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193話.重力〇倍の塔の中

 塔に一歩足を踏み入れた瞬間、全身に凄まじい重力がのしかかる。時の世界での生活のお陰で、普段から高密度の魔力を全身に纏っている為、膝をつくなんて事はなかったけれど……例えるなら、塔の外が重力が十倍だとしたら、中は百倍くらいだと感じる。


「おいおい……確かさっき十年って言ってたよな。こん中でも十年特訓してるって事か?」


 アーネストの言葉に頷きながら、周囲を見渡す。

 塔の中だと言うのに、中は外観から見た塔の中の広さとはやはり違う。そんな中で空、それも五十メートルくらい上空だろうか。そこで三つの存在が凄まじい速さで動いているのを見つけた。


「……アーネスト、あそこだ」

「ああ、お前も見つけたか。あれ、カレンとアニスだよな?」

「うん」

「はは、すげぇじゃん。見違えるくらい強くなってねぇか?」

「うん」

「……蓮華?」

「うん」


 私は心底驚いていた。相手はミレニアではなくシャル。ミレニアの腹心で剣聖とまで称される実力の持ち主。

 まだ戦った事はなかったけれど、その実力が凄まじく高い事は分かっていた。

 今見ただけでも、空での体制の整え方、剣閃の鋭さ、魔力の流れ、どれをとっても最高級だ。

 そんなシャルと二対一とはいえ、互角に戦っている。


「「はぁぁっ!」」

「おや、蓮華様にアーネスト様」

「「えっ!?」」

「隙有りですよ」

「「っ!?」」


 地面に二人が叩き付けられ落ちてきた。


「カレン!アニス!」

「っぅ~!?うぅ、油断致しましたわ……」

「うぅ、集中しすぎて周囲が疎かになっておりました……」


 カレンとアニスが立ち上がると、空からゆっくりとシャルが降りてきた。


「ご無沙汰しておりますアリスティア様。それに蓮華様にアーネスト様」


 戦いの後だというのに、汗一つかいていないシャルは、優雅にカーテシーをする。


「そしてカレン、アニス。今回は仕方ない、などと言うつもりはありませんよ?罰として走り込みです」

「「はい!」」


 そうして、二人は塔の端へと走っていく。その際に


「蓮華お姉様、それにアーネスト様。その新しい衣装、とてもよくお似合いですわ」

「はい。また後で、お話したい、です」


 そう言ってくれた。私は二人に手を振ってから、シャルに向き合う。


「ミレニアは上?」

「はい。この結界を維持する為、街の中央にこの塔を建てて、今も魔力で覆っておられます」


 という事は、この世界を維持する為にずっと魔力を……外の世界では時間が経っていなくても、この世界では十年がすでに経っている。

 そんな長い期間、あのミレニアが……!

 私は居ても立っても居られなくなり、上に行く階段を見つけて走りだす。


「あ、おい蓮華!」


 アーネストの制止も振り切り、ミレニアの元へ。今もなお魔力を消費続けて疲労しているであろうミレニアに、何か力になれる事はないかと思って。


「ミレニア!」

「……うん?おお、蓮華ではないか。もう来たのかえ」


 階段を走って駆け上がったその先には、ハンモックに揺られながらジュースを片手に本を読んでいる、なんというか超まったり姿のミレニアが居た。


「ったく、いきなり走りだすなんて何考えてんだよ」


 後ろからアーネストにアリス姉さんが追いついてきた。その後ミレニアへと視線を移し、呆れた表情になった。


「なんつーか、予想を超えてるな」

「うん、焦って損したよ」


 心からそう思った。だって、母さんがあんなに疲労困憊になったから。だからきっと、ミレニアも無茶をしてるんじゃないかと心配したんだ。


「なんじゃ、妾を心配したのかえ?随分と大きくなったものじゃなぁ」


 そう笑って言うミレニアに、頬が熱くなるのを感じた。そうだ、私は何を心配していたのか。


「ククッ、冗談じゃ。妾はこの強さ故な、心配などされた事がなかったでな。お主の気持ちは嬉しく思うぞ?ありがとうな蓮華や」


 ぐぅ、その笑顔は反則だと思うんだ。美人って得だよね、大抵の事なら笑って許されちゃうんだから。


「拗ねるな拗ねるな。それで、状況を見に来たのじゃろうが……魔界海から来る魔物達に対する力は、この街の者達を中心に任せるがよい。お主達はサンスリー王国に侵入し、首謀者を討ち取ってまいれ」


 そうか、ミレニアは魔界海から大量魔物達が近づいてきているのに対抗する為に、多くの人を強くしようとしたのか。確かに強者が守るにしても、やはり少なければ対処が追いつかなくなる。


「流石だねミレニア。カレンとアニスも凄く強くなっていたし、これなら安心して任せられるよ」

「うむ、あ奴らはお主に追いつきたいと、必死に頑張っておる。その想い故に、妾も気に入っておってな。そのうち妾の眷属にしてやろうかと思案中じゃ」

「眷属!?」

「妾の眷属になれば、人の垣根を超えられるでな。本人達が望まねば、無理強いをするつもりはない故、安心せよ。しかし、あ奴らが望んだ場合……クク、楽しみじゃな」


 吸血鬼は血を魔力として取り込む媒体で飲む。それは人間でいう水のようなもの。ただ、必ず必要になるのはレッサーヴァンパイアと呼ばれる下位の種族であって、上位種は必ずしも血を飲まなくても良いらしい。

 その代わり不老であり、上位種にもなれば不老不死なんだとか。ミレニアはその中でも最上位。その直属の眷属になれるなら、それはもう神と変わらない力を持つのではないだろうか。


「素体は強ければ強いほど良いでな。ま、あ奴らが望むかは分からぬが、望むのであればあ奴らなら妾は良いと考えておる。あ奴らにはまだ言うでないぞ?これでも妾の眷属になりたいという者は後を絶たぬでな、その事を知った者に、あ奴らが害されぬとも限らぬでな。そうする事で妾に殺されると分かっていても、想いは時に理性や知性を奪うでな」


 ミレニアの言葉に、私は頷く。感情って言うのは、人間に限らず制御が難しいものだというのは分かるから。


「ああそうじゃ、お主達がサンスリー王国に行く前に、話がしたいと言っていた者がおったな。名前は忘れた故、シャルに聞いてくるが良い」


 そう言って、もう伝える事は終わったのか視線を本に戻す。


「ミレニア、ありがとう」


 だから、こちらも伝えるべき言葉を伝えて、階段を下りる。

 その際に、ミレニアが軽く微笑んだ事で嬉しくなる単純な私だった。

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