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178話.特訓完了

「うわぉ……アーちゃん、レンちゃん……強くなったわね……」


 開口一番、母さんが驚きの声をあげる。


「素晴らしい……ここまで強くなるとは……」


 あの兄さんですら、本当に驚いていた。私とアーネストは顔を見合わせて笑う。

 尊敬する人達に、素直に褒めてもらえた事が嬉しくて、誇らしくて。


 ちなみに、ノルンとゼロ、タカヒロさんは扉から出てすぐに魔界へと戻った。


「よっしゃぁ!リンスレット、今こそもう一度勝負だっ!」

「ちょ、ちょっとタカヒロ!?ああもう、ゼロ!追うわよ!」

「分かった!それじゃ蓮華姉さん、アーネスト、リヴァルさん、また!」


 そう言ってニ人はタカヒロさんを追うように飛んで行った。『ポータル』使えば良いのに……。でも、あんな嬉しそうなタカヒロさんを見たのは初めてだった。

 それからアーネストとリヴァルさんと共に、家に帰ってきた所だ。


「うそぉ……まるで何年も過酷な修行してきた風格があるよー!?」

「何年っつか、何百年以上してきたよな蓮華……」

「ああ、千年から数えるの止めたけど……」

「正確には千二百年と少しだな」

「「「……」」」


 あ、母さん達が固まった。珍しすぎて思わず笑ってしまった。


「も、もしかして、あの世界でずっと特訓だけしてたの……?」

「そうだけど?」

「そうだよ?」

「……そうだった、この子達根が真面目だった……」

「これは、想像以上に強くなっているやもしれませんね。それはそうと、寝ていなくて大丈夫ですかマーガリン」


 え?どういう事だろう?あの兄さんが珍しくと言ったら失礼だけど、母さんの心配をしてる。


「あの世界を維持する為に、常時尋常じゃない魔力を消費していたのですから。もうあと少しで、流石の貴女も魔力が尽きるでしょう」

「「「!!」」」

「こらロキ!皆の前で言うなんて……!」

「偶には、良いでしょう。ずっと会えなかった子供達から看病を受けるのもね」


 その言葉で、私とアーネスト、それにリヴァルさんまでもが母さんに寄り添った。


「え?え!?」


 戸惑う母さんに、私達はできるだけ優しく声をかける。


「母さん、いつもなんでもない事のように力を貸してくれてありがとう。兄さんの言葉で、母さんが凄く無理をしてくれてたって事に気付けたよ。普通に考えたら、当たり前の事なのに。あんな凄い世界を、代償なく使えるわけがないんだ。それを、母さんや兄さんが凄いからって、普通な事って思ってしまってた。ごめん母さん、ううん……ありがとう、母さん」

「レンちゃん……」


 感謝の意を伝えたら、母さんが瞳を潤ませてしまった。感謝してるのはこっちなのに、母さんが感謝しそうで困ってしまう。


「というわけで、だ。母さんは今から俺達に看病される事に決定だかんな。俺が母さんをベッドまで連れてくから、蓮華とリヴァルさんは病人に食べさせるようなモン作ってやってくれよ」

