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177話.エイランドの魔の手(草薙明)

あけましておめでとうございます。

今年も宜しくお願い致します。

「レンゲさん、俺達も気になった事があったら、連絡を入れるよ。最近はちょっと物騒な事も起こっているからね」

「物騒な事?」

「明く~ん?」

「あ!い、いや、レンゲさんが気にする事じゃないんだ。それより、新しい大精霊とはもう契約できたのかい?」


 少し前、レンゲさん達と一緒に夕食をした時の事を思い出す。

 あの時、俺はレンゲさんに王都エイランドだけでなく、王国エイランド内で起こっている出来事を伝えようとした。

 けれどバニラ様に止められてしまった。自国の事は、自国でまず解決しようと動く。その意思が弱かった俺は後で反省した。


「それじゃ明くん、今日は冒険者ギルドへ行ってきてね」

「承知致しました」


 敬礼をし、部屋から出ようとしたら、バニラ様に呼び止められた。


「明くん、あの件……被害者がずっと増え続けてる。それに伴って増える魔物達……恐らくだけれど、繋がっていると思うの。冒険者達の力も借りる事になるかもしれないから、頼むわねぇ」


 いつものおっとりとした話し方ではなく、しっかりとした口調でそう言うバニラ様。

 この方は公私をちゃんと分けていて、その分け方が他の人よりも顕著だ。レンゲさん達と居る時だけは、分けられていない気もするけれど……いや、ある意味で分けられているというべきか。


「はい、勿論です。バニラ様も、十分にお気をつけて。これから、出られるのでしょう?」

「ふふ。ありがとう。大丈夫、私は身の程を弁えているから、危なくなったら逃げるわぁ」


 そう言うが、バニラ様は十分に強い。アーネストやレンゲさんのような特殊な人達と比べるからあれだが、そうでなければ最強と言っても過言ではないと思う。

 インペリアルナイトにロイヤルガード。どちらも呼び名こそ違えど、国の守護者と呼ばれる者達。騎士を目指す多くの者達の憧れで、俺もそうだ。

 まさか、ヴィクトリアス学園でその憧れの方達に出会え、こうして同じ職場で働けるなんて想像もしていなかった。

 これも全て、あの日アーネストと出会えたから。俺は親友に心から感謝と、尊敬も同時にしている。

 まぁ、あいつは俺が尊敬してるなんて言ったら気持ち悪ぃって言うのが目に見えているので、言わないけどね。


「はは。それでは、行ってまいります」

「ええ、気を付けてねぇ」


 バニラ様の部屋を後にし、俺は冒険者ギルドへ向かう前に、ユグドラシル社へと足を向ける。

 俺の娘……この世界では血は繋がっていないけれど……に会う為だ。


「あ、草薙さん。春花ですね?」

「はは、いつもごめんな」

「いえいえ。草薙さんが時々立ち寄ってくれるから、良い警備効果になってますよ。春花に言い寄ってた人達とか、目に見えて減りましたからね。おーい、春花ー!」

「大きな声出さないでよミュウちゃんー。ってお父さん!?」


 同じ受付嬢仲間であるミュウさんから呼ばれ、奥から出てきたのは、愛する我が娘、桜井春花だ。


「やぁ春花、お仕事頑張ってるかな?」

「お父さん、私はもう子供じゃないって言ってるでしょー!」

「それでも心配なんだよ。ここは確かに安全だけれど、いつ春花を狙った肉食獣が来るとも限らないからね!」

「えぇぇぇ……」

「あははは!大丈夫ですって草薙さん。ロイヤルガード候補の娘さんにちょっかい出す男なんて、そう居ませんって」

「肉食獣って人間だったんです!?」

「春花、ちょっとはそういう事学ぼうよ……だからお父さんこんなんなっちゃってるんでしょ……」


 こんなんってちょっと。俺は愛娘が狼に襲われないか心配しているだけなのに。


「お父さんが変なのは昔からだもん!」

「変!?」

「ぶふっ!」


 ミュウさんが吹き出したけれど、娘に変と呼ばれた俺はそれどころじゃなかった。これが洗濯物を一緒にしないでと言われだした父親の気持ちだろうか。い、いや、春花に限ってそんな……。


