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201話.救出①

「おいシロウ、ここは通路って言えねぇと思うんだが」

「はは、それはもう……子供の頃に通った裏道の一つなので、狭い所もあるんですよね」


 今私達は、日本で言う通気口のような場所を進んでいる。

 普通に歩けないので、匍匐(ほふく)前進だ。シロウさん、アーネスト、私の順で進んでいる。所々(ほこり)が凄いんだけど、兄さん作のこの服は浄化作用が掛かっているので汚れないのが助かる。


「っと、ここです。降りるよ」


 シロウさんが柵を開け、部屋へと降りる。

 私達も続いて降りたけど、その下は柔らかいベッドになっていて、衝撃を吸収してくれた。


「ここは?」

「メイド長のリューゼの部屋です。あ、事前に許可は貰ってるので大丈夫ですよ」


 突っ込む前にシロウさんから弁明されてしまった。

 なら、深くは言うまい。


「メイドって離宮に住んでるんじゃなかったか?」


 アーネストの素朴な疑問に、シロウさんは苦笑しながら答えた。


「ああ、リューゼは俺の教育係の一人でもあったから、同じ宮だったんだよ。離宮からだと、少し遠いからね」


 成程。という事は執事のガイルさんもそうなのかな?


「そっか。それで、ここは地図でいうとどの辺なの?」

「ええと……ここですね。まだ父上と母上の部屋までは距離があるけど……弟のカルナスの部屋へは、ここから近いんだ」

「なら、まずはそっちへ行ってみようか」

「ありがとう。それじゃ、更に裏口から行こう」


 シロウさんが壁を押すと、そのまま壁が前へと進んだ。


「「……」」

「これも仕掛けの一つなんです」


 この城、忍者屋敷でも通ると思うんだ。設計上、耐久とか大丈夫なんだろうか。

 薄暗い通路を進み、行き止まりへと辿り着いた。


「ここだ。開けるね」

「おう」

「了解」


 突然襲われても対処できるように、警戒度を引き上げる。


 シロウさんが壁に見えた場所を、横へとずらしていく。

 意外と言えば意外なんだけど、音が出ずに静かに壁が移動した。

 部屋の中へと入ると、どうやら誰も居ないようだ。


「カルナス……一体、どこへ……」


 私とアーネストは周囲を警戒する。すると一点、不思議な感覚がする場所がある事に気付いた。


「なぁアーネスト、あそこ……」

「ああ。認識阻害の魔法が掛けてあんな。それもこんだけ集中的に掛かってんなら、まず見つからねぇ」

「え……何かあった?」


 シロウさんの声に頷き、アーネストと共にある場所を注視する。

 それは部屋の隅の一角。ベッドがある反対側の位置。そこに、結界とも言える小さな空間がある。

 そこに私とアーネストは近づき、結界に同調する。

 この結界の意図を考えた時に、壊すのは得策じゃないと判断した。なので、その効果内に自分達も入る事にしたんだ。


「え……お兄さんとお姉さん、誰……?」


 そこには、小学生くらいだろうか。小柄な男の子が、その小さな体を抱きしめ(うずくま)っていた。


「……カルナス君、かな?」

「!!ど、どうして僕の名前を……?」


 やはりそうだった。安心させるように、優しく声を掛ける。


「私達は、君のお兄さんに頼まれて来たんだ。君と、君のお父さん、お母さんを助ける為にね?」

「あ……!」


 それを聞いて、カルナス君は表情を明るくした。


「兄様は、兄様は無事だったんですね……良かった……良かった……!」


 この子は、自分が助かった事よりも、兄の無事を、涙を浮かべて喜んでいる。

 うん、良い子だ。無事で良かった。


「蓮華、シロウはまだ見えちゃいねぇ。連れてくるぜ?」

「あ、うん。頼むアーネスト」

「おうよ」


 そう言って結界内から出たアーネストは、シロウさんを連れて戻ってきた。


「カルナス……!」

「!!兄様……兄様ぁっ!」


 シロウさんに飛びつき、その胸に顔を(うず)めるカルナス君。

 怖かっただろう、寂しかっただろう、不安だっただろう。

 その想いが、シロウさんを見た事で溢れ出たのか、静かに泣いていて……それを黙って抱きしめるシロウさんは、やはり兄なんだなぁと思う。


 それから少しして落ち着いたのか、カルナス君はシロウさんから離れた。

 恥ずかしそうにはにかむその姿は、とても可愛らしい。


「それでカルナス、一体何があったんだ?」

「うん……僕、兄様が話しかけてくれている時、意識はあったんだけど……悪魔に体を乗っ取られていて、何も出来なかった。それから兄様が城を脱出して、ガイルさんとリューゼさんが父様と母様に追うように命令されてて……」

「ああ、ガイルとリューゼも無事だ。インペリアルナイトマスターの、カレン卿が助けてくれたんだ」

「えぇ!?兄様、カレン様と会ったの!?良いなぁ……僕もお会いしたかった……」

「はは、また会えるさ。それより、続きを頼んで良いかな?」

「あ、うん!」


 子供らしく、話がコロコロと変わってしまう事に微笑みながら、黙って話を聞く事にする。


「それでね、僕はこの部屋に戻ってきたんだけど……悪魔のお姉さんが、助けてくれたんだ」

「悪魔のお姉さん?」


 私とアーネストは、その言葉にハッとした。恐らく、いや間違いなく、アスモだと。


「うん。僕の体を乗っ取っていた悪魔を、消してくれて。それで、この場所に居なさいって。必ず、ある人達が助けにくるからって。だから、僕、ここで動かずに待ってた。時々、様子を見に悪魔のお姉さんが来てくれて、食事とか持ってきてくれて……とっても優しかった。悪魔にも、こんな方が居るんだなって……」


