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182話.あの日交わして 果たせなかった約束

 アーネストと共にバニラおばあちゃんの魔力を追って城内へと入る。


「この力、アリス姉さん!?それに近くから、とんでもない魔力を感じるぞアーネスト!」

「ああ、分かってるぜ蓮華。でもアリスが行ってくれてんなら、問題ねぇはずだ。それよりも、その場から離れて行ってる魔力があんだろ?」

「うん。そいつが向かってる場所……もしかして、狙いは王様か!?」

「分からねぇけど、急ぐぞ蓮華!」

「ああ!」


 アリス姉さんの位置から離れて行く魔力を追う。そいつはすぐに見つける事ができた。

 緑一色のハンターのような恰好をしていて、背中には大きな弓を、手には巨大な斧を持っていた。


「ほう……防音の結界を施しているというのに、俺を見つけるとは」


 成程……城に入った時の違和感。これだけ外で騒ぎが起きているのに、場内は静かだった。

 それもこいつの仕業か。


「お前が、この騒乱を起こしたのか」

「いかにも。まずは名乗ろう、俺の名はレライエ。公爵の位を有するソロモン72柱の1柱。以後お見知りおきを」


 優雅に礼をするレライエという悪魔。こいつが、王都エイランドを滅ぼし、バニラおばあちゃんを……殺した奴か。


「っ!」


 私は、魔力を隠さず放出する。その怒りを込めて。アーネストも同じ気持ちだろうけれど、私を見て剣から手を放してくれた。


「ありがと、アーネスト」

「お前の方がバニラさんと親しいからな。ここは譲ってやるよ」


 私はソウルを抜き放つ。手加減など、してやるものか。例え今のお前がした事でなくても、お前がした事の報い……バニラおばあちゃんの無念、私が晴らしてやる!


「覚悟しろレライエ。お前を殺す」

「っ!!ははっ!たかが人間が、この公爵位を冠する大悪魔のこの俺を前に、よく言っ……」


 全て言い終わらす前に、その体を一閃する。


「えっ……な……?」


 レライエは自分の身に何が起こったのかも分かっていないのか、上半身が床へと転がった。


「お前、神の怒りを買って生きていけると思うなよ。バニラさんを……大勢の人を殺したお前は、絶対許さないからな」

「ま、待ってくれ!俺はバニラを殺してなど……」

「殺したんだよ、お前は。その報いを受けろ」

「待っ……ぐぁぁぁぁぁっ!!」


 転がっている肉体を、魔法で焼き尽くす。その肉体の塵だって残すものか。

 あの優しいバニラおばあちゃんを、あんな惨たらしい殺し方をしたこいつを、絶対に許すものか。


「……蓮華、行こうぜ。こんな奴の為にお前が気をもむ価値なんてねぇよ。お前は、こいつがこの後殺すかもしれなかった大勢の人達を、救ったんだ。胸を張れよ」

「ああ……さんきゅ、アーネスト」


 後ろ髪を引かれながらも、気持ちを切り替えてアリス姉さんの元へと急ぐ。


「あっこだ蓮華!」

「アリス姉さん!バニラさん!」


 部屋の中に入り、名を叫ぶ。

 バニラおばあちゃんは……良かった、無事だ。でも、その表情は驚きに固まっていた。

 視線をその先に移す。

 するとそこには、あのアリス姉さんと互角に戦う男が居た。


「でぇやぁぁぁっ!!」

「フン……!その落ちた身で、ここまでついてこれたのは褒めてやる!だが、もうお前の動きは見切った!」

「っ!?」


 男の剣を、アリス姉さんは避けきれずに受け、壁に激突する。


「アリス姉さん!」

「やろうっ!」


 私とアーネストは、アリス姉さんの前に出てその男の前に立ち塞がる。


「う……っぅ……蓮華、さん……アー、くん……」


 壁からずるりと地面へと滑り落ち、アリス姉さんが倒れる。

 今すぐにでもアリス姉さんの所へ行きたいが、この男の威圧感がそれをさせない。


「ユグドラシル……!……いや、違う。その身から感じる魂は、ユグドラシルのそれではない。そうか、貴様がアリスティアをたぶらかした張本人か」


 たぶらかす?何を言っているんだこの男は!?


