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189話.新アリス姉さん

-アスモデウス視点-


「そう、レライエが、ね。下がって頂戴」

「はっ。失礼致しますアスモデウス様」


 部下、というわけではないのだけれど。ソロモンから渡された兵からの報告を受けた。

 レライエは腐ってもソロモンが配下に加えた、特別な悪魔だ。そのレライエを倒すほどの相手となれば……


「蓮華さんか会長、かしらね。エイランドにそこまでの強者は居なかったはず……いえ、最近は地上の者達も力をつけ始めている。昔の固定概念に囚われていたら、足元をすくわれかねないわね」

「お前にしては随分と慎重だな」

「バエル」


 ソロモンが一番最初に配下に加えた悪魔。それがバエルだ。ソロモンの指輪を媒体として契約を交わし、呼び出されればいつでも力を貸す代わりに、ソロモンに望みを叶えて貰ったのだ。

 ソロモンと契約した72の悪魔達はそれぞれ序列があるが、それは力とは関係が無い。ただ単にどの順番で契約を交わしたか、それだけだ。

 私はその中でも序列32、まだ早い方かしらね。ま、今思えばくだらない願いを叶えてもらったものだけれど。


 ソロモンが特に目を掛けていた悪魔が、ベリアル、ビレト、ガープ、そしてアスモダイ事、私だった。

 何をそんなに気に入ったのか分からないけれどね。


 バエルは部屋の椅子に腰かけ、私の方をじっと見てきた。


「何?」

「いや。まさかお前が戻ってくるとは思っていなかったのでな。不思議に思ったのだ」


 私を探るような視線を向けてくるが、生憎とその程度で態度に出る程若くない。いえ若いですよ?間違えました。


「悪魔なんてそんなものでしょう。自分の生きたいように、本能の赴くままに生きるのが私達。そうでしょう?」


 口元を歪め、そう言う私にバエルは安心したように笑った。


「ククッ。そうだな、お前はそういう奴だった。いや、私も悪魔故疑り深い所があってな、許せ。今は大事な時だ、失敗すればいくら私達でも手痛いダメージを負う可能性があるからな」