「それは聞けないなアーネスト。母さんを連れて行くのは私だ!」

「いいや、今回は私が連れて行く。私が増えた事で余計な魔力の消費が増えたはずだ。その礼もしなければならないしな」

「それを言ったら私だって、ノルン達を増やした責任があるよ!」

「待て待て!料理は俺よりお前らの方が上手いんだから、消去法でここは俺がだな!」

「アーネストも料理出来るようになったろ!」

「病人料理といえば、おかゆだろう?それなら私と大差ないものがお前にも作れるはずだよな?」

「そ、それはそうだけどさっ!」


 なんて私達が母さんを囲んで言い合っているのを、兄さんとアリス姉さんは笑って見ていた。

 私達に挟まれてる母さんは、もう幸せいっぱいなのが顔で分かってしまう。


「うう、私今日が命日なの?」

「縁起でもない事言わないでよ母さん……」

「そうだぜ母さん……」

「全くだ」

「うぇぇ……」


 こういう時は息ぴったりな私達に、母さんは驚いた後に笑い出した。


「扉は私が片づけてきましょう。マーガリン、今日はゆっくり休むと良い。貴方のした事はこの私が評価します」

「うぅ、ロキが優しいと怖い」

「ぶはっ!」


 母さんの言葉に、アーネストが吹き出す。私も少し笑ってしまったのを許してほしい。

 兄さんはそんな私達を見て、和らかく微笑んだ後、ドアを開けて出て行った。


「あ、ロキ!私も行くよ!」


 珍しく、アリス姉さんが兄さんについて外へと走って出て行った。


「ふふ、もう。アリスにも気を遣わせちゃったわね。それじゃ、アーちゃん、レンちゃん、リヴァルちゃん……ちょっと、後を任せるね……」

「「「母さんっ!?」」」


 本当にもう限界だったのか、母さんが気を失ってしまった。

 こんな母さんを見るのは、厄災の獣をその身に宿していた時以来で、心配になる。

 私達の為に、相当に無理をしてくれたんだ。いつも、簡単になんでもしてしまう人だから、私は母さんの頑張りに気付けなかった。

 いや、気付いていながら、それを普通の事と考えていたんだ。

 母さんがいくら凄いといっても、母さんだって人なんだ。なんでもできるけれど、それが全て簡単に出来ているわけじゃない。

 私やアーネストの為だから、母さんはそれを顔に出さない。どんな苦労だって、母さんは笑ってしてしまう。そんな人なんだ。


「アーネスト、そっと母さんを運ぼう。リヴァルさん」

「分かった。お前達に任せる。私は魔力回復に効果のある薬膳料理を作っておこう」


 そう言って、リヴァルさんは台所へと向かった。私とアーネストは、母さんを抱き上げ、ベッドへと運ぶ。

 羽のように軽いその体。腕も腰も、触れれば折れてしまいそうな程細い。

 こんなに華奢な体で、私達の事をいつも見守ってくれていたんだ。

 ううん、私達だけじゃない。この地上全てを、見守ってくれている。

 そんな偉大な母さんに、強さだけ追いついても駄目だ。いや強さも追いついてるかわからないけれど……母さんや兄さんのように、私もなれるだろうか。


「よし、これで良いな。今は入ってからもう少しで一日経つってくらいか。母さんがここまで消耗するなんて、よっぽど無茶な世界だったんだな」

「多分、人数のせいもあるんだろうけど……この世界とあの世界の帳尻合わせって言うのかな、それに凄い魔力を使ったんだと思う……」

「ああ、詳しい事は母さんに聞いてみねぇと分かんねぇけど……あの母さんがぶっ倒れる程だかんな……かなり無茶させちまったよな」

「私達はずっと、母さん達から恩を受け続けてる。母さん達に私達がしてあげられた事なんて、それに比べたら小さすぎるよなアーネスト」

「だな。恩返し……いや、親孝行しねぇとな蓮華」

「そうだな、アーネスト」


 アーネストと二人、頷き合う。

 目を瞑った母さんの頬から、一筋の涙が零れた事に、私は気付かなかった。



 翌朝、すっかり元気になった母さんが、台所で料理を作っていた。


「もう大丈夫なの母さん?」

「ええ、勿論!元気さだけが取り柄だからね!」

「そんな事ないと思うけど、母さんが元気だと嬉しいよ。アーネスト起こしてくるね」

「うん、お願いレンちゃん。あとアリスも起こしてくれる?あの子最近すっかり遅くに起きるようになっちゃってるから」

「あはは……」


 アーネストを起こしに二階へと上がり、その後アリス姉さんの部屋に行ったら、寝ぼけたアリス姉さんに抱きしめられ、身動きが取れなくなったりしたけれど。

 皆集まって朝食を終え、これからどうするか話をしようと思っていたところで、また少し放置していたスマホに連絡が入っていた事に気付く。

 以前言われてから、一応気にするようにはなったのだ。

 アーネストも私と同時にスマホを手に取った。


 内容を見て、アーネストと共に顔を見合わせる。

 そこには短く


 助けて


 とあったから。

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