉に仲間達が頷く。
そこへ数名の騎士を引き連れてカレンがやってきた。
「皆さん、ご無事のようですわね」
「「カレンさん!」」
「……ふむ。あれを見ても正気を保ち、かつ戦意を失っていない。流石ですわ」
カレンからの素直な賞賛に、照矢と玲於奈は軽く頬を染める。悪魔達を掃討する中でカレンの実力を目の当たりにして、尊敬できる人になっていた。
そんな人から褒められたからである。
「各街の住民の避難は進んでおりますが、最善は海辺の街で魔物達の侵入を止める事。各国の騎士達に冒険者、ハンター達も協力して防波堤を築いています。そう簡単に突破される事はありませんし、そもそもこちらからも打って出ます。その戦力に、貴方達も加えて構いませんか?」
カレンの話を聞き皆頷く。最初からその為に来ているのだ、迷いは無かった。カレンは皆の顔を見渡し、その覚悟に微笑み話を進める。
「ありがとう、その勇気に敬意を。では作戦を伝えます。味方を気にせずに薙ぎ払う為、大きな力を持つ者達で海上を渡ります。もう少し魔物達が近づけば、こちらの大型殲滅魔法の射程範囲内に入ります。私の妹、アニスがその指揮を取ってくれてますわ。大型殲滅魔法は多くの魔導士達が魔力を込めますので準備に時間が掛かります。またその為連射は出来ません。私達はその時間稼ぎをしながらヒットアンドアウェイを繰り返し、魔物達を殲滅致しますわ。何か質問は?」
カレンの言葉に、照矢が手を上げる。
「どうぞ」
「は、はい。えっと、海上をって言いましたけど、どうするんですか?俺達、流石に空は飛べませんけど……」
「蓮華サンとアーネストサンは飛んでたけど、私らは無理なンだよね」
二人の言葉に、カレンは苦笑した。
「ふふ、私も『フラート』の魔法は使えますが、この魔法は制限時間がありますし、自身にならともかく戦闘中に周りの皆にタイミングよく使う事は難しいですわ。ですから、私の妹に海を凍らせてもらうのです」
「「「「「え?」」」」」
とんでもない言葉に目が点になる一行に、カレンは笑う。
「ただ、海全てを凍らせるわけではなく、海上を凍らせるので、魔物達が海中を進むのを防ぐ必要もありますが……」
その言葉に、ミレイユが応えた。
「うむ、その点は任せよ。スラリンならば海の中だろうと陸上と変わらず動けるでな。良いなスラリン?」
「海鮮丼ですねぇ。悪魔達よりは美味しそうです~」
「え……?」
今度はカレンが固まってしまった。それを見て照矢達は苦笑する。
「ええと、スラリンは魔物なんです。あ!悪い魔物じゃないですよ!?」
「まぁ腹黒ではあンだけど……」
「お姉様、今その一言はいらないんじゃ……」
この場には場違いに見える巫女服姿をしたハルコが、玲於奈を窘める。玲於奈もつい言ってしまったので、舌をぺろりと出して微笑んだ。
「きゅぅ」
「ま~たですかケイ~」
ハルコは玲於奈の可愛さで倒れ、それをスラリンが受け止めていた。
「フフ、成程」
カレンはそのやり取りを見て納得する。
「では、任せても宜しいですかスラリンさん?」
「良いですよぉ~。でも、流石に海中全部私だけだと、逃しちゃうかもしれませんよ~」
「大丈夫ですわ。亜人達も力を貸してくれています。マーメイドやサハギンといった、海の中でも活動ができる者達です」
「スラリン、味方食べないでね?」
「相変わらずテリヤ様は失礼ですねぇ。魔物と見分けはつきやすそうですから~、大丈夫ですよぉ~」
スラリンがプリプリと怒るのを、照矢は苦笑しながら宥める。
「!!……妹から連絡が来ましたわ。敵は射程圏内に入ったと。これより大型殲滅魔法を放ちます。皆さん、耳を塞いで」
「「「「「!!」」」」」
その数秒後、凄まじい爆発音と共に、遠くに見える魔物達が煙に包まれた。
「すっげぇ……あれが大型殲滅魔法って奴なンか……」
「さぁ、私達も行きますわよ。次の充填まで時間が掛かりますから、それまでは私達で敵を殲滅するのです」
煙が晴れた先には、すでに大量の魔物達で埋まっていた。後続の魔物達が前へ前へと進んでいる為だ。
「うっそだろ、あの魔法でかなりの魔物が減ったはずなのに、全然減った気がしない……!」
「先程の大型殲滅魔法で数十万の魔物は倒したと思いますが、敵の数は数千万はくだらないでしょう。行きますわよ!」
「「「「「おおっ!」」」」」
カレンに続き、照矢達は海へと向かう。襲い来る魔物達を少しでも減らす為に。