41.カレンとアニス
というわけで、私は今王都・フォースの騎士の訓練場に居る。
なんでこんな場所に居るかって?
例のごとく認識阻害魔法を掛け忘れて、ポータルで移動した途端騒ぎになって、騎士の皆さんがここまで連れてきてくれたからです、まる。
私のアホォ……!
ま、まぁ過ぎた事は仕方ない。
辺りを見回す。
皆真剣に訓練しているのが分かる。
あれ?あの人。
近づいて見る。
ザワッ……!
「ちょっと良い?」
話しかける。
「え!?れ、蓮華様!?」
「ちょっと失礼」
二の腕をちょっと強く触る。
カランカランッ
武器を落とす騎士の彼。
「っ!?」
やっぱりな。
怪我というか、骨が逝ってるなコレは。
訓練していたら、割とある事だ。
「『ヒーリング』」
白色の優しい光と共に、魔法が発動する。
「……よし、まだ痛い?」
手を動かす彼。
「いた……くない……!れ、蓮華様、ありがとうございます!!」
「ん、どう致しまして。剣の振り方から、どこか痛めてる気がしてね。訓練に必死なのは良い事だけど、無茶をするのは良くないよ?」
「は、はい!すみませんでした、蓮華様!」
「分かったなら良いよ。頑張ってね」
笑顔で言って、手を振って元の位置へ戻る。
皆真剣に訓練をしている。
中には目を見張る模擬戦をしている者達も居るし、全体的にレベルが高いような気がする。
前回来た時、ここまでじゃなかったような……そこへ、聞いた事のある声が響く。
「これより20分の休憩とする!各自、体を解し、水分を補給なさい!休憩後、今度は相手を一巡変えて行う事、良いですね!」
「「「「ハハッ!!」」」」
うん、凄い統率力だ。
やっぱり皆を指揮している姿を見ると恰好良いじゃないか。
って思ってたら。
「「蓮華お姉様ぁぁぁぁっ!!」」
走り寄ってきて、抱きつかれた。
いや、ほんの数秒前までの凛々しさはどこ行ったんですかねぇ!
「蓮華お姉様とお会いできない時間を、一日千秋の想いでお待ちしておりましたぁ!!」
重い、重いよ!そんなに長い間経ってないよまだ!
「蓮華お姉様、お会い、したかった、です!」
はぁ、この姉妹は、なんでこんなに変わってしまったのか。
まったく、出会いは悪かったのに、可愛くなっちゃってまぁ。
「と、とりあえず離れてくれるかな?話がこのままじゃしにくいから、ホント」
と言ったら、恥ずかしそうに離れる二人。
いやね、恥ずかしいならしないでくれると有難いんだけどね?
「それで蓮華お姉様、今日はどのような事でこちらへ?」
「私達で、お力になれる事、ですか?」
二人が聞いてくる。
元々はオーブの祠の元へ、また案内して貰えるか聞くだけだったんだけど。
この際だし、大精霊の事や、家の事を話してみるか。
でも、ここで言える内容じゃないな。
「うん、でもここじゃちょっと。私と二人以外に聞かれない場所はあるかな?」
その言葉に。
「「お任せください」」
と言ってくれる二人に、頼もしさを覚える。
カレンが騎士達の方を向き、声を掛ける。
「ローガン、こちらへ来なさい」
「ハッ!」
ローガンと呼ばれた人が、こちらへ走ってくる。
おお、でかい。
身長2mはあるんじゃなかろうか。
筋肉も凄い。普通に強そうだ。
「なんでございましょうか、カレン様」
そんな彼が、カレンに敬語だ。
やっぱり、立場って凄いんだな。
「ローガン、私達は少しの間、離れます。ここを任せますが、大丈夫ですね?」
「ハッ!お任せください!」
「という事です蓮華様。ここはローガンに任せますので、私達は移動しましょう。こちらへついてきて頂けますか?」
と言うので。
「ん、了解。ローガンさん、ごめんね」
カレンとアニスを少し借りるので、そう謝罪しておいた。
「と、とんでもございません!蓮華様のお頼みでしたら、我々騎士一同も、どんな事でもお力になります!なんなりと、ご命令ください!」
えぇぇ……なんでそんな事になってるの。
少し引いてると、カレンとアニスはうんうんと頷いている。
お・ま・え・た・ち・の・し・わ・ざ・か!
