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211話.ソロモンの力

 ソロモンの体を横なぎに斬り捨てる。


「チッ……!これも残像かっ!」


 アーネストが舌打ちをしながらソロモンを見据える。

 私は魔力の流れを追って、本体を探している。

 いくつもの魔力の残滓が残るなかで、ほんの少し、本当に僅かな量の差を見つけた。


「そこだぁっ!」

「っ!!」


 金属の金切り音が鳴り響く。偽物は防ぐ事もしていなかったので確定だ。


「流石は世界神ユグドラシルの化身。完璧な分身だと自負していたんだが」

「私に見破られるようじゃ、本当のユグドラシルには秒だよ。はぁぁぁっ!」


 ソウルで縦横無尽に斬りつける。流石に避けきれなかったソロモンは、そのまま壁へと吹き飛んだ。


「「「「ソロモン様ッ!?」」」」

「ヒュゥ♪流石だぜ蓮華」


 悪魔達がソロモンの身を案じて叫ぶ中、アーネストは私の横へと来た。

 その瞳は油断なくソロモンを睨んでいた。

 壁にぶつかり倒れていたソロモンが立ち上がる。その瞳は冷たいまま、何を考えているのかは分からない。

 この国全体に魔法陣が仕掛けられているのか、ソロモンの体へと魔力の流れが入り込んでいくのが見える。

 恐らくこの魔力の流れが、他の悪魔達が死ぬ事によってソロモンへと送られている魔力なのだろう。

 最初は分からなかったが、その流れをそうと認識した事によって、色濃く見えるようになった。


 今もダメージを負ったはずのソロモンの傷が、異様な速度で修復している。

 破ったはずの障壁まで、再度復活しているのが分かる。


「良いぞ。貴様達の強さは想像以上だが、それでも今の僕が大きく劣っているという事もなさそうだ。これなら、勝てる。神々を滅ぼす事が出来る!」

「「!!」」


 神々を、滅ぼす!?こいつの目的は、神々を滅ぼす事なのか!だとしたら、未来のリヴァルさんの状況も頷ける。

 神々を亡ぼす為に、力のある母さんや兄さんを戦力として加えたかったって事か……!

 だけど、正面から戦って母さんや兄さん、それにリンスレットさんを相手にするのは不可能に近い。だからこそ私……いやリヴァルさんやノルンを人質に取った……そういう、事か。

 今の私は、リヴァルさんのお陰で強くなれた。だからこそ、被害を防げた。けれど未来のリヴァルさんは、私のような修行が出来なかった。

 だから、母さんや兄さん、アーネストにノルン、リンスレットさんまで敵になった世界で、孤独に戦って強くなった。

 タカヒロさんを失い、アリス姉さんを失い、ユグドラシルやイグドラシルの加護を失い……それでも、希望を捨てずに戦ってきたんだ。

 その未来があったから、今私達は戦えてる。絶対に、リヴァルさんの想いを無駄にするものか……!


「蓮華!?」

「「「「「!!」」」」」


 私は魔力を極限まで解放する。濃縮された魔力は、身を守る盾としてだけでなく、触れる物を破壊する力ともなる。


「ソロモン。今のお前がした事じゃないけど……した事によって起こる悲しい未来があった。その未来はまだ終わったわけじゃない。だけど、私にとっての今を守る為に……全力でお前を倒す……いや、殺す」