「もうお父さんは仕事に戻ってよ!恥ずかしいんだから!」

「お、お父さん恥ずかしいかな?身だしなみもきちんとしてきたんだけど……」

「そういう意味じゃないよ!……その、授業参観みたいで、恥ずかしいんだもん……」


 顔を真っ赤にしてそう言う春花に、俺の心は爆発寸前だ。


「わ、分かった、ごめんな仕事の邪魔をして。それじゃ、俺も仕事に戻るよ。今日も夕方には迎えに来るから、頑張るんだぞ?」

「うんお父さん。それと、お仕事大変だろうし無理しなくて良いんだよ?私一人で帰れるし……」

「お父さんがそうしたいんだよ春花。ミュウさん、皆さん、春花を宜しくお願いします」


 同僚の方達に頭を下げて、ユグドラシル社から出る。その後ろで


「春花のお父さんってイケメンよねぇ。あーあ、春花のお父さんじゃなかったら私アタックしてたのになー」

「だよねー。騎士団所属でロイヤルガード候補、強くてイケメンで娘想い!奥さん鼻高々っしょ」

「あはは……お母さんは居ないけどね……(というかお父さんもこの世界で血の繋がりがあるわけじゃないし……)」

「「「え!?マジで!?」」」

「わっ。ビックリした。本当だよ?」

「あの人独身なの!?ねぇ春花、私春花の事本当の妹のように……」

「こら抜け駆けすんな!私は春花の事娘みたいに……」

「えぇぇぇ……!?」


 なんて言い合っている事などつゆ知らず、俺は冒険者ギルドへと向かった。



「あ、草薙さん。バニラ様からお話は伺っています。今日は冒険者ランクB以下のパーティを中心に、模擬戦を行ってくれるそうですね」

「ええ。っていうか、以前の冒険者ランクの見直しで今Aランクってほとんど居ないんですよね?」

「あはは……はい。恥ずかしながら、我がエイランド支部では、Aランクに該当するパーティーは2つしか居ませんね」


 ヤマタノオロチとの戦いの後。各国は騎士団と冒険者、モンスターハンターの間で盟約を結び、双方で実力を上げる為の協力関係になった。

 その際に、冒険者とモンスターハンターに付与されるランクの見直しを行った。

 各ランクの調整を行い、Sランク、Aランクの特別性を上げる事により、向上心の強化を図り、本当に強い者が高いランクに至れるように。


「それでは、案内お願いします。バニラ様より任されましたので、本気で稽古をつけてあげますよ」

「ありがたいです。それでは、こちらへ」


 副ギルドマスターである彼、モンブランさんに案内された場所で、多くの人達が待っていた。

 皆強くなりたくて、ここに集まっている。

 自分の仕事に誇りを持っている者、上のランクに上がり、成り上りたい者、死にたくないから強くなりたい者……動機は様々だろうけれど、共通する事は一つ。


 強くなりたい


 これに尽きると思う。俺も、それを強く思っている。

 友達を守れるだけの力を。大切な家族を守れるだけの力を、

 そして……必要とされるその時に、友へ力を貸せるように。


「ロイヤルガードの一人、バニラ様より指名され、今日の特訓の指導官となった草薙明だ。こんな若造が、という者も居るかもしれないが、冒険者は実力が全てだろう?俺に納得が行かなければ、俺に勝てば良い。さぁ、言葉より実践しようじゃないか。大丈夫、俺は勝ったら終わりなんて事はしない。それじゃ意味がないからな。どこを伸ばせば良いか、足りない所はどこか、戦いながら指導しよう。その訓練方法も戦いが終わったら指導すると約束する。俺は強くなりたい、お前達もそうだろう?だから、集まったはずだ。さぁ、来い!」


 多少早口でまくしたててしまったが、そこは気の強い冒険者達。早速戦う気満々なのが伝わってきた。

 それから夕方になるまで、模擬戦をしながら、一人一人に助言を合わせて行っていった。


「草薙さん、今日はありがとうございました」

「いえ、バニラ様の命でしたので。次も俺が来るとは限りませんが、指名があればまた来ますよ」

「バニラ様にもまた礼を言っておきますが、やはり草薙さんの指導は素晴らしいです。最近、幼い子が突然いなくなったりと物騒ですからね……冒険者達に依頼を出したりもしているのですが、結果はさっぱりでして……冒険者達の成長は、願ったりなんです」


 そう、最初は騎士団だけが掴んでいた情報だったのだが、今では冒険者やモンスターハンター達にも情報を流している。

 子供だけでなく、成人した者達も突然姿を消す。そんな話が上がってきていた。それに対処すべく騎士団も動いているのだが、成果は上がらなかった。

 そこでレンゲさん達にも伝えようと思ってしまったんだったな。

 そして、その話と同時に、見た事も無い魔物が現れるようになった。その魔物は強く、今までの魔物より数段上の力を持っていた。

 また普通の魔物達は人の多く居る街中へと足を踏み入れないのだが、新しい魔物達は違った。

 好んで街の中へと入ってくるのだ。その対応に追われ、騎士団は警備に多くの人員を割く事となった。


「自分の身を守れない者達の為に、騎士団は存在します。それでも、数が多ければ騎士団だけでは対処しきれない。冒険者やモンスターハンターとの共同戦線は、騎士団としてもありがたいんです。その為の手助けになるなら、喜んで」

「ありがとうございます。私達も騎士団の方々への協力は惜しみません」


 そう言って頭を下げるモンブランさんへと俺も頭を下げ返し、冒険者ギルドを後にした。

 途中色々と声をかけてくる冒険者の皆に夕食を誘われたりしたが、春花との約束がある俺はいつもやんわりと断るようにしている。

 そのせいか、俺は鉄壁の明なんて不名誉な名で呼ばれだしているとか。春花に話したら絶対に笑われるな。

 そんな事を考えながら、騎士団へと戻った。団員の皆が忙しないのを見て、何かあったのだと察する。


「バニラ様、勤めを終え戻りました」

「ご苦労様明くん。早速で悪いけれど、魔物が侵入してきたから対処してくれるかしら。場所は北区」

「なっ!?」


 北区と言えば、ユグドラシル社がある区だ。そして、春花の家がある。しかし、北区は背後を山が覆っている為、街への壁もそれ相応に高い壁で防壁を作られている。魔物はそこから好んで侵入してくるなんて事は今までなかったと聞いている。


「魔物の中には竜種も確認されているの。他の区の担当者達を呼ぶわけにもいかないから、本部から増員する事にしたの。明くん、私の変わり、頼んで良いかしら?」

「!!」


 バニラ様の変わり。それはつまり、ロイヤルガードの役目を果たせと、そう言っているのだ。


「はっ!不肖の身なれど、全力で!」

「ふふ、不肖なんて思っていないわ。明くんなら任せられる、そう思っているの。私は本部を離れる事が出来ない。お願いね」

「ははっ!」


 敬礼をして、部屋を後にする。

 春花にはスマホで連絡を入れておいた。無事に避難していてくれると良いんだが。

 そして俺は、そこで以前出会った者達と再会する。

 そう、俺の体を好き勝手に弄った組織の一人、"ウロボロス"十傑と。

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