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203話.救出②

「これはアスモデウス様。アスモデウス様程のお方に、定期的に巡回して頂けるなど、光栄の極みでございます」


 シロウさんが後ろで息を飲むのが分かった。

 アスモの足元に(ひざまず)いているのが、サンスリー王国の国王様と王妃様なんだろう。


「異常はないようね。夫妻の意識はちゃんと保護しているんでしょうね?」

「それは勿論でございます」

「はい。人質は無事でこそ価値があるのは理解しております」


 (うやうや)しく頭を下げる二人に、アスモは告げる。


「そう。今までご苦労様。後は私に任せなさい」

「え……それはどういう……」

「事でございます、か……?」


 言うが早いか、アスモが手を(かざ)した瞬間、悪魔達が国王夫妻の体から空へと浮かんで出てきた。


「「アスモデウス様!?」」

「今です会長、蓮華さん!」

「しゃおらぁっ!」

「はぁぁぁっ!!」

「「ぎゃぁぁぁぁっ!!」


 私とアーネストはアスモの後ろから飛び掛かり、悪魔を一刀両断する。


「やっぱりとてつもない力になってますね。直に見てより分かりました。これはソロモンに勝ち目はありませんね……」

「父上!母上……!」


 シロウさんが倒れた国王夫妻に駆け寄る。


「ぅ……」

「こ、こは……」

「父上!母上!」


 目を覚ました二人をシロウさんが抱きしめる。ようやく、親子で再会出来たんだ。

 そっとしておきたいけど、これでサタンに伝わって、ソロモンにも伝わるのなら、急がないといけない。


「お初にお目にかかります。私は特別公爵家当主、マーガリンの娘、蓮華=フォン=ユグドラシルです」

「同じく、アーネスト=フォン=ユグドラシルです」

「おお、其方(そなた)達が……いや、顔を上げて欲しい。其方達は命の恩人なのだ」

「ありがとう蓮華様、アーネスト様。それに息子まで助けて頂いて……なんとお礼をすれば……」

「詳しい話は後で。まず国王様と王妃様、それにシロウさんには王都フォースへと避難してもらい……」

「それは違げぇ蓮華」

「え?」

「王様と王妃様、それにシロウにはこの国でやってもらわなきゃならねぇ事があんだろ。その為にも、この国の国民達に憑りついてる悪魔達を全て取り除かなきゃならねぇけどな」

「やってもらわなきゃならない事……?」


 それは一体……?避難させる事よりも大事な事なんだろうか?


「そうだな……私達は自身の無事を知らせ、兵達を鼓舞する役目がある」

「そうですわね、陛下。(わたくし)達に戦う力はありません。けれど、私達には私達にしか出来ない戦いがあるのです」


 サンスリー王国の国王陛下、名前はデューク=サンスリー。そして王妃様であるユリア=サンスリー。

 二人の瞳は誰かによく似ていると思った。そうだ、シロウさんにカルナス君だ。

 二人が想いを伝えてくれた時の瞳。うん、両親から受け継いでいるんだね。


「そっか……なら、露払いは私達がしないとね。アスモ、敵の総大将が居る場所、知ってる?」

「勿論知っていますが……流石にソロモンに認識阻害の魔法は通じませんよ?」


 国王夫妻がアスモに視線を移して驚いている。

 そりゃそうだろう、敵が目の前で話しているんだから。


「えっと、アスモは敵じゃな……」

「いいえ、私は敵です蓮華さん。今は捕虜なだけです」

「めんどくせぇなぁそれ……」


 アーネストが言うけど、アスモにも立場ってものがあるんだろうし。


「ま、まぁ、彼女の事は気にしなくて大丈夫です」


 そう言ったら、国王夫妻は顔を見合わせて、不安そうにしながらも頷いてくれた。

 詳しい事は、後で話せば良いだろう。


「国王夫妻とシロウさんを一緒に連れて行くわけにはいかない。私かアーネスト、どっちかが護衛に残った方が良いよね?」

「あー、確かにそうだな。それなら……」

「私が護衛してあげる!」

「「「!!」」」


 突然現れたその人は。いつもいつも突然で。でも心から頼りになる人で。

 ハチャメチャだけど、太陽のように明るいその性格に、ずっと癒されてきた。


「お待たせ蓮華さん!アーくん!」

「アリス!」

「アリス姉さん!」


 私達はアリス姉さんに駆け寄る。

 百万の援軍を得るよりも、アリス姉さんが来てくれた方が何倍も心強く、嬉しい。


「そうそう、道中でサタンとその一味倒してきたから、援軍はないと思うよ?それと、本人はすでに魔界だね、倒したの人形だったんだ。だから、憑依していた悪魔倒しても伝わらないよ。地上と魔界には視えない結界があるから、それを無視してやり取りできるのはマーガリンやリンスレットくらいしか無理だね!」