「チッ……化け物め……!」


 今、私は全ての魔力を解放している。魔力が吹き荒れ、城を支える柱にビキビキと亀裂が走る。色んな意味で急いだ方が良さそうだ。


「「「「ソロモン様っ!我らの命、お使いくださいっ!神々へ悪誅を!!」」」」


 悪魔達が心臓、悪魔の核がある場所に手を置き、魔法を発動して自らの命を絶った。


「……すまない、僕が必ずまた……感謝する」


 倒れた悪魔達は皆、先程死んだ悪魔達と同じように、安堵した表情をしている。

 私には分からないが、ソロモンには悪魔達がここまで信を寄せる何かがあるのだろう。

 けれど、こちらもはいそうですかとソロモンの想う未来を来させるわけにはいかない。

 心身ともにボロボロに傷ついたリヴァルさんが、兄さんから新しい服を受け取って、どんな時でも気丈に振舞って弱さを見せないようにしていたリヴァルさんが、涙を流した。

 それだけで、未来がどれだけ酷いものか想像できた。ソロモン達にとっては理想の未来なのかもしれない、だけど……その裏で泣く人達が居て、それが自分の身近な人達ならば……絶対に変えて見せる。

 それによってお前達が泣く未来になるのかもしれない。

 だから、どちらが正しいとかじゃない。

 私は私が守りたいものの為に、お前を殺す。


「ソロモン、それだけ悪魔達に慕われているのなら、もっと別の方法があったんじゃないのか」


 私やノルンを人質にとったり、母さん達を操ったりしなくても。言外にそれを含めながら、聞く。

 ソロモンは額に手をあて、笑いながら答えた。


「ククッ……ハハハハッ!……ふざけるな!神の力が、どれだけ理不尽なものかお前には分かるまい。神の化身であるお前は、その力を特別なものだと感じていないだろう。その力は、世界を掌握できる力だ。ならば、それに対抗する為には!こちらは何かを犠牲にしなければ、辿り着けはしないのだ!」

「それが他の悪魔達の命を糧にする事になっても、しなければならない事なのか」

「そうだ。誰かが行動を起こさねば、変わらないのだ。この神の遊戯を変える為には、僕達悪魔か……人間かが変わらなければな。だが人間は、強き者に従うだけだ。それは単純な力であり、権力であり、金でもあるが……そこに神への反逆などという意思だけは含まれない。ならば、僕達悪魔が動くしかない」

「「……」」


 私とアーネストは黙ってソロモンの話を聞いていた。

 神の遊戯については、よく分からない。だけどソロモンの話には、共感できる部分もある。

 それはこの世界の事ではなかったけれど……権力や金の為に、人は悪魔にだって成れるのを知っている。


 けれど、それだけじゃない気がする。ソロモンは何故、変えたいと思ったんだろうか。

 これだけの悪魔達に慕われているソロモン。人間だって、自分の命を賭けてまでという人は中々居ない。

 だからこそ、興味が湧いてしまった。ソロモンという人となりに。


「ソロモン、私は神の遊戯というのは知らないけれど、お前が神々を倒そうとした理由があるはずだよね。それを聞いても良いかな?どの道倒すけれど、知っておきたいと思った」


 私が本心からの言葉を告げると、ソロモンはアスモの方をちらりと見て、私を睨んだ。


「……そんな事をお前が知る必要は無い。それに、お前達は僕を倒せない。何故なら……きたっ……きたきたきたっ!これで僕の勝ちだっ!」


 先程までソロモンへと流れていた細い小さな魔力の流れが、凄まじく大きな、まるで川のような流れへと変わる。

 これは、一体!?


「クククッ!話したというのに、忘れていたか?僕の第三の法陣は、死んだ者の魔力を吸い取るもの。それは悪魔でも、人間でも、魔物でも構わない!」


 その言葉で、気付いた。今この国には、魔界海より大量の魔物達が迫ってきていた。

 そして、その魔物達がこの国へと辿り着き、皆が倒し始めたという事か!


「良いぞ、素晴らしい。力が溢れてくる……!これが神々の感じている万能感というものか……!」


 ソロモンから、信じられない量の魔力が溢れ出ている。


「こいつぁヤバイかもしんねぇな……」


 あのアーネストですら、額から冷汗が流れ落ちていた。

 でも、ここで退くわけにはいかない。


「さぁ、お前達を殺した時……僕は神々を殲滅する力を得られるだろう。楽しみだ……!」

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