196話.ステータス倍増結界
王国フォースの国境を越えて、サンスリー王国内へと空から入って少し。
所々にある街から、魔力が川のように流れて城へと向かっているのが分かった。
「あちゃー、面倒な結界使ってるなぁ」
アリス姉さんの呟きに、アーネストと顔を見合わせる。
「ねぇアリス姉さん。それってもしかして、街から川のように流れてる魔力と関係ある?」
「!!」
アリス姉さんが驚いた表情をした後に、何か納得したような顔つきになった。
「そっか、蓮華さんはもう、こういうのも視えるんだね。って事は、アーくんも?」
「ああ、俺も視えるぜ。三つ、いや六つの街からか。魔力が流れて行ってんよな?これの合わさってる場所が、王城じゃねぇの?」
アーネストの言葉に、アリス姉さんは頷く。
「そうだよ。大魔術結界が張られてるみたいだね。恐らく、王城に居る悪魔達の能力を大幅にアップするタイプの」
「つまり、ステータス倍増結界って事だね!」
「蓮華ぇ……」
私のネーミングセンスがさっぱりって事くらい承知してるけど、お前だってそうなんだから、そんな目で見るな。
「あ、あはは。まぁ名前なんてなんでも良いんだけど、このまま王城に行くのは不味いかな」
そんなー。分かりやすいって大事だと思うんだけど。
「場所はアーくんの言う通り六か所。それぞれに多分魔術の媒介になる物が設置されてると思う。まずはそれを破壊しに行った方が良いね。回り道のようだけど、それが結果的に早道になると思う」
「了解だよアリス姉さん。それじゃ、手分けして……」
「あ、ううん。蓮華さんとアーくんはこのまままっすぐ王城へ行って良いよ。私が全部壊してくるから!」
「「え」」
「この手の結界は、一つ壊せば効力が落ちてくタイプのはずだよ。だから、私が街に行って壊してる間に、蓮華さんとアーくんは城へ行ってて。でも、交戦は私が許可するまで避ける事。分かった?」
「はぁ、言っても聞かないだろうからねアリス姉さんは」
「だな。お前とそっくりだぜ」
「そうかな?」
「ああ、こうと決めたら曲げねぇ所はそっくりだ」
「そっか。アリス姉さんと似てるなら、嬉しいな」
「また蓮華さんが天然を発動するー!」
「天然!?」
「ははっ!それじゃ、任せるぜアリス。俺達はこのまま城へ行く。シロウ、城についたら案内は頼むぜ」
「分かりました、任せてください!」
私達はアリス姉さんと別れ、そのまま城へと飛ぶ。
アリス姉さんはすぐ近くの街へと降りて行った。
「二人は、あの方を信頼しているのですね」
「「?」」
突然、シロウさんがそんな事を言うので、私達はきょとんとしてしまう。
「見た目だけで言えば、あの方は可憐な少女です。その身から感じる強さも、二人ほど感じませんでした。大結界ともなれば、それを守る守護者も居るはずです。なのに、お二人は心配を欠片もしていないので……」
成程、アリス姉さんの強さを知らなければ、確かにそう思うのも無理はない。
「あー、俺達の事をアリスより強いって思うのは、俺達がまだ未熟なせいだな」
「だね。アリス姉さんは、力を完璧に抑え込んでるんだ。だから、普通に見たらただの少女にしか見えないんだよ」
「え?」
シロウさんが驚いた表情に変わったけれど、そのまま話を続ける。
「アリス姉さんは、私達より強いよ。私達も大分強くなったけど、それでも多分まだ追い抜いてはいないと思う」
「だな。実際戦ったら分かんねぇ部分はあるけどさ。経験の差もあると思うぜ。アリスは女神だしな」
「女神、様!?」
アーネストの言葉に、シロウさんは空いた口が塞がらなくなっていた。
私はクスクスと笑いながら続ける。
「だから、心配は要らないよ。私達はアリス姉さんを信じて、私達の出来る事をすれば良い。アリス姉さんなら必ず成功する。それこそ、その辺を散歩するくらい簡単に……」
と言い終わる前に、凄まじい爆発音が近くから聞こえた。
アーネストと目配せをしてから、スマホを起動させる。そこには、アリス姉さんから信じられない言葉が届いていた。
『一つ目破壊完了♪次に行ってくるねー!二人も速く行かないと追い抜いちゃうかも!それじゃ、次にいっくよー!』
「早いよ!?」
「はぇぇっ!?」
「ど、どうしたんですか?」
私達が急に声を上げたので、シロウさんが驚いて聞いてきた。
「えっと、今話してたアリス姉さんなんだけど……」
「もう、一個目壊したんだとさ……」
「え……えええええっ!?い、今ですよね行ったの!?」
「ああ。だからとんでもねぇ奴なんだって、アリスは……」
アーネストが呆れ顔でそう言うのを、私は苦笑して見ていた。するとその先に、砂埃を上げながら駆けている人を見つける。
「おいアーネスト、あれ……」
「なんだ蓮華?……アリスか、あれ」
「うん、こっちに手を振りながら走ってる。飛ぶより速いってどういう事だよ……」
「そういや、いつも忘れそうになるけど、アリスも兄貴や母さんと同種の存在なんだよな……」
「まったくアリス姉さんは……おちおち話してたら、先きに王城に辿り着かれて、なにしてたんだよぅとか言われかねないな」
「はは!違げぇねぇな。よし、行くぞ蓮華、シロウ!」
「ああ!」
「は、はいっ!」
私達は城へ向けて飛ぶのを再開する。アリス姉さんは六つの街を円を描くように巡るつもりだろう。流石に私達より速いなんて事はないだろうけど、アリス姉さんだからね……絶対は言いきれない。
向こうの悪魔も、今頃慌ててるんじゃないかなぁ。