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205話.風のしらせ

 蓮華達がセーレの居る部屋へと入った同時刻。


「成程、魔界海から魔物達がもう間もなく上陸すると。敵は悪魔達だけではないという事ですな」

「そうだね。三人には、この国の皆に無事を知らせる事と、その事を皆に伝えて、戦えない者達の避難と、戦える者達の指揮に当たって欲しいの」


 アリスティアからの話とは、魔界海から来る魔物達の事だった。

 そして、隣国である王国ツゥエルヴと王国フォースに、各国からの援軍が集まっている事も伝えた。


(みな)には感謝しきれぬな。しかしアリスティア様、私共の声を、どう届けたら良いでしょうか。恥ずかしながら、私の風の魔法、魔術共にそこまでの広範囲は……」

(わたくし)もニ属性は扱えるのですが、火と水でお役に立てそうもありませんわ……」


 落ち込む二人へアリスティアは満面の笑みを浮かべる。


「だいじょーぶ!私は元精霊女神だよ!シルフ、お願い!」


 そうアリスティアが言った瞬間、無風だった部屋に、新鮮な風が巻き起こる。

 小さな竜巻が昇り、そこから人形のような小さな妖精が姿を現す。


「やぁアリスティア様。珍しいね、ボクを呼ぶなんて。どうしたの?」

「「大精霊様!?」」

「!?」


 シルフの存在に気付いたデュークとユリアは、慌てて(ひざまず)いた。

 両親の姿を見て、シロウもそれに(なら)う。


「あー、いいよいいよ、そういうの。敬ってくれるのは嬉しいけど、そういうのボクも苦手なんだ。気楽に気楽に、ね?」


 穏やかなシルフの声に、三人はゆっくりと立ち上がった。

 それでも、国王夫妻の目は、童心に戻ったかのようにキラキラと光っていた。


「うぅ、レンちゃんとは違った意味で、純粋だねこの人達……」

「あはは、えっとねシルフ。現状の説明は要らないと思うから要点だけ伝えると、もうすぐこの国の皆に憑依している悪魔達が、制御を失って体から弾かれると思う。そうなったら、国民達の意識が戻った時に大混乱に陥ると思うの。それを防ぐ為に、この二人の……」

「デューとお呼びください、アリスティア様」

「私はユアと……」

「え……」


 さりげなく愛称で呼ぶように要求してくる二人に、アリスティアも固まってしまった。

 だがそれも一瞬の事で、すぐに持ち直す。


「あはは。えっと、デューとユアの言葉を風に乗せて国民達全員に届くようにしてほしいんだ。できるよね?」

「勿論だよ!久しぶりのアリスティア様の命令だし、ボク張り切っちゃうよ!」

「命令じゃなくて、お願いなんだけど……なんで皆そう命令されたがるんだよぅ……」

「や、やったぞユリア!アリスティア様にデューと呼んで貰えたぞ!」

「ええ陛下!私もユアと……!ああ、私はこのまま死んでも構いませんわ……」

「父上!?母上!?」


 わいわいと話をしている中で、一瞬の凄まじい魔力を感じ、全員に沈黙が訪れた。


「これは、憑依が解けたかな。すぐに蓮華さんかアーくんから連絡が来ると思うけど、先に準備しておかないとね。デュー、ユア、言葉を考える時間は少ししかないよ?」

「お任せくださいアリスティア様。普段と違って皆の顔も見えぬし、気楽なものですとも」

「ええ、そうですわね。ここには愛する者達しかおりませぬ故……」


 そう言ってシロウを抱きしめるユリア。抱きしめられたシロウは顔を真っ赤にしているが、されるがままである。


「そっか。シルフ、結構魔力使うと思うし、補佐しよっか?」

「大丈夫だよー!レンちゃんから凄い量が補充されるし、魔力常に満タンな感じだから!」

「あはは、流石だね蓮華さん。それじゃ……っと、来たね。アーくんから……ん、それじゃ、準備は良い?」

「構いませぬ」

「はい」


 そうして、シルフの魔力がサンスリー王国全土に風となって包み込む。


「オーケーだよ!今はまだ国民達も、悪魔達も何が起こったのか理解していないみたいだよ。悪魔達から攻撃を仕掛けられる前に、急いで!」


 シルフに告げられ、二人の顔は王のものへと変わる。

 デュークとユリア、国王としての矜持を持って、王妃としての気品を従え、国民達へと無事を伝えた。

 そして、自国に起こった事を簡潔に伝え、これからすべき事も伝えた。


 国王と王妃の無事に国民達は湧き、また他国からも救援に来てくれているという事実が皆を勇気づけた。

 操られていた騎士達は、すぐに民達を守る為に行動に移った。

 これは、以前からの訓練の賜物であった。こういった時に、どう動くかを訓練していたのである。

 自分に乗り移っていた悪魔を斬り倒し、戦う力の無い者達を守りに行く。


 最優先は王と王妃、それに王子達であったが、それも無事であり自分達が守りに行くよりも安心できる存在が傍に居てくれる。

 それは騎士達にも心強さと共に、勇気を与えてくれた。


「お疲れ様。二人とも流石だね」

「ありがとうございます。いつもと違い緊張する要素といえば、アリスティア様とシルフ様の前で演説を行うという、前代未聞な事だけでしたからな」

「ええ、これから他国の王妃達に自慢できますわ」

「父上、母上……」


 自分の目指すべき場所を見せつけられたシロウは、その手を強く握りしめる。


「さぁ、ここからはお前の仕事だシロウ」

「そうですわね。貴方は私達の誇れる息子ですもの。頑張って来なさい」

「はいっ!」


 尊敬する両親からの期待に応えたい。そして、何よりも……友と言ってくれた蓮華とアーネストに応えたいとシロウは思っていた。


「シルフ、シロウ君についててくれる?私は空で見張っておくから」

「了解だよ。二人の事はどうするの?」

「大丈夫、他の大精霊を呼んでおくから」

「そっか!それじゃ、ボクは陰ながら見守っておくからねシロウ君!」

「あ、は、はい!よろしくお願いしますシルフ様!」

「ノンノン、レンちゃんに敬語なしだけじゃなく、友達って言われたんでしょ?なら、ボクの事も呼び捨てないとね!」

「え、ええ!?」


 シルフにそう言われたシロウがアタフタしているのを、両親が羨まし気な目で見ていた。


「ち、父上、母上、そんな目で見られましても……」

「羨ましいぞシロウ」

「羨ましいですわシロウ」

「あはははっ!別に二人も呼び捨てれば良いと思うよ?ねぇシルフ」

「うんうん、ボク気楽が一番だからね!風の向くまま、肩の力を抜いて、ゆるやかに流れて行くのが風の精霊だからねー!」


 アリスティアとシルフの言葉に、デュークとユリアは目を輝かせる。

 その姿に、先程までの王の姿は無く、ただただ憧れの者に出会えた事を喜ぶ男女の姿だった。

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