「んな……」


 アスモが驚くけど、私達は正直またかって感じである。

 もうアリス姉さんが何をしても、流石アリス姉さんとしか思わない。


「なら、まだ敵はこの事を気付いてないわけか。というか、憑依の大元がすでに居ないなら、どうしたら良いんだ?俺はてっきり、大元を倒せば憑依は解けると思ってたんだが」


 それは私も気になった。アーネストと同じで、憑依させている大元を倒せば、皆解放されると思っていたから。

 だけど、そんな考えをアスモが一蹴した。


「ああ、憑依するように命じたのはサタンのようですけど、これだけ多くの悪魔に憑依能力を与えたのはサタンじゃありません。そもそも、悪魔だからって皆憑依できるわけじゃありませんよ。私だって無理です」

「え、そうなのか?」

「はい。一部の悪魔、まぁサタン子飼いの奴らは使えますけど、それはもう倒し終えましたからね。後は憑依能力を与えた奴を倒せば、他の者達も解けますよ」


 それは朗報だ!なら、やる事は簡単だね!


「よしアーネスト!ならそいつを倒せば良いな!」

「おお!分かりやすくて良いぜ!」

「今ならまだ、憑依を解かれた事も伝わっていないわけですから、警戒もされていないでしょう。()るなら今ですし、案内しましょう」


 アスモが悪魔らしい笑みを零す。頼も恐ろしい。


「それじゃアリス姉さん、頼んで良いかな?」

「うん!まっかせて!憑依解除が済んだら教えてね。そこからは私は空で待機しておくから!」

「了解。シロウさん、私達とはここまでだよ。後は、シロウさんはシロウさんの戦いを」

「お前なら出来るさ。ここに来るのも、俺達の力を信じてたとはいえ、怖かったはずだ。それでも、逃げ出さずにここまで来た。その勇気は本物だって思うぜ?」

「蓮華様、アーネスト様……」


 瞳に涙を浮かべるシロウさんへ、私達は笑顔で伝える。


「敬語は無しって言ったろ?シロウ」

「そうだよ。呼び捨て、友達でしょ」

「!!……ああ、そうだな。ありがとう蓮華、さん、アーネスト……」

「おう!それじゃ、アリシア頼むぜ!」

「はい、会長。こちらです」

「ちょっと待って!?私だけさんづけなんだけどー!?」


 駆けて行く二人に遅れないように後を追う。





「シロウ、蓮華様にアーネスト様と、友人になれたのだな」

「父上……はい。俺なんかには、勿体ない方達です」

「これシロウ、王族が自身を卑下する事はなりません。……まぁ、蓮華様とアーネスト様ならば、百歩譲って構いませんけれどね?」

「母上、それは……」


 和やかな会話をする家族を見ながら、アリスティアは微笑んでいた。


「皆、少し話があるから、聞いてくれるかな?あ、私はアリスティア=フォン=ユグドラシル。蓮華さんの姉で、アーくんの妹って事になってるから、よろしくね!」


 国王夫妻はアリスティアの前に跪く。


「アリスティア様、精霊女神たる貴女様の手を煩わせた事、深くお詫び致します」

「国を任されておきながら、マーガリン様のお力に(すが)るしかなかった私達を、どうかお許しくださいませ……」


 深く、深く頭を下げる二人に、アリスティアは笑みを向ける。


「良いんだよ。私はね、二人が助けたいって言うから、助けるの。貴方達を助けたいって思ったわけじゃないから、感謝はしなくて良いよ。そう、ついでだからね!」


 そうアリスティアが言っても、二人が頭を上げる事は無かった。

 一部は確かに本心なのだろう。けれど、アリスティアの優しさをデュークとユリアはとてもよく知っていた。

 自身がまだ子供の頃、マーガリンに聞かせてもらった話の中で。

 子供心に焼き付いた、英雄とも言えるその存在に。


 息子が居る手前、表に出す事が出来なかったが、二人は小躍りしたいほどに、アリスティアと出会えた事を喜んでいたのだった。

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