「バエルは再度契約を?」

「ああ。私はソロモンを気に入っているからな。今回私の願いは無いが、契約により私の力が上がるだけでも利点はある」

「そう。それで、隣国がこの国に攻めてくるようだけど……相手をするの?」

「当然だ。魔界海からの魔物達が来るより先に攻めてくるだろうからな、こちらも準備は整えている。アスモデウス、お前にも出てもらうぞ」

「私に命令しないでくれる?私は貴女と違って、ソロモンの配下ではないの」

「そうだったな。そうだ、もう聞いているとは思うが、もし仮に城が落ちた場合、この地は破壊し手放す。離脱の時間は短い、注意するんだぞ」


 言うだけ言って、バエルは立ち上がり、出て行った。

 そもそも、城が落ちた場合なんて考える時点で、この国を拠点にする気なんてないのだろう。

 なら何故この国を一時的にでも乗っ取ったのか。

 それは恐らく、龍脈が無い国だからだ。龍脈のある地には小細工ができないものね、ソロモン。

 オーガスト、フォース、エイランド。そしてツゥエルヴ、シックガウン、テンコーガ。

 この国家を線で結べば、六芒星のように繋がる。それは、龍脈の力の流れを示している。

 その線で結ばれていない地は、影響を受ける側であり、影響を与える側ではない。よって、魔術的要素を組み込みやすい地になる。


「問題は、地上で何をするつもりなのか……という事ね」


 エイランドを陥落させようとしたのはレライエの独断としても……いえ、単純にサンスリー王国が一番魔界海に近い位置に存在するからかもしれないけれど。

 不確かな情報をリンに持ち帰るわけにはいかない。もっと情報を得なければ。最悪の場合、サンスリー王国に攻めてくる地上の者達と戦う事になるわね。

 はぁ、と溜息を零した後、私は部屋を後にする。

 『ナイトメア』の首領、シャイターンことサタンが来たとの情報が入ったからだ。


「まったく……今すぐにでも殺してやりたいわ」



-アスモデウス視点・了-




「よし、これで……完成だっ!」


 最後のマナを体へと組み込み、アリス姉さんの体がついに完成する。人体の構造と違って、中はマナの集合体だ。

 まぁ、電子の世界だと0と1の集合体だって言うけど、それに近いのかな。


「……まさか本当にできちゃうなんて」


 あれ、母さんが割と本気で驚いている気がするんだけど。


「え、出来ると思ってなかったの母さん?」

「うーん……実を言うと、多分体の維持が出来ずに、マナが分散しちゃうだろうなぁって思ってたの。でも、凄いわ。この体、奇跡のような組み合わせで成り立ってる。きっと、もう一度創れって言われても無理だと思うわ」


 自分でも上手く出来たと思ったけど、母さんをしてそこまで言うのなら、本当に確率の低い挑戦だったのかもしれない。

 リヴァルさんが床に座り込んだ。


「ふぅ……お前、私の昔ながら、凄い度胸だな。一歩間違えればマナが爆発してしまうような体に、針に糸を通すよりも繊細な魔力コントロールが必要な作業だったのに、どんどんとマナを組み合わせていくんだからな。驚いたが止める暇も無いスピードだったしな」


 あはは、フォローしてくれる人達が凄く頼りになるから、不安なんて無かったのが大きいかもしれない。


「後は、私がこの体に魂を移せば終わりだね!」

「簡単に言うけど、大丈夫なの?魂って、そんなポンポン移せるものじゃないよね母さん?」

「勿論だよー。でもここにはもう一人本物が居るから、もし仮に失敗しても、戻せるっていう安心感もあるよー」


 そうなんだ、それなら気にせずにやれそうだね。


「ここからは私の出番は無いよね。アリス姉さん、全力で良い体を創ったからね。後は、馴染んでくれたら良いな」

「蓮華さん……うん!それじゃ、マーガリン、リヴァルちゃん、私!やっちゃって!」


 アリス姉さんがとても良い笑顔で言うのを、皆しっかりとした表情で頷く。

 皆アリス姉さんの力になりたくて、全力で取り組んできた。

 その最後の仕上げだ。これが成功すれば、これからはアリス姉さんも魔界へと行けるようになる。

 頼んだよ母さん、リヴァルさん、アリス姉さん!


 私は手を合わせ、成功するように願う。アリス姉さんと、新たに創られたアリス姉さんの体が合わさっていく。

 母さんとリヴァルさんが両手をかざしてアリス姉さんの全身を魔力で包みこんでいる。

 小さなもう一人のアリス姉さんは、アリス姉さんの体に手を合わせて、ゆっくりとマナの波長を合わせていた。


 神々しい光がアリス姉さんの全身を包み、二つの体が一つになった。

 しばらく見守っていると、アリス姉さんが目を開ける。


「おぉー……この体、違和感全くないよ!軽い軽い!」


 なんて、笑顔で言う。


「アリス姉さん!」

「わぷっ!蓮華さん、マーガリン、リヴァルちゃん!それにもう一人の私!ありがとね!」


 こうして、アリス姉さんの体の改造が終わった。

 しかも、魔力の出力は以前の体よりアップしていて、生前の力にかなり近づけたらしい。

 今までも手が付けられない強さだったのに、それは……。


「えへへ、これで蓮華さんの力になれるねっ!」


 なんて笑顔で嬉しい事を言ってくれるから、まぁいっかと深く考えない事にした。


「それじゃ、アーくんの所へ行くよ蓮華さん!」

「え?なんで?」

「勿論、新しくなった私を見てもらうんだよー!」


 ……見た目、一緒なんだけれど。勿論中身は凄く変わったんだけども。


「あはは、分かったよ」


 まぁ、アリス姉さんの嬉しそうな姿を見て、水を差すのもあれだよね。

 そうして寝ているアーネストの上から、ジャンプして飛び乗るアリス姉さん。呻き声をあげながら起きるアーネストの姿で笑ってしまったのは言うまでもない。


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