199話.中央棟へ
「はぁぁっ!!」
風のような速さで、アーネストは悪魔達を斬り伏せて行く。
悪魔達は基本的に光属性に対して耐性が著しく低い。これは種族的な物らしい。
だからアーネストはネセルには光属性の魔術でエンチャントを掛けている。その為、斬撃と光属性のダブルパンチで効果は抜群だ。
「「グァァァッ!!」」
城内に居た悪魔達は、私達の強さが分かって及び腰になっている。じりじりと後退していくが、逃がさない。
他の悪魔達に伝えさせるわけにはいかない。
「フッ……!」
一刀の元に体を分断する。
「ガハァァァッ!!」
「バカ、ナ……!」
戦いが始まると同時に小範囲の防音結界を張ったので、外に戦いの音は伝わらないはずだ。
勿論気付かれるのは時間の問題だとしても、その時間を少しでも稼げるならそれで良い。
「アーネスト、残りは一気に終わらせるぞ」
「おお、準備運動にはなったな!そんじゃ、撃つぜ蓮華!」
「ああ!『地斬疾空牙』!」
「『二刀疾空・連装牙』!」
私とアーネストの得意技、地を這う疾空の刃を飛ばし、悪魔達をその衝撃破で薙ぎ払う。
「グ、グウゥッ!」
生き残った一体の悪魔が、空へと逃げようとする。
「蓮華っ!」
「ソウル、ガンモードだ」
刀のソウルを、銃へと変化させる。
「逃がさないよ。さよならだっ!」
引き金を引くと、バンッという音と共に、悪魔の心臓を背中から射貫く。
「ガッ!?ァァッ……」
悪魔はそのまま地面へと落ち、倒れた。
「ギリギリ結界の範囲内だったから、音は出てないはず。これで全部かなアーネスト?」
「おう、意外と弱かったな。こんな程度の奴らなら楽勝だぜ」
「油断はするなよ?こいつらが弱かっただけかもしれないし」
「ああ、分かってるさ。それより蓮華、俺のスマホに送ってくれ。もう大丈夫だってな」
「了解」
スマホを操作し、アーネストのスマホへとメッセージを送ろうとして……魔力波が飛んでくるのを察知した。
「避けろアーネスト!」
「おおっ!」
咄嗟に横に飛んで、回避する。
私達の居た場所には焦げた跡が出来ていた。
「やるな。戦いの終った後の少しの油断をついたつもりだったが……」
コッコッという足音と共に姿を現したのは、下半身は馬、上半身は人間……恐らく、ケンタウロスという種族だ。
「我が名はブエル。ソロモン72柱の序列十位の大悪魔である。たった二人でこの城に攻めに来たのには敬意を表するが、下手に力を持ったが故に長生きできぬぞ」
二人、という事はシロウさんは気付かれていないのか。
なら乗っかるとしよう。
「その言葉、そっくりそのまま返すぜ?お前程度の力じゃ俺達にゃ勝てねぇよ」
「雑兵を倒したからと調子に乗らぬ事だ。我の力はその雑兵達とは格が違う」
「そうかよ?なら、相手してやるぜ!」
どうやら、アーネストがヤル気みたいだ。
うーん、ブエルって言ったっけ。あいつから感じる力は、以前の私達なら強いと思ったかもしれないけど。
今のアーネストなら余裕だと思う。
「アーネスト、1分以内で片付けなかったら罰ゲームな?」
「げっ……遊ぶの見透かされてたか?」
「当たり前だろ」
「しゃーねぇなぁ。すまねぇな、名前忘れたけど、お前の相手は長くできねぇみてぇだ」
アーネストはネセルを構え、不敵に笑ってそう言う。私から見ても、アーネストに隙は一切ない。
「どこまでも愚弄しおって……!良いだろう、まずは貴様から血祭にあげてくれるっ!『ヘルランスドアロー』!!」
先程私達に撃った魔法と同じだろう。槍のような魔力を弓として撃ってきている。
だけど、さっきは不意打ちだったから避けただけであって、あんな真正面から撃ったらねぇ。
「甘めぇよっ!」
アーネストの切り払いで、放たれた矢は消滅する。
「ば、バカなっ!?」
驚いているブエルの元へと、アーネストは一瞬で詰め寄る。
「!?」
「そらよっ!」
長剣であるネセルを鞭のようにしならせ、クロスに斬り捨てる。
大きな体格をしていたブエルはニ刀の元に分断された。
「がはぁぁぁっ!そん、な!?体が、再生、しない、だとぉ!?ど、どう、してぇぇ……!?」
「お前ら悪魔って、不死に近い能力持ってるからって油断しすぎなんだよ。そんなもん無効化されちまったら、どうしようもねぇだろ?」
「そ、そんな事が出来る者、など……ま、まさか……き、さま、いや……貴方様、は……!?」
「あー、今お前が思った奴は勘違いだってだけ言っとくぜ。じゃーな」
アーネストがとどめの一撃を繰り出し、ブエルは完全に消滅した。
「お疲れ。私なんにも出来なかったな」
「お前がしても一緒だっての。それじゃ、中断されちまったけど、もう一度シロウへ連絡頼むぜ」
「了解」
そうして、今度はちゃんとメッセージを送り、シロウさんと合流した。
倒れていた悪魔達をそのままにするのもアレなので、ソウルで吸収させた。
ソウルイーターという名の如く、魂をエネルギーとして吸収出来るのだ。ただし、死体に限るという使い勝手が悪い性質なんだけど。
それからシロウさんの案内の元、中央棟へと進む。
途中悪魔達の邪魔が入るかと思ったけれど、最初に囲まれていた時以外戦いになる事はなかった。
楽だから良いんだけど、何かが引っ掛かる。
そうして中央棟の入口へと辿り着いた。
「門番が居るね。認識阻害を掛けていても、流石に扉を開けたら気付かれるよ。どうする?」
「決まってんだろ?気付かれないまま近づいて、後ろから一気に落とすんだよ!」
「……まぁ、敵だし良いんだけど、結構エグイ事言ってるからなアーネスト」
「そのつもりは薄いかもしんねぇけど、これはもう戦争なんだぜ?たまの取り合いなんだ、躊躇してこっちがやられるわけにゃいかねぇだろ」
茶化すつもりで言ったけれど、アーネストは真剣だった。
そうだな、時と場合を考えないとだな、反省。
「よし、シロウさんは合図するまでここで待っててね」
「分かった。お願いするよ二人とも」
「おう」
「うん」
そうして堂々と歩いて門番の所まで近づく。
隣に立っても微動だにしない門番の二人の背後に立つ。
「「そぉいっ!」」
「「がっ!?」」
ドタッドタッと二人が倒れる。この二人は元は人間だから殺さずに気絶させておいた。
シロウさんに向かって手を振り、大丈夫だと知らせる。
「よし、それじゃここからだな。アリスからは……まだ連絡はねぇか。しゃぁねぇ、とりあえず行けるところまで行くぞ」
「そうだな。シロウさん、ここからは敵の本拠地だ。一応防御魔法を掛けておくけど、出来るだけ自分でも気を付けて」
「わ、分かった。それじゃ、ついてきてくれ。俺は隠し通路をたくさん知ってるから、正規の道で行かなくても大丈夫なんだ」
「お前、結構わんぱくだったな?」
アーネストの言葉に、シロウさんは苦笑する。
人生何がどこで役に立つか分からないよね。