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179話.ピンチ(桜井春花)

 いつもの時間になっても、お父さんが来ない。

 外を見ると、お城の騎士さん達が慌ただしく走っていた。何かあったのかな。


「春花!北の門に魔物が大勢押し寄せてるって!早く中央に避難しましょ!」


 ミュウちゃんがそう言ってくる。きっとお父さんは、それに対処する為に来れなかったんだ。


「……うん。他の皆も一緒に行こうミュウちゃん。私にはバニラ様から預かってる魔道具があるから、もし何かあっても守れると思うから」

「春花……分かった!皆を集めてくるわ!」


 そう言って駆けて行くミュウちゃんを見送った後、スマホを見るとお父さんから連絡が来ていた。

 そこには、今ミュウちゃんから聞いた事と同じ内容が書いてあって、迎えに行けなくてごめん、中央区に避難するようにと書いてあった。

 お父さん……。


「春花!お待たせ!残ってた皆も連れてきたよ!さ、急いで避難しましょ!」

「うん!」


 幸い、まだ魔物達は街中に侵入しておらず、騎士団の方の誘導のお陰で暴動が起きる事もなく、スムーズに皆避難が進んでいる。

 以前街が襲われた事を教訓に、騎士団の方達が訓練を欠かしていなかったのが大きいと思う。

 お父さんも、何かあった時を想定して訓練をしているって言っていたし、それが遺憾なく発揮されていると思う。


「こんな事、前の仮面の奴らの時以来だよね……大丈夫だと良いんだけど……」

「大丈夫だよ、ミュウちゃん。バニラ様や、お父さんの居る騎士団は強いもん」

「そう、だね。うん、ありがと春花」


 不安そうに震えるミュウちゃんを、元気づけるように明るくそう言う。そうだ、戦う力を持たない人達は、どうする事も出来ない。

 なら、私は?私は、戦う力がある。蓮華様やアーネスト様に比べたら、微々たるものかもしれないけど……それでも、今避難している人達よりも。

 お父さんなら、迷わず行くはずだ。


「ミュウちゃん、私行くね」

「春花!?」

「私には戦う力がある。魔物が街の中に侵入しないように、私も……!」

「バニラ様から預かってる魔道具、だよね?それ私でも扱える?」


 きっと、扱えるって言ったら、ミュウちゃんは戦おうとするんだろうな。でも、私が戦えるのは、本当は魔道具の力じゃないから……。


「ううん、これは私にしか使えないようにされてるの……その、悪用されないようにって」


 ごめんなさい、嘘をついて。

 ミュウちゃんは残念そうに、溜息をつきながらも……折れてくれた。


「……はぁ、言っても聞かないだろうから、これだけは言っておくわよ?私は、春花が居なくなったら泣くよ。だから、絶対に生きて帰ってきて。分かった?」


 本当は止めたいのが伝わってくる。私の大切なお友達。


「うん、ミュウちゃん!行ってくるね!」

「ええ、行ってらっしゃい、春花。待ってるからね」


 ミュウちゃんに笑顔を向けて、私は人々と反対方向へと駆けて行く。

 向かうのは北区の門。お父さんや騎士団の方々が魔物を食い止めているだろう場所。

 そこに辿り着いた時に見たのは、すでに門が破壊され、街を覆う壁が粉々に砕かれ……騎士団の方々が倒れている姿だった。

 後方で治癒魔法を受けながら、戦線を維持しようとしている騎士の方を見ながら、お父さんの姿を探す。


「どこ……お父さん……!」

「おおおぉぉっ!」


 破壊された門の前で、ただ一人魔物達を圧倒するその姿。騎士の鎧はボロボロになり、全身傷だらけになりながらも……魔物を抑えているその人は……見間違うはずもない、大好きなお父さんだった。


「お父さんっ!」

「はぁぁっ!……春花!?どうしてここに!」


 魔物を斬り捨て、私の方を向いて驚いた声を上げるお父さん。


「私も、戦えるよ!お父さん!」

「っ!その気持ちは嬉しい!だけど、今すぐ避難するんだ春花!」

「お父さん!?」

「ここには、不味い奴が……くっ!?」


 魔力の弾が、お父さんの頬をかすめる。


「おやおや、余所見とは余裕だな草薙明。まぁ、お前のようなにわか十傑など、俺の手で片付づけてやるさ」

「……俺は十傑になんてなっていない。元より、俺の意思で組したわけじゃない」

「黙れ!同じように街を襲っておきながら、お前は無罪で俺は有罪だと?ふざけやがって……こんな世界、滅ぼしてやるんだよ!」


 何を言っているんでしょうか、この人は。

 お父さんは、操られていただけ。その後、八岐大蛇を倒す為に蓮華様やアーネスト様と共に全力で戦った。

 こんな人と一緒じゃない!


「お父さんを馬鹿にしないで!貴方みたいな思想の人が居るから、安心して暮らせないんです!」

「あぁ?……はは、お前娘が居たのか。なら、お前を殺す前にその娘を殺したら、お前も世界を憎んでくれるよなぁ?」

「阿呆か。そんな事は絶対にさせないけど、そうなって憎むのは世界じゃなくお前だけだ。まぁ、その十傑にすらなれなかったお前に、出来るとは思わないけどな」

「なんだとぉ!?」


 流石お父さんです!あんな小物とは格が違うです!