自分の部下達に何してんの!?
これもう洗脳だよね!?
とか考えてたら、両腕をカレンとアニスに組まれてしまった。
「「さぁ、行きましょう蓮華お姉様♪」」
また二人とも凄い良い笑顔だよ。
いや嬉しいんだけど、どうしてこうなった。
そして少し奥の、広い部屋に着いた。
「ここなら、私達以外は立ち入りできませんので、大丈夫です蓮華お姉様」
とカレンが言う。
「蓮華お姉様、お飲み物は何かお好みはありますか?」
とアニスが聞いてくるので。
「あ、じゃぁオレンジジュースで……」
「畏まりました♪」
そういって消えるアニス。
いや、そんな急いで行かなくても良いんだけどね……。
「今日から、私もオレンジジュースが好物になりましたわ蓮華お姉様♪」
なんでだよ。
私は基本冷えてたらなんでも好きなんだけども。
言ってしまうと、凍りだす前の水とかも最高に好きだ。
ちょっと凍ってると、それも口の中にいれて割るのも好きだったり。
話が逸れた。
「それじゃ、アニスが戻ってきたら」
言い切る前に。
「蓮華お姉様、カレンお姉様、オレンジジュースに氷を入れて、おかわりもご用意しておきました。また、クッキーもご用意致しましたので、召し上がってください」
万能メイドじゃないんだから。
この一瞬でよくぞそこまで。
「あ、ありがとうアニス。凄いね」
と思った事を言ったら。
「と、とんでもありません蓮華お姉様……!」
なんて顔を赤らめて言う。
君、もしかしてそっちの毛はないよね?少し心配になるんだけど。
「うぅ、アニス、蓮華お姉様に褒められるなんて、羨ましい」
……もう何も言うまい。
この国の最高戦力であるインペリアルナイトに召使いみたいな事させてるけど、私捕まらないよね?大丈夫だよね?
って不安になったけど、まぁ私達しか居ないなら大丈夫か。
ソファーに座り、飲み物を飲んで(オレンジジュースだけど)一息つく。
「それじゃ、順を追って話すね」
「「はい!」」
良い返事をしてくれる。
そこから、大精霊の事、ユグドラシル領に家を作る事、そして家を作る為にノームの力が借りたい事を伝える。
私の話を黙って聞いていた二人だが、急に。
「蓮華お姉様……私達は、その……」
「蓮華お姉様の、そのお屋敷に、呼んで頂けたり、その、するのでしょうか?」
なんて、不安そうに聞いてくる。
「え?当たり前だけど。っていうか私、現時点で仲良い知り合いなんてそんなに居ないよ?」
言ってて悲しくなるけど。
その言葉に、目に涙を浮かべて
「「やったぁ!!」」
って抱きしめあってる二人。
うん、美少女のそういう姿は眼福だね。
できれば私を含めないでそういうのはやって頂きたい。
見るのが良いんだよ、見られるとか望んでないんだよ!
「それで、時間が取れそうなら協力してもらいたいんだけど……ダメかな?」
ちょっと不安げに聞く。
すると、滅茶苦茶な事を言ってくれる二人。
「蓮華お姉様、例え今から国王が死ぬとしても、私は蓮華お姉様に協力致しますわ」
「はい、カレンお姉様に同じく、です」
おい。
嬉しいけど、それで良いのかインペリアルナイト。
この国大丈夫か。
もう一人のインペリアルナイトであるセシルさんの負担が半端なさそうだな。
この国が何人インペリアルナイト居るのか知らないけど。
「う、うん。流石に国の一大事は国を優先してね、気持ちは嬉しいけど」
「「はぃ」」
そこで悲しそうにするのは如何なものかと。
いやホント気持ちは嬉しいんだけどね。
「それで、建築関係の仕事をしてるって聞いてるけど、当てはあるかな?」
と聞いてみる。
この国の事は、この国に詳しい人に聞くのが一番だろう。
「そう、ですね。いくらか思い当たる人物が居ますわ。蓮華お姉様がお会いすれば、分かるのではないでしょうか」
「虱潰し、です」
二人が言う。
そうなるか。
「よし、なら案内を頼むよ二人とも」
その言葉に。
「「はいっ!お任せください蓮華お姉様!」」
と可愛らしい笑顔で答えてくれる二人だった。




