181話.友(アリスティア)
王都エイランドへと辿り着いた後、私は蓮華さんとアーくんと別れ、空から街を見下ろす。
「北区の方に大きな魔力反応が複数、こっちは蓮華さんとアーくんが向かったから大丈夫として、問題は……」
中央区。ううん、これはそれよりも更に中、城内だ。そこから、凄まじい魔力を感じる。隠しているようだけど、全ての魔力を目で見る事ができる私には無駄だ。
急いでそこへ向かう。
「はぁっはぁっ……どうして、貴女が……」
「いえね、昔の友から誘われたのですよ。また、こちらに来ないか、と。ですので、この街を手土産に、戻ろうかと思いまして」
「クリスティーヌ……」
「ふふ、その名は偽名ですバニラ様、いえバニラ。私……いや、俺の名前はレライエ。ソロモン72柱のうちの1柱。性別など我等には無意味なのだが、女だと人の世は色々と生きやすいのでな。もう、その姿を取る必要もない。では、さようならバニラ。今まで仕えたせめてもの恩義で、苦しませずに殺してやろう」
「っ!」
レライエの振るう巨大な斧を、あの細い剣では到底受けられないだろう。私は瞬時に割って入り、その斧を片手で受け止める。
「そぉいっ!」
「何っ!?」
受け止められたレライエは驚愕の表情で私を見る。残念だけど、私にその程度の力では通用しないよ。
「大丈夫?バニラちゃん。ちょっと胸騒ぎがしてね、来たんだけど……危機一髪だったね?」
「アリスティアちゃん……!?」
驚き私を見るバニラちゃんから視線を変え、レライエを睨む。
「さってと、ソロモンがどうとか、気になる事言ってたね?詳しく聞かせてもらおっかな?」
「精霊王、いや精霊女神アリスティア……神界の女神が、地下世界の事に手を出すと?」
「残念、今の私はその冠位を返上してるんだよね。今の私は、ただのアリスティア。その分力も制限受けてるけど、貴方程度に負けないよ?」
私に睨まれ、半歩後ずさるレライエ。こいつは確か、争いを引き起こす事を楽しむ厄介な奴だったかな?ソロモン72柱なんてあんまり興味なかったので、詳しく知らないけど。
「……確かに、いくら俺でも貴女を倒す事は難しい。予定とは違ったが、彼にも助力を願おう。頼む、オシリス」
「フン、アリスティアが出張ってきたなら、仕方ないか」
薄暗い場所から、ゆっくりと歩いてくる。彼は……
「やっぱり、貴方だったんだねオシリス」
「久しいなアリスティア」
感じた凄まじい魔力の出所。それはレライエではなかった。この場に来て、常に近くに感じていた。
冥界の神、オシリス。昔は、私とも仲の良い友達だった。ぶっきらぼうながらも、私の話に耳を傾けてくれた。
袂を分かったのは、ロキの放った厄災の獣を封じる為、マーガリンと一緒に戦う事を決めた時。
オシリスは、放っておけと言った。俺にはロキの気持ちが分かる、と。
だけど私は、ユーちゃんの守った世界を守りたかった。だから、オシリスと口論になり、そのまま出て行った。
「お前は今も、そんな身になり果てても、この世界の為に力を尽くすのか」
その言葉を、冷たい表情で言うオシリス。その感情の無い声が、とても悲しく感じる。
「当然だよ。ユーちゃんの守った世界、壊させやしないんだから」
「そうか。俺はな……お前や友を奪ったこの世界に、愛着などない。ソロモンがこの世界を支配するというのなら、それも良い。それに力を貸してやる事もやぶさかではない」
「どうして、オシリス……!」
オシリスはそのまま、剣を私に抜き放つ。その瞳は、これ以上話すことは無いと語っていた。
「バニラちゃん、後ろに下がって。オシリスは、今の私じゃ抑えきれるか分からないから」
「アリスティアちゃん……分かったわ、邪魔になるのね。気を付けて」
バニラちゃんが後ろに下がったのを見届けて、オシリスの方を見る。
「レライエ、ここは俺に任せておけ。お前は他にやる事があるだろう?」
「ああ、感謝するオシリス。私がバニラの息の根を止められなかったのは業腹だがね」
レライエが去っていくが、今の私にオシリスを制してレライエを止められる余裕は無かった。
「どうしても、やるのオシリス」
だから、最後の確認をする。オシリスは私を見つめたまま、言葉を紡ぐ。
「友の落ちぶれた姿を、これ以上見ていられない。せめて、俺の手で終わらせてやる。俺の友であったアリスティアは、あの時死んだ。その残骸であるお前も、すぐに楽にしてやる」
言葉は、通じない。なら、私もやるしかない。この分からず屋を、説得してみせる!
「……行くよ、オシリス!」
「それは俺の台詞だアリスティア。今、楽にしてやる!」
蓮華さん、アーくん、恐らくこの王都が滅んだ原因はオシリスとレライエ。レライエはともかく、オシリスは簡単に国を亡ぼせる力を持っている。
外の手引きは、まず間違いなくレライエの物。オシリスは、そういう策略は使わないから。
この場から逃げたレライエを、お願い蓮華さん、アーくん。私はオシリスを、なんとしても止めて見せるから……!