「クク……!まぁ、結局お前はこの後俺の前に跪く事になると思えば、溜飲が下がるってもんだ。さぁ、やっちまえテメェらっ!」


 あの人が手を振ると同時に、後ろに居た魔物達がお父さん目掛けて突進していく。


「しゃらくさいっ!」


 お父さんはそんな魔物達を一閃する。一撃で倒されていく魔物達を見て、私は歓声を上げてしまう。

 お父さんは本当に強い!私の助けなんて要らなかったかもしれない。

 今も治療を終えた騎士団の方々が、続々と戦線復帰している。


「チッ……テメェは忌まわしいなぁ。学園で生徒会長をしていた時から、気に食わなかったんだ」

「……やはりお前は、学園の者か」

「ああ、そうだよ。俺もお前と同じで『ウロボロス』に攫われて、力を植え付けられた。死んでいく奴らを横目に、俺は耐えた。そして、俺は力を得た。俺だって仕方なく街を襲ったんだぜ?なのに、なんで俺が有罪にならなきゃならねぇ!?」

「お前個人の刑を俺は把握していない。だけど、何をやったかで刑が変わったのは知っている。その後何をしたか、でもな」

「はっ!死体をちょっと弄ったくらいで、俺は地下牢行きでお前は無罪、こんな不公平がまかり通って良いのかよ?」

「その言葉に何も感じないお前のような奴なら、地下牢でも優しいくらいだな」

「んだとぉ!?」


 この人は、絶望的に私とは合わない人だって思います。お父さんなら、こんな人に負けるわけがない。

 なのにどうして、さっきお父さんはあんな事を……


「そこまでだ。この娘の命が惜しければ、剣を捨てろ草薙明」

「!!お前は……」

「チッ、おせぇんだよ十傑様は」

「元、だ。今はただの剛毅だ」

「ええと……これで私を殺せると思ってるんです?」

「何?」

「てぇいっ!」


 私の首元に突き付けられた刃ごと、相手を背負い投げする。


「ぐはぁっ!?」

「ちぇすとぉー!」


 そのまま、鳩尾におもいっきりパンチを食らわせる。


「ごぼぉ……!ば、かな……!?」

「は……?」


 目が点になっているあの人は隙だらけだ。


「お父さん!」

「!!おおっ!」


 私が呼んだら、お父さんはすぐに行動に移した。目の前の人に一瞬で近づき、斬り捨てた。


「ぐぅあぁぁっ!くそっ……くそぉっ……!結局、勝てねぇのかよ……!これじゃ、何の為にこの計画に乗ったのか、分かんねぇ……」


 計画?この魔物の襲撃は、誰かが企んだって事です?


「皆、残りの魔物を頼む!」

「「「ハハッ!」」」


 騎士団の皆さんに指示を出し、お父さんが私の元へと歩いてきた。


「お父さん!」

「春花、お手柄だったな。でも、俺としては安全な場所に居て欲しかったんだよ?」

「ごめんね、お父さん。私も、何かしたかったから……」


 そう伝えたら、お父さんは優しい表情をして、私の頭を撫でてくれる。


「偉いね春花。その気持ちはとっても大事なものだよ。でも、お父さんが春花を心配する気持ちも、分かってくれるね?」

「はい、お父さん」

「「「「「うわぁぁぁっ!!」」」」」

「「!!」」


 そんな風に話していたら、騎士団の皆さんが吹き飛ばされてきた。


「春花、下がるんだ!」


 咄嗟に私の前に出たお父さん。


「残念。庇わなければ少しは抵抗できたでしょうに」

「ぐぅぅっ……やはり、居たか……ウロボロス十傑、魔性の刃、千鶴……!」


 お父さんが気に掛けていたのは、さっきの剛毅っていう人じゃなく、この人……!


「貴方は私の事を知っているものね。警戒されていて当然だったけれど……このお嬢さんのお陰で助かったわ」

「隠蔽系の魔術が多々組み込まれた魔道具を多岐に渡って使い、多くの魔物達を操る……こんな芸当があいつに出来るわけがない、からな……」

「ふふ、貴方ももう私の操り人形だけれど。さぁ、まずは大事な娘さんを殺しなさいな。後で私が使ってあげるから」

「くっ……体が……春花、逃げろっ!」


 お父さんが、私に刃を向ける。私のせいだ、私を庇わなければ、お父さんは……!その時、先程斬られた時に零れ落ちた、バニラ様から貰ったスマホが目に入る。

 確か、あれは直接打たなくても頭の中でもメッセージを送れる。お父さんの攻撃を避けながらでは、詳しい内容を送る事は敵わない。

 だから、簡潔に送った。蓮華様、アーネスト様へ。


「きゃぁぁぁっ!」

「ぐぅぅ……春花っ……逃げてくれっ……!」

「あははははっ!良いわね、凄く良い。楽しいわ……!さぁ魔物達、隊長が敵になった騎士団なんて脆いでしょう。一気に畳みかけておしまいっ!」

「「「「「グオオオオオッ」」」」」

「くっ……お前達!俺の事は気にするな!斬り捨てて構わないっ!敵の手に落ちた情けない奴なんて、見捨てろっ!」

「そんな!お父さんっ!」

「出来るわけないじゃないですか、隊長!貴方も俺達の尊敬する方なんですよ!」

「お前達……」

「あははははっ!」


 私の軽率な行いのせいで、騎士団がピンチになってしまった。

 お父さんに攻撃なんて出来ないし、鋭い攻撃を避けるだけで精一杯。

 千鶴と呼ばれたあの人は、すでに私達と十分な距離があって手が出せない。

 私なんかじゃ、どうする事も出来ない。お父さんと魔物達に攻撃され、防戦一方の私達。このままじゃ……!

 どうか、どうか皆を助けて。アーネスト様、蓮華様……!

 

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