表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

406/713

180話.タイムリープ

 助けて


 そう書かれた時間は、今から八時間も前。丁度母さんが倒れた時間辺りだ。

 もう、間に合うわけがなかった。けれど、行かないわけにはいかない。私とアーネストは、すぐに家を飛び出し、王都エイランドへと向かった。


「そん、な……」


 辿り着いた時には、王都エイランドは炎に包まれていた。

 城は崩れ、街とはもう呼べない、廃墟と化した場所。

 人の気配はないが、多くの魔物の死体が、その場で争いがあった事を示していた。


「一体、どうしてこんな事に……!」

「蓮華!こっちだっ!」


 アーネストに呼ばれ、向かった先。そこには……無残な姿で倒れている、バニラおばあちゃんが、居た。


「バニラ、さん……バニラさんっ!」

「……」

「バニラおばあちゃん……」


 いつも優しい、バニラおばあちゃんが……こんなにあっさり、死んだ。


「蓮華、蘇生魔法は!?」


 アーネストが言うが、駄目なんだ。


「蘇生魔法は、死んですぐじゃないと効果が無いんだアーネスト……もう、時間が経ちすぎてる……」

「そんな……くそがっ!誰だ、こんな事しやがった奴はっ!ぜってぇ許さねぇ……!」


 私達はバニラさんを弔った後、街の生存者を探したが……誰一人、生きている人は居なかった。

 意気消沈として戻った私達を、母さん達は心配そうに出迎えてくれて、話を聞いてくれた。


「そう、そんな事が……。王都エイランドを……ふぅん。……ねぇアーちゃん、レンちゃん。助けたい?」

「「え?」」


 そりゃ、助けられるなら助けたいけど。でも、もう助けられなかったのに……。


「時間的に、丁度私が倒れた頃だね。あの時に気付いていれば、助けられたでしょう?」

「それは……」


 そうだけれど。あの時母さんを看病した時間を、後悔したなんて思わない。勿論、気付けなかったのは悔しいけれど。


「私はね、昨日は時間の調整をずっと行っていたの。だからね、一日程度なら、時間を戻せるよ。私達の今いるこの位置だけを切り取って、時間を移動するの。そうすれば、そのメッセージが来た時間で、助けに行けるよね?」

「「母さん……!」」


 意気消沈していた私達は、身を乗り出して母さんを見る。

 また、頼ってしまう。この事で、母さんに負担をかけてしまう事を分かっているのに。


「アーちゃん、レンちゃん。私はね、二人の力になれる事が嬉しいの。だから、負担になってるだなんて思わないでね?私はね、私がやりたくてやってるんだよ。だから、頼ってくれたら嬉しいな」


