191話.照矢達の帰還
母さんからの情報で、サンスリー王国の総人口は約5億人である事が分かった。
前の世界の総人口が70億人くらいだったと記憶している。そして日本が約1億人くらいだった事を鑑みるに、日本の五倍の人が生活している事になる。
元の世界、その更に日本では、軍人というか自衛隊が30万人居るか居ないかだったような?一度自衛隊に入りたいなんて考えた事があって、調べた時そんな数字だった気がする。まぁ、父さんの知り合いの会社に半ば強制的に入社させられて、断念する事になったんだけれど。
それはともかく、この世界では戦える人が元の世界より圧倒的に多い。だと言うのに、その総人口ですら元の世界より多いんだから、戦争になったら凄まじい被害が出る事は想像に難くない。
照矢君達が帰ってきて、サンスリー王国の話をしてからの、この話題だ。要は、どうやって悪魔達からサンスリー王国を取り戻すかという事。
その為には、やはり悪魔達の先導者を倒すのが一番だろう。
「そのサンスリー王国の住人全てが悪魔に憑りつかれてるンすか?」
「ううん、そういうわけじゃないみたいだよ。だけど、戦争になったら……」
「憑りつかれているか、憑りつかれていないかを判断しながらなんて出来るわけないって事ですね」
照矢君の言葉に頷く。
皆、帰ってきてすぐに自分達が強くなった所を見てもらおうと、嬉しそうな顔をして会ってくれたんだけど、私とアーネストを見た瞬間石化したんだよね。
「ひんひん!化け物がいますぅ!」
「ケイ、落ち着くのじゃ。蓮華とアーネストじゃ」
「!?」
「いやでも、ケイの気持ちもわかンよ。私らが強くなったからかもしンねぇけど、蓮華サンとアーネストサンの力がマジで怖ぇ」
「あ、ああ。俺も、もう戦いたくないな……今戦っても、絶対に殺さ……ゴホンッ!……負けると思う」
んん?照矢君、今物騒な間違え方しなかったかな?
なんて事が最初にあって、それからサンスリー王国の話をした。皆三日という短い期間だったのにも関わらず、かなり強くなったのが肌で感じて分かる。
体の芯から発する生命エネルギーの光が、凄く強くなっている。
「それで、敵の大元は分かってるンすか?」
玲於奈ちゃんの質問に、私はある手紙を取り出す。
「うん、この手紙が教えてくれた。サンスリー王国の王様と王妃様に憑りついている悪魔、イブリース……別名シャイターン。それが、今回の討伐目標だね」
「「「「「!!」」」」」
「その手紙の信憑性はあるのですかー?」
スラリンがもっともな質問をしてきたので、私は頷いて応える。
「うん。だって、この手紙……アスモデウスさんからのものだからね」
「え、それって同じ悪魔からの手紙じゃないですかー?」
そうだね、アスモは有名で、知らない人は少ないくらいの悪魔だ。だけど……
「信じるよ。友達だからね」
「……凄いですね、悪魔を全く疑っていないのが分かります」
「ふっ……お主の負けじゃなスラリン」
「別に勝負なんてしてませんよー。ただ、悪魔の言う事を信じるのは危ないと思っただけですからー」
確かに、これが誰かも分からない悪魔からの手紙なら、信じたりしない。
「アスモデウス……アスモはね、私を助けてくれた。アーネストを鼓舞して、ね。それだけじゃない。ノルンが操られていた時に、私にした事を悔いていて、いつだって力になってくれた。そんな友達を疑うなんて私には出来ない」
「ま、あいつは真面目なとこでは茶化さねぇからな。信じて良いと思うぜ?あと、俺んとこにあった手紙では……母さん、ここで言っても他の奴に盗聴されたりってあるか?」
「大丈夫だよー。私の結界を破れる程の奴で、更にロキの結界を無効化できる奴なら分からないけどー」
うん、それは不可能なんじゃないかな。それを聞いてアーネストも苦笑しながら続ける。
「はは、なら安心だな。えっとな、アリシア……じゃねぇ、アスモデウスは今、敵に潜入してるらしい。んで、サンスリー王国の情報を教えてくれると同時に、自分も今は敵対する事になるって伝えてきたんだ」
「「「「「!!」」」」」
「サンスリー王国の王城へのルートは大きく分けて四つ。東西南北の関所から真っすぐ行くしかない。場内の地図もつけてくれたから、これ見ながら俺と蓮華で別れて侵入するつもりだ」
「凄いっスね。地図があるとか情報筒抜けすぎじゃないスか」
「ああ、こいつはこういう所抜かりがねぇからな。俺も助かってる」
アーネスト、アスモの事ちゃんと認めてるんだよね。なのに、何故それを本人に伝えないんだー!