 話を聞けば聞く程、アスモである事に確信を持つ。


「そっか、悪魔も一枚岩ではないみたいだな。カルナス、俺は父上と母上を助けに行く。もうしばらく、この場所で待っていてくれるかい?」

「嫌だよ兄様!僕も、父様と母様を助けたいっ!僕も一緒に行きたいっ!」


 カルナス君は、必死にシロウさんに想いを伝えている。シロウさんはそれが分かるから、駄目だと言い辛そうにしている。

 シロウさんだって同じ気持ちで来たのだから、痛いほどにその気持ちが分かるのだろう。

 けれど、シロウさんは同時に、自分には戦う力がない事も自覚している。


 カルナス君は、まだ幼い。きっと、そこまでは考えが及んでいないんだろう。


「良いかい、カルナス。俺がここまで来れたのは、このお二人のお陰だ。聞いた事あるだろう?特別公爵家当主マーガリン様のご令息と、ご令嬢の話を」

「え……?も、もしかして……」

「そう。その本人達だよ。蓮華様に、アーネスト様だ。お二人から敬語は無しでって言われているから、そこは気にしなくて良いよ」

「わ、わぁっ!?蓮華様にアーネスト様!?ほ、本当に!?」

「うん、そうだよ」

「おう、本物だぞ。よく頑張ったな」


 アーネストは、カルナス君の頭に手を置いてわしゃわしゃと頭を撫でる。

 カルナス君はそれを嬉しそうに受け入れていた。


「あは、あははっ。そっか、兄様は凄い人達を連れてきてくれたんだね!兄様はやっぱり凄いや!」

「そ、そうか?俺はついてきただけだし、何も出来てないんだけどな……」

「そんなことないです!兄様が頑張ったから、僕は今こうして兄様と、それに蓮華様とアーネスト様にまで会えて、とっても嬉しいんですからっ!」

「はは……カルナス、うん……ありがとう」


 シロウさんとカルナス君は、仲の良い兄弟だという事がよく分かる。

 でも、これ以上時間をかけるわけにもいかない。ここはまだ敵の真っただ中なんだから。


「カルナス君、君を助けてくれたのは良い悪魔だったかもしれない。だけど、結界の外にはまだ悪い悪魔が沢山いるんだ。そしてその悪魔達は、君の命を容易く奪える存在なんだよ」

「うっ……で、でも兄様は……」

「俺は二人に守ってもらえたから、ここまで来れたんだ」


 シロウさんの言葉の意図を、カルナス君は汲んだのか、下を向いて黙ってしまう。

 聡い子だ。


「俺は何もできないかもしれない。だけど、父上と母上は必ず助ける。兄ちゃんを信じてくれるか、カルナス」


 しゃがんでカルナス君の目の高さに合わせ、優しくそう言うシロウさん。

 カルナス君は涙を手でぬぐい、シロウさんを見た。


「うん……兄様を信じる!僕、何も出来ないけど……これから、頑張るから……!」


 その瞳には、強い意思が宿っているように感じた。

 まだ幼いのに、この体験がこの子を強くしたんだろう。


「まぁ任せとけって。シロウは必ず守ってみせるさ」

「だから、良い子で待ってるんだよ?」

「うん!」


 凄く良い笑顔を見せてくれるカルナス君の頭に、私も手を置く。


「わっ……」


 アーネストのように力強く撫でるのではなく、その柔らかな髪に沿うように撫でる。

 カルナス君は猫のように気持ちよさそうに目を瞑った。


「ぐっ……羨ましい……」

「え?」


 思わず私は声が出てシロウさんを見てしまう。


「あ、い、いや!なんでもない!」


 顔を真っ赤にしてそっぽを向くシロウさんに、私は頭にクエッションマークが浮かんでいる。


「ぶはっ……天然もほどほどにしとけよ蓮華」


 一体何がだよと聞きたい。

 それから、カルナス君を残し、私達は結界から出る。


「よし、とりあえず一つは目的を達したな」

「だね。転移魔法でフォースに運んだ方が良い気もするけど……」

「敵にその時点でバレちまうし、シロウの両親を助けるまでは得策じゃねぇな。さっきの庭で倒した悪魔達で、いずれバレるだろうけどよ」


 その少しの時間を、稼いだ方が良いって事だね。


「それじゃ、次は御両親の元に行こう。とりあえずは寝室かな?」

「だな。シロウ、頼……」


 アーネストが言い終える前に、外からこの部屋へと中に入ってくる気配を感じ、私達は武器へと手を添える。

 シロウさんは私達の後ろへと下がった。良い対応だ。

 そうして待つ事少し、扉が開いて中に入ってきたのは


「あら、もう来たんですね会長、それに蓮華さん」


 アリシアの姿ではない、本来の妖艶な悪魔の姿をしたアスモだった。

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