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206話.サンライト・テンプルナイツ

「我が姫。サンライト・テンプルナイツ、いつでも出陣できます」

「分かったわ。もう少し待……着た!蓮華様からのメッセージ!」


 サンスリー王国の隣国、王国・ツゥエルヴでは、今では王国最強と称される程になった、王女率いるサンライト・テンプルナイツが国境に配備されていた。

 自国の守りにも人員を割かなければならない為、全戦力を投入する事は出来ない。

 ならば、機動力・戦力どれを取っても国一番の騎士団を応援に行かせる事にしたのだ。


 勿論、危険な事に王女を(おもむ)かせる事に難色を示した国王夫妻だったが、かつての"ウロボロス"十傑三強の一人、神雷の刃"徹"の説得もあり、騎士団を率いる事を許可したのであった。

 『なんで私じゃなくてトールの言葉で納得するのよパパ、ママ!』と、本人はプリプリと怒っていたが、それすらも可愛いのか、国王夫妻と徹はだらしない顔をしていた。

 リリアを愛する国王夫妻と徹は、その想いを認め合っていたのだ。


 今では、国王夫妻は誰よりも徹を信頼していた。自国の宮廷魔術師にすら推したのだが、徹は辞退。

 理由を聞き、国王夫妻は納得するしかなかった。

 『我が姫、リリア様に仕える身なれば』

 そう言われては、何も言えなかった。元より、彼がリリアの為に敵からこちらへついてくれた事をその目で見ているのだ、疑う余地もない。

 それからも徹は、無茶をするリリアの傍でずっと守ってきた。性的な欲望すら見せず、リリアには一切触れなかった。

 その献身的な姿に、国王夫妻だけでなく、周りの騎士達からも信頼を得ていた。


『よーし、光栄に思いなさい!貴方は私の栄えある親衛隊第一号よ!』


 リリアと初めて出会った運命の日に言われたこの言葉を、徹は何よりも大切な言葉として胸に秘めていた。これからどれだけの者達が姫に仕えようと、その一番最初の臣は自分なのだと。

