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197話.想定外

「なん、だと……?」


 手に持っていたグラスが地面へと落ち、パリンという音と共に割れる。

 サタン、もといシャイターンに報告をした部下は、その様子を震えながら見ていた。


「『魔素集中・六芒星の陣』の媒介には、もしもの為にと選りすぐりの者を配置しておいた。リンデンの街には上魔エグエストが守護に当たっていたはずだ。奴は何をしていた?まさか酒でも飲んでいたのではあるまいな?」

「そ、それが、邪眼の報告では、その……」


 シャイターンに問われ、報告に上がった事を告げようにも、口が震える。こんな事、自分でも信じられないのだ。

 それを伝えて信じてもらえるとは思えなかった。


「構わん、話せ」

「ハ……。その、ワンパン、だったと」

「は……?」

「空から落ちてきた少女がパンチを繰り出し、エグエスト様の体は四散。そして魔術媒介であった像もワンパンで木っ端微塵になり……そのまま街の外へと駆けて行った、と……」

「……」


 開いた口が塞がらないシャイターンの元に、新たな部下が駆けてきた。


「ほ、報告致します!エクエルの街の邪心像、破壊されました!守護に当たっていたヌエドリ様は、ワンパンで消されてしまいました……!」

「……リンデンとエクエルは隣街というわけではないぞ?あのユグドラシルの化身である蓮華に、アーネストは王城へとまっすぐ向かっているのを魔力で感知しているから違う……なら、一体何者が……」


 シャイターンが悩んでいる間に、更に部下が駆けてきた。


「シャイターン様!ご報告に上がりました!」

「ええい!また邪心像が破壊されたのか!?」

「い、いえ!その……」

「みーつけた♪案内ご苦労様、ていやっ!」

「ごふぅ!!」

「なっ……」


 部下の後ろから現れた少女により、部下は壁際へと飛んで行った。壁にぶつかり、そのままずるりと体を横たえる。死んではいないが、意識は当分戻らないであろう。


「城とは反対側に拠点を作っておいたんだねぇ。せっかく壊したのに、また配置されても困るから、原点潰しに来たよん」

「あ、貴女は……精霊女神、アリスティア様……」

「そういう貴方はサタンだったっけ?色んな顔持ってるから、どれが本物の顔か分からないけど……今回の事にも、君は手を貸してるんだよね?」

「……」


 アリスティアからの問いに、シャイターンは応えない。けれど、それがアリスティアには答えになっていた。


「今までは別に私には関係ないかなって見過ごしてあげてたんだけどね。ちょっとこっちも色々とあってね?そろそろ、潰しちゃおっかなって思って」

「っ!?」


 アリスティアの身から、凄まじい魔力が吹き荒れる。自身の内側に完璧に封じ込んでいた女神の力。

 それを解放したのだ。女神の力は肉体とは関係なく、魂の力として存在している。

 以前のアストラルボディでは体が耐えられず、マーガリンの魔道具によって力を調節していた。

 それですら、全体の十分の一にも満たない強さだった。

 けれど、今は違う。

 蓮華とマーガリン、リヴァルにもう一人の自分。本来ありえなかった存在の力を借りる事で、今のアリスティアは精霊女神であった頃の力に限りなく近い力を出す事が出来るようになった。

 それはつまり、神々の中でも最上位に近い神達と、同レベルだと言う事。


「ま、さか……貴女様は、力を失ったはずでは……!」

「うん、それは情報が古いね。今の私は、新アリスティアだからねっ!」


 気持ちの良いくらいハキハキとそう言うアリスティアに、シャイターンは眩暈を覚える。

 神界最強と言わしめた女神ユグドラシル。その親友である彼女の強さは、かのユグドラシルでさえ敵に回したくないと公言していたのだ。

 その彼女が、今自身の敵としてここに居る。それは絶望でしかなかった。


「抵抗しても無意味なのは分かっているが、一つ聞きたい」

「なぁに?冥途の土産に答えてあげるね」


 アリスティアはマーガリンから受け取っている魔道具、『ブレスレットウェポン』に魔力を通し、巨大なハンマーを出現させる。

 小柄な少女には不釣り合いなほど大きなハンマーを、軽々と振り回している。

 強力な魔力を操るアリスティアには、およそ1トンの重さであるハンマーも全く重さを感じない。

 それを見てシャイターンは諦めの表情になった。


「どうして女神である貴女が、地下世界の事に干渉を?神々からしたら、この地下世界など、数ある世界の一つでしかないでしょう」

「んー、この世界だからってわけじゃないよ」


 シャイターンの質問に、アリスティアはハッキリと答える。


「この世界には、私の大切な家族が居る。だから、その家族に手を出す奴は、皆ぶっ潰す事に決めたんだ♪」

「それは……ふむ、成程。この世界の為ではなく、その家族の為、と」

「そういう事!」


 シャイターンは腕を組んで考える。アリスティアの考えを理解し、思案する。


「分かりました。私共はここで退きましょう。神々に弓を引くつもりはありません」

「うーん、君がサタンじゃなかったら、それで良いって言ったけどね?」

「ククッ……成程。では、私も最後まで抵抗……」

「ほいっと」


 アリスティアが音速よりも速くハンマーを振るい、シャイターンの体が弾け飛ぶ。

 肉体が四散……ではなく、地面に残されたのは人形だった。


「やっぱり身代わりの呪い人形かー。まったく、本体は魔界かな?とりあえず、この基地ぶちこわーす!」


 主の居ない拠点を、アリスティアはそのハンマーで破壊していく。


「ふふ、ゲイオスが居たらお前が破壊神だって言われそうだなぁ」


 今は居ない友を想い、ハンマーを振るいながら笑みを浮かべるアリスティアだった。

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