「どした蓮華?」
「な、なんでもないよ」
「?」
私がプルプルと震えていたら、アーネストが気にして声をかけてきた。そういう気遣いが出来るなら、アスモの気持ちに気付けー!
「変な蓮華だな、まぁいつもの事だけ……いでぇ!?」
「失礼な奴め」
「お前もすぐに手を出すのを止めろよな!?」
「アーネストにだけだよ、特別だ」
「言葉だけ聞いたら良い言葉だけどな!全然嬉しくねぇ特別だな!?」
「あははは!蓮華さん、アーくん、私は面白くて好きだけど、今は話を進めよっか?」
「「はい……」」
アリス姉さんに柔らかく怒られてしまった。
「ってわけでだ、俺と蓮華は城に直行する。んで、照矢達には、その後を頼みてぇんだ」
「後、ですか?」
「ああ。サンスリー王国を助けられても、助けられなくても、魔界海からやってくる魔物達に対応しなきゃならねぇ。その魔物達に、俺と蓮華からの援護はないと思ってくれ」
「「「「「!!」」」」」
「俺達は悪魔を、もしかしたらその中に居る神を相手どらなきゃならねぇ。ぶっちゃけ、そっちにまで手が回らねぇと思う。だから、地上の皆と協力して、守って欲しいんだ。他の世界から来たお前達にこんな事を頼むのは……」
「任せてくださいアーネストさん。俺にこの世界の人達を守るって気持ちは、実はあんまりないんですけど。でも、お世話になった蓮華さん達の為に戦って欲しいって言ってくれるなら、喜んで力を貸しますよ」
「ン、私も兄ちゃんと同意見じゃン」
「うむ、この世界の為ではなく、友の為なら構わぬのじゃ」
「まぁ、ミレイユ様に飛んでくる魔法を防ぐくらいなら、マフラー形態でさせてもらいますけどー」
「そこはちゃんと戦うのじゃ!」
「えー」
スラリンはあー言ってるけど、ちゃんと戦ってくれると思う。それが、短い間の付き合いとはいえ、分かってしまう。
「あー、その目苦手なんですよねぇ。私の事もちっとも疑ってませんよねー」
「うん、勿論」
「うぅ、苦手ですこの人ー。素直すぎるんですー。私には妹様みたいなくせのある人が良いですー」
「どういう意味じゃンこの腹黒スライムが!」
「どーどー玲於奈……!」
相変わらず姦しい異世界からの来訪者達に、笑顔になる。
この戦いが終ったらきっと、皆は帰るだろう。帰る前に、ユグドラシル領のレジャー施設を完成させて、皆で遊びたい。
その為にも、まずはこの問題を片付けないとね。
「そういえば母さん、ミレニアが言ってたのって……」
「フォースだし、気にしなくて良いんじゃないかしら。アーちゃんにレンちゃんが先に城に潜入する事、伝えておいてあげよっか?」
「うん、お願い母さん」
「了解ー。えーと、フォースの国王の回線はっと……」
母さんに話せば簡単に各国の王様に話が通るのって、普通に考えて凄いよね。
通常なら謁見やらなんやら、絶対面倒な手順が要るだろうし。
皆と話し合ってたら、フォースの国王と話が終ったのか、母さんが私達を呼んだ。
「皆、ちょっと事情が変わっちゃったわ。どうやら、フォースでサンスリー王国を救おうと兵を出すつもりみたい」
「え?どういう事?」
「それがね、サンスリー王国から生き延びた、第一王子とその側近がフォースに亡命してきてるみたいなの。それで、助力を願われて受けたみたいなの」
成程……国同士が助け合う、良い事だよね。
「それじゃ、一旦フォースに寄った方が良いかな?」
「そうね。話は通しておいてあげるね」
「ありがとう母さん。それじゃ、早速私達は王都フォースへ行こう!」
こうして、私とアーネストにアリス姉さんと照矢君達で、フォースに向かう事にした。
リヴァルさんは勿論ユグドラシル領に残るけれどね。
「頑張れよ」
そう片手を振りながら言ってくれるリヴァルさんに、笑顔で返す。
「行ってきます!」