「俺の名はオシリス。貴様ら人間を滅する者の名だ、冥途の土産にするが良い」

「私は蓮華。蓮華=フォン=ユグドラシルだ。お前が人間を滅ぼすと言うのなら、私は……私達は、それを止める!」

「俺はアーネスト=フォン=ユグドラシル!お前の好きにはさせねぇぜ!」


 私とアーネストはオシリスへと構える。オシリスは微動だにせず、こちらを見ている。

 ……強い、それが対峙しているだけで分かる。

 間違いない。こいつは兄さんと同じ、神だ。


「はぁぁぁっ!!」

「おぉっ!」


 アーネストと共に、オシリスへと斬りかかる。研ぎ澄まされた一撃を、オシリスは難なく防いで見せた。


「フン……中々やるな。ゲイオスやレイハルトとも渡り合える力を有する、か。面白い」

「くっ!?」

「うぉっ!?」


 オシリスが切り払うのを、ギリギリ避ける。違う、今までの敵とは段違いに強い。


「このまま戦うのは分が悪いか。ここは退くとしよう。蓮華、それからアーネストと言ったな。その名、覚えておこう」

「あ、待っ……」


 言い終えるより早く、オシリスはこの場から離脱してしまった。


「蓮華さん、アーくん……追っちゃ、駄目……」

「アリス姉さん!」

「アリス!」


 私達はアリス姉さんの元へと駆け寄り、その体を支える。


「あはは、ごめんね。まさかオシリスが絡んでるなんて、思わなかったなぁ……」


 アリス姉さんが辛そうにそう言う。


「アリス姉さん、あいつと知り合いなの?」

「……うん。友達だよ。向こうはもう、そう思ってないみたいだけど、ね……」


 乾いた笑いを見せるアリス姉さんに、胸が締め付けられる。一体どうして……


「破壊神ゲイオス、暴虐神オシリス、邪知神レイハルト……神界で三強神って呼ばれるくらい、有名な勢力だったの。破壊するって事にかけては、他の神の追随を許さないくらい、強い神々」

「そんな神の一人と、友達だったの?」

「えへへ、意外だよね。でもね、神の冠位は、創造神であるイザナミとイザナギから授けられた物でね。その神達の性格を表すものじゃないんだよ。ゲイオスもオシリスも、神の冠位に苦しめられてきた。レイハルトは、ちょっとわかんないけど……ゲイオスもオシリスも、ぶっきらぼうだけど私の話をちゃんと聞いてくれるし、穏やかな日々を過ごせた友達だったの」


 そう、なんだ。でも、ならどうしてアリス姉さんに剣を向けて……。


「だけど、私は……オシリスが引き留めるのを聞かないで、厄災の獣との戦いで命を落とした。ううん、実際は死んでないけど、死んだのと同じようなものだった。長い年月を経て、それを救ってくれたのが、蓮華さん」

「アリス姉さん……」

「オシリスは、私の事を大切な友達だって思ってくれてた。だからこそ、その私を失わせる事になったこの世界を、憎んでるんだと思う」


 アリス姉さんの言う事は分かる。だけど、それはおかしいと思う。


「そんなのおかしいじゃねぇか。なら、今生きてるアリスになんで剣を向けんだよ」


 私が思った事を、アーネストが言ってくれる。そうだ、死んだと思っていたけれど、実は生きていた。

 それを喜ぶ事はあっても、どうして剣を向ける事になるんだ。


「オシリスは、私を残骸だって言ってた。だから、私を元の私と思っていないんだと思う。ただの、残りカスだって思って、その残りカスがまだ世界の為に力を尽くそうとしているのを見て、止められなかった自分を責めて、今の私を殺す事で清算しようと思ってるのかもね……」


 寂しそうに言うアリス姉さんに、かける言葉が見つからない。

 そんな時に、バニラおばあちゃんがパンパンと手を叩いた。


「二人とも、まずはアリスティアちゃんを治療してあげましょう?それに、結界が消えて外の喧噪が聞こえてきたし、私達も対処に当たらないと」


 私は慌てて、アリス姉さんに治癒魔法をかける。その間に、バニラおばあちゃんは語りだした。


「クリスティーヌ……いえ、レライエだったかしら。彼女は、私が騎士団に入る前から居て力を貸してくれていた方でね、すっかり騙されてしまったわ。ごめんなさい……」


 ずっと信じていた人から、裏切られてしまったんだ。バニラおばあちゃんも相当辛いはずだ。この街の警備状況も、何から何まで筒抜けだった事になる。私達が助けにこれなければ、エイランドが滅んだのも分かった気がする。


「悪魔は、ずっと昔から地上に根を張っていたのかもしれないわね。これからは今まで以上に、気を付けないと。私は陛下に伝えてから、街を守る為に出ようと思うの。レンちゃん、アーネスト君、それにアリスティアちゃん。その、言いにくいんだけれど……」


 困ったように言葉がか細くなっていくバニラおばあちゃんに、私とアーネストは微笑みながら伝える。


「力、貸すよバニラおばあちゃん。遠慮しないで」

「そうだぜ。困ったときは遠慮なく言ってくれねぇと、そっちのが困っちまうよ」

「レンちゃん、アーネスト君……!」


 バニラおばあちゃんが感極まったように、口を両手で覆い


「バニラおばあちゃんって呼んでくれるのね……!」


 なんて言うのでずっこけそうになった。


「あはははっ!バニラちゃんって空気読めないよね!」

「あらそう~?だって中々皆の前で呼んでくれないんだから~」


 なんて笑いながらアリス姉さんとバニラおばあちゃんが会話しているのを見て、守れて良かったと安堵する。

 それから明先輩とも合流し、街の復興に手を貸す事にしたのだった。

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