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210話.想いと動機(ソロモン)

 あれはいつの事だったか――

 僕達の軍勢がある街を支配した夜、興奮を抑える為に夜風に当たろうと、崖の上まで歩いた時だった。

 そこには先客が居て、美しい悪魔が夜空を見上げていた。

 月光を浴び、暗闇の中でも艶やかな姿が浮かび上がる。

 僕は思い切って声を掛ける事にした。


「良い夜だねアスモデウス」


 僕の声に気付いたアスモデウスは、こちらに顔を向け、柔らかく微笑んでくれた。

 それだけで、僕の心臓が五月蠅(うるさ)くなる。


「休まなくて良いのかい?明日も戦いになる。君に言う必要はないだろうけれど」


 そう言ったら、彼女は少し驚いた顔をしたものの、また優しい表情へと戻って言った。


「フフ、ありがとう。少し、考え事をしていただけ。すぐに戻るわ」

「そうか」


 その後、少しの間お互いに何も語らず、空を見上げていた。

 ふいに、彼女がぽつりと零した言葉を、僕は聞き逃さなかった。


「神々は、どうして悪魔なんて種族を創造したのかしら……」


 そう聞こえた。僕はその言葉を(いぶか)しみ、聞き返した。


「どうして、とは?」

「……例えばだけれど。人間の中には、悪魔よりも悪魔な者も居るでしょう?」

「そうだね」


 特段人間に思い入れがあるわけではないけれど、人間とは饒舌(じょうぜつ)に尽くしがたい存在だと思う。

 聖者のような者も居れば、悪魔のような者も居る。

 だから僕は、神は善を天使、どちらにも成りえる中立として人間や亜人、悪として悪魔を創ったのではないかと思ってる。

 そしてそれはあながち間違いではないだろうと。


「悪魔だからと言って、全員が悪なわけじゃないでしょう?悪魔にだって家族は居る。仲間だって居る。人間より強い魔力を持っているし、容姿の違いこそあるけれど……想いに人間も悪魔も違いなんてない。そう、思わないかしら?」


 アスモデウスの瞳は真剣だった。だから僕は、茶化す気にはなれず、答えた。


「……人間は、自分と違う存在を認められないのさ。容姿が違う、それだけで排他(はいた)できる程にね。そしてそれは、人間だけに言えるわけじゃない。そして……そう創ったのは、神々だ」


 僕の言葉を、アスモデウスはその美しい瞳を閉じて、聞いていた。


「そうね。全ての生物は神々が創り、そして居場所も神々が創った。神が、全てを決めているのなら……いえ、言っても仕方のない事ね」


 溜息をつきながらそう答えるアスモデウスに、僕は心が締め付けられた。

 何か、アスモデウスの為に出来る事はないだろうかと考えた時……閃いたんだ。

 僕達が神になれば良い。僕達が世界を決め、アスモデウスの憂いを解放してやれば良い。

 その為には、更なる軍勢が必要だ。

 その足掛かりとして、魔界を手中に収める事から始めよう。


「アスモデウス。僕に協力してくれないか?」

「協力なら今もしているでしょう?」


 きょとんとした表情でそう言うアスモデウスに、僕は笑顔になる。

 先程までの切なげな表情から、こんな顔をされると可愛くて抱きしめたくなるが、そんな事をしたら魔法で吹き飛ばされるだろうから理性で抑えた。


「今はただの魔界の小競り合いだけど……本格的に魔界を支配しようと思う。そして……僕達が、神になるんだ」

「本気?いえ正気?そんな事が可能だと思ってるの?」

「勿論今のままじゃ無理だ。だから、僕はこれから強さの上を目指す。王と呼ばれる悪魔達を配下に加えて、そして……魔界を征服し、魔界の全戦力をもって神界へと戦争を仕掛ける」


 そう、僕はこの後に72柱の悪魔達と契約を結び、配下に加える事に成功する。

 いずれも大きな魔力を持った大悪魔達。

 それぞれが独自の軍勢を持っていて、神に戦いを挑むに相応しい力だった。


「ふふ、そう。良いわね、乗りましょう。でも、契約は今はまだ結ばない。仮契約でも良いかしら?」

「勿論さ。アスモデウス、君の望みは……?」


 契約には代価が必要だ。こちらが願いを聞き届けてもらう代わりに、渡す必要がある。

 ただ、彼女が望んだのは……






 それから数十年が経ち、アスモデウスと正式に契約を交わした。

 かれこれ32番目になってしまったが。


「これで契約完了、ね。以後よろしく主様」

「はは、やめてくれアスモデウス。君はソロモンと、呼び捨ててくれ」

「そう?まぁ契約はどちらかの命が尽きるまで有効なんだし、上手く使って頂戴ね」


 そう、僕の契約は一生涯続く。悪魔達の中には不死の者も居るが、その場合はずっと僕と契約が続く。

 この指輪、面倒なので名前はそのままソロモンの指輪と名付けたけれど、この指輪を使えば契約した悪魔達を瞬時に呼び出す事も可能だ。


「……にしても、リンスレットとも敵対するというのは本気?」

「ああ。彼女を打倒しなくては、真に魔界を征服する事は不可能だろう」


 調べて分かった事だが、リンスレットは原初の者だった。原初の神々と同格の力を持つ数少ない悪魔。

 彼女を倒せないようでは、神々へ挑むなど夢の又夢で終わってしまう。


「そう……。私はリンスレットが悪魔の事を魔族、と呼称するようになったのは、嬉しいんだけれどね……。先に、出会えていたなら……」


 小声になっていった為、最後の方は聞き取る事が出来なかったが、アスモデウスがリンスレット打倒にあまり乗り気ではない事は分かった。

 しかし、大事の前の小事に拘るわけにはいかない。

 そう思い、僕の軍勢の中でも最強であるアスモデウスの部隊とバエルの部隊にリンスレット城の付近の街を支配に向かわせた。

 リンスレットの軍勢は少ないが、精鋭が集まっている為中々攻め落とす事は出来ず、何度も撤退を余儀なくされた。

 天上界からも軍勢が押し寄せてきたのが不味かった。何故あのゼウスが兵を向けてきたのか分からなかったが、大分戦力を削られてしまった。


 そうこうしているうちに、いくつかの大悪魔達がリンスレットの手によって封印されてしまい、僕もまたリンスレットの配下に敗れる事となった。

 残したアスモデウスや多くの悪魔達の事が気がかりだったが、僕の意識はそのまま途切れた。



 そして、僕はロモンという悪魔として生きていた。

 アスモデウスと再度出会う事で、ソロモンとしての僕の自我が芽生えて、転生した事に気付けた。

 これはもはや運命だろうと思う。


 そして僕は魔剣ゴエティアの力を得て、更に強くなった。

 今、目の前には神々の先兵が居る。

 堂々と打ち破り、戦いの狼煙を上げようじゃないか。

 全てはアスモデウス、君の為に――

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