 そう優しく微笑む母さんに、私は泣きそうになってしまう。


「な、泣かないでレンちゃん!?母さん、変な事言ったかな!?」

「違う、違うよ母さん……ありがとう母さん」


 そう言ったら、慌てていた母さんもようやく落ち着いてくれた。


「では帳尻合わせをしなければなりませんね。そちらは私が担当しましょう。マーガリンだけに良い格好をさせるわけにはいきませんからね」

「助かるわロキ」


 母さんも兄さんも、当然のように私達の力になってくれる。その事が本当に嬉しかった。


「王都エイランドの陥落かぁ……何かありそうだし、今回は私も一緒に行くよ蓮華さん、アーくん。ただし、別行動でね?」

「うん、分かったよアリス姉さん」

「ああ、心強いぜ」


 そうして、私達は時を遡る。母さんが気絶した、あの時間へと。


「っと、うう、魔力が尽きてるこの感じ。気絶しちゃうから、二人は気にせず行ってね」

「うん、ごめんね母さん、看病できなくて」

「大丈夫だよー、世界の記録はなくなったけれど……私の記憶は無くならないからね。行ってらっしゃい、二人とも」

「うん!」

「ああ!」

「母さんは私が看ておくさ。助けてこい蓮華、アーネスト」

「「はいっ!」」


 そうしてエイランドへと『ポータル』を使って移動する。

 アリス姉さんとはそこで別れて、騒ぎの大きな北区へと飛ぶ。

 そこでは、明先輩が春花ちゃんへと剣を振るっている所だった。


「恐らく、あの奥に居る奴だな。蓮華、俺が明を止める。お前はあいつ頼めるか?」

「了解。あんな惨状を二度とさせるもんか。絶対に守って見せる!」

「おお!行くぜ蓮華!」

「ああ!」


 私達は空から地上へと急降下する。アーネストは明先輩を止める為に、私は奥に居る元凶を倒す為に。


「ぐぅぅ……春花っ……逃げてくれっ……!」

「あははははっ!良いわね、凄く良い。楽しいわ……!さぁ魔物達、隊長が敵になった騎士団なんて脆いでしょう。一気に畳みかけておしまいっ!」

「「「「「グオオオオオッ」」」」」

「くっ……お前達!俺の事は気にするな!斬り捨てて構わないっ!敵の手に落ちた情けない奴なんて、見捨てろっ!」

「そんな!お父さんっ!」

「出来るわけないじゃないですか、隊長!貴方も俺達の尊敬する方なんですよ!」

「よく言った!それでこそ騎士団だぜ!」

「「「「「!?」」」」」



-春花視点-



 空から何か落ちてきた。

 それは、人の形をしていて……煙が晴れて、その姿を見て。


「あ、アーネスト様……!」


 私は、歓声を上げた。我慢なんて、出来るわけなかった。まるで白馬の王子様のように、ヒーローのように、助けに来てくれた。

 お父さんの剣を防ぎながら、こちらを向いて微笑んで言った。


「連絡くれてありがとな春花ちゃん。助けに、来たぜ?蓮華と一緒にな」

「!!」


 見れば、奥に居た千鶴という人が、蓮華様に斬り捨てられ、倒れているのが見えた。嘘、あんなに簡単に……!?あの人、凄く強そうだったのに。


「体が、動く!?」

「お父さんっ!」

「春花っ!」


 私はお父さんに抱きつく。お父さんも抱きしめ返してくれて、その温かさに安堵すると共に、自分の情けなさに涙が出てしまった。


「ごめ、ごめんなさいお父さんっ……私、わたじのせいで……うぇぇぇん……!」

「良いんだ、春花。無事で良かった……。アーネスト、それにレンゲさん。本当にありがとう」

「おう、良いって事よ」

「うん、無事で良かったよ」


 蓮華様は千鶴って人を縄でグルグル巻きにしてから、こちらに引きずってきた。

 綺麗な人が台無しだけど、お父さんを操った人だし同情なんてしない。


「あれ?魔物達は?」

「この人気絶させて、睨んだら一斉に逃げたよ。今はそれより気になる事があるから、無視したけどね」

「気になる事?」

「うん。話は後で。ここは任せていい?私とアーネストはバニラさんの元へ急ぎたいんだ」

「そうか、分かった。この千鶴さえいなければ、もう操られる事なんてないはずだ」

「にしても、お前操られすぎだろ明」

「ぐっ……なんかそういうの無効にできる魔道具ないかなアーネスト」

「はは!また母さんにでも聞いといてやるよ!」

「あはは、頼んだよアーネスト。できれば騎士団全員分欲しいからさ」

「無茶言うなよ!?」


 お父さんとアーネスト様は、冗談なのか本気なのか分からない会話で笑いあっている。

 本当に、良かった。お父さんが無事で。そして……アーネスト様、本当に恰好良かった。


「春花ちゃん、明先輩と一緒に、皆を守ってくれるかな?」


 蓮華様は私を気遣って、そう言ってくれた。本当に、優しい人だよね。


「はいっ!」


 だから、私は笑顔でそれに応える。蓮華様やアーネスト様に、これ以上心配かけられない。


「うん、ありがとう。よし、行くぞアーネスト!」

「おう!それじゃまた後でな明、春花ちゃん!」


 そう言って、お二人は凄いスピードで飛んで行った。ほえぇぇ……人ってあんな簡単に飛べるんだ。


「全く、敵わないな。よし、俺は俺に出来る事をしないとな。皆、アーネストやレンゲさんのお陰で、ここはなんとかなったけど、まだ敵が潜伏してるかもしれない!十分に注意してくれ!」

「「「「「はいっ!」」」」


 それからお父さんの指揮の元、北区の整備が行われた。

 私も、中央区に避難しているミュウちゃん達の元に戻って安心させてあげたいけど、蓮華様に頼まれた事はしっかりやらないと!

 お父さんを、皆を……私を助けてくれて、ありがとうございます蓮華様、アーネスト様。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