 その事がたまらなく嬉しく、同時に誇らしかった。

 この天真爛漫でハチャメチャなお姫様の事を、日に日に好きになっていった。


「トール、行くわよ!」

「ハハッ!我が姫、号令あれば今すぐにでも!」

「良いわ!サンライト・テンプルナイツ!非道な悪魔達からサンスリー王国の国民達を救う為、出陣よっ!」

「「「「オオオオオオッ!」」」」

「騎馬隊、私に続けぇっ!」

「「「「姫様万歳ー!!」」」」


 合わさる声が怒号のように鳴り響き、騎士達が馬を走らせ土煙が巻き起こる。

 サンスリー王国と王国ツゥエルヴの国境線を、今踏み越える。


「トール!私はこのまま悪魔達を殲滅するわ!トールは街の人達を!」

「ハッ!第二、第三騎士団を救出にまわします!」

「トールも行くの!」

「それはなりませんっ!我が姫!」

「はぁ、もうトールは言う事を聞くけど聞かないわね!」

「お褒めに預かり光栄です我が姫!」

「ちっとも褒めてな……いたわ!太陽の力、魅せつけるのよ!サンライト・テンプルナイツ、突撃ぃ!」

「「「「オオオオオオッ!」」」」


 何が起こったのか理解しきれていない悪魔達は、怒涛(どとう)の如く押し寄せる騎士達によって殲滅されていく。

 サンライト・テンプルナイツに少し遅れてやってきた騎士達は、残された民達の避難誘導へと尽力を注いだ。


「弱い弱いわっ!どこかに私と渡り合える猛者はいないのかしらっ!」

「ハハッ!我が姫は最強でございますっ!」

「違うわトール!最強は蓮華様!そしてアーネスト様よ!私はその次!」

「そうでございましたっ!しかし、我が姫は最強でございますっ!」

「ああもぅ、嬉しい事言ってくれるわねトール!帰ったら褒美に手作りのクッキーあげるわ!」

「て、作り……!こ、このトール、これ以上の幸福はございません……!」

「なんで泣いてるの……。ん?あれは……!」


 会話しながらも悪魔達を(ほふ)っていたリリアは、ある者に目が留まる。

 場違いな王族の服装で、すぐに分かった。

 騎士達に囲まれながら、懸命に指揮を取っている。

 リリアはその場へと馬を走らせる。徹も当然、リリアに遅れないように続いた。


「ごきげんよう!王国ツゥエルヴが第一王女、リリア=ツゥエルヴよ!貴方がシロウ=サンスリー殿下かしら!?」


 馬の上からそう話しかけるリリアに、面食らうサンスリー王国の騎士達を横に、シロウは堂々と挨拶をかわす。


「サンスリー王国第一王子、シロウ=サンスリーです。この度は我が国への救援、心から感謝致します、リリア王女」


 王子でありながら、馬の上から挨拶をするという非常識な態度を取っても慇懃な礼を崩さないシロウに、リリアは警戒を解いた。


「気にしなくて良いわ!蓮華様からの頼みだしね!」

「蓮華さんの……」


 その言葉に、ピクンと反応するリリア。


「ねぇシロウ殿下、蓮華様の事をさんって呼んだ?」

「あ……」


 そう、例え王族といえど、特別公爵家の者には様をつけなくてはならない。一番上の身分であるからだ。


「その、蓮華さんからは呼び捨ててと言われたんですが、中々難しいですよね」


 その言葉に、リリアは目を輝かせて馬から降り、シロウの手を取った。


「姫!?」

「分かる!」

「え、ええ!?」


 徹が叫ぶが、リリアは気にせずにシロウの手をブンブンと振る。


「美しく高貴さを備えながらも、あの優しい微笑みを向けられたら、とてもじゃないけど呼び捨てなんて出来ないわよね!」

「はは、リリア王女も?」

「当然よ!蓮華様の友達なら、私とも友達よ!さぁ、行くわよシロウ!」

「はは、頼もしいよ。皆、ツゥエルヴの騎士達と手を合わせ、悪魔達を殲滅するんだっ!」

「「「「オオオオオオッ!」」」」


 サンスリー王国の騎士達と王国ツゥエルヴの騎士達は共に背を合わせ、悪魔達へとその刃を向ける。


「突き立てよ!我ら騎士の牙を!」

「「「「突き立てよ!我ら騎士の牙を!」」」」

「貫け!友の無念を晴らす為に!突き立てよ!騎士の信念を貫き通す為に!悪魔共に騎士の誇りを見せるのです!」

「「「「オオオオオオオッ!!」」」」


 応じる騎士達の叫びが、(たけ)ったどよめきの塊となり地を揺るがした。

 その声の先を見るリリアとシロウ。

 そこには、純白の騎士の鎧を身に纏い、馬上から剣を構えて指揮をとる、女神と見間違うかのような神々しさと凛々しさで戦場に居た。

 インペリアルナイト・マスター、カレン=ジェミニその人だった。

 リリアとシロウに気付いた彼女は、ゆっくりと馬を走らせ近づいてきた。

 そして、馬から降りて優雅に微笑み、言葉をかける。


「貴女が王国ツゥエルヴの第一王女リリア様ですね。私は王国フォースのインペリアルナイト・マスター、カレン=ジェミニですわ。そしてシロウ殿下、先程の指揮はよく出来ておられました。その調子でお願い致しますわ」


 そう頭を下げるカレンに、シロウとリリアも面を喰らうが、平静を見繕いなんとか言葉を返した。


「貴女がカレン卿!お会いできて光栄だわ!あの蓮華様も認める強者と一緒に戦えるなんて、嬉しいもの!」


 その言葉に、カレンは頬を染める。その姿に、リリアとシロウは驚いた。


「蓮華お姉様が?それはとても嬉しいですわね。アニス共々、蓮華お姉様に近づきたい一心で、努力しておりますから」


 再度ピーンときたリリアは、先程よりも乗り気でカレンへと向き合う。


「貴女も蓮華様のお友達なのね!もぅ、蓮華様は素敵な人達といっぱい友達なのね!よーし、トール!」

「ハッ!我が姫、ここに!」

「シロウとカレンに……サンスリー王国と王国フォースの騎士達に協力して、皆を助けるのよ!」

「ハハッ!」


 リリアに命令され、トールはすぐに号令を下す。元より悪魔達のみを敵として戦っていたのだが。


「指揮系統の長が集まっていては兵達も戦いづらいでしょう。私達は東へ向かいますわね」


 カレンがそう言い、シロウはその意図を察した。だからこそ、聞かねばならなかった。


「東は、魔界海からの魔物達が上陸する場所でしょう?その先陣を、きって頂けるのですか?」

「ふふ、それは気付いても声に出してはならない事ですわシロウ殿下。大丈夫、お任せくださいな。私の騎士団は、強いですから」


 カレンの後ろに控える騎士達は、全員一糸乱れずに整列している。その練度の高さがうかがい知れた。


「……分かりました。本当に、ありがとうございます」


 そう頭を下げるシロウに、カレンは苦笑した。


「シロウ殿下、王族が簡単に頭を下げるものではありませんわ。リリア王女のように、ふてぶてしいくらいが丁度よろしいですわよ」

「カレン卿ー!?」

「ふふ、冗談ですわ」


 リリアが驚いた声を上げるが、カレンはクスクスと笑って場に和やかな雰囲気が生まれる。


「まったくもう!それじゃ私達は西へ駆け抜けるわ!行くわよトール!」

「ハハッ!」

「サンライト・テンプルナイツ、突撃ぃぃっ!」

「「「「オオオオオオッ!」」」」


 リリアは騎士団を率い、そのまま駆けて行く。途中にいる悪魔達を殲滅しながら。


「ふふ、頼もしいですわね。それではシロウ殿下、私共もこれで」

「ああ、ありがとう。私達も負けていられないな」


 そうして、サンスリー王国の悪魔達は為す術もなく殲滅されていった。

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