176話.時の世界④
来る日も来る日も特訓に明け暮れる毎日。最初こそリヴァルさんやタカヒロさんには全然敵わなかったけれど、今では三回に一回は勝てるようになってきた。
この世界に先に来ていた大精霊の皆にも協力してもらい、私とリヴァルさんのマナコントロールはさらに洗練された。
アーネストはネセルとの同調率を引き上げる事に成功し、ネセルの力をほぼ完全に取り込んでいる。
タカヒロさんに至っては、スキルで可能だった事を自分の力でも扱えるように努力した事で、自身の力とスキルの力を混合させた新たな力に目覚めている。
ノルンはリンスレットさんから受け継いだ力を自在にコントロール出来るようになってきたし、今はイグドラシルの力と融合を図っている。
ゼロはずっと自身の魔力量を上げる事に集中し、壁を何度も破って魔力総量をとてつもなく上げている。タカヒロさんの支援もあったけどね。
アーネストの『幻影創兵術』を使って出現させた影に、リヴァルさんが魔力を送り込み仮想敵として母さんや兄さん、アリス姉さんやミレニア、リンスレットさんといった私の知りうる限り最強の人達に変わる。
更に、そこにリヴァルさんの召喚魔法により、ユグドラシルとイグドラシルが出現する。この召喚魔法、術者の縁次第で色々な存在を呼べるらしいが、基本的にリヴァルさんはこの二人しか呼ばないそうな。
召喚された存在は様々な時の記憶を有するらしい。ただ、先を知っていても時間の制限を受けて、それを語る事は出来ないと聞いた。
私達はそんな強敵達を相手にして、毎日特訓を繰り返していた。もう何年経過したかも私は覚えていない。
最初こそ数えていたんだけれど、千年を超えたあたりから面倒になったからだ。
私達六人は、すでに普通の家族よりもずっと絆の深い家族になったと思う。
こんなに長い時を共に過ごすという事を、実際に過ごすまで私は軽く考えていた。よく考えて見れば百年ですら人間なら人生が終わるくらいの長さなんだ。
その十倍以上もの長さを、共に過ごしてきたのだから。
「よし、このくらいで今日は終わるか」
「おっけー!ふぅぅ、つっかれたー!」
リヴァルさんの締めの言葉に、アーネストが同意を示してから地面に寝転がる。
「大分慣れてきたけど、やっぱ母さん達は強いな」
「そうね、リンスレットもホント化け物だわ」
私の言葉にノルンが同意する。でも、この母さん達はあくまで……
「本物は恐らくもっと強いがな。これはあくまで私の知る所までの強さに過ぎないからな。母さん達もそうだが、リンスレットさんの本気も私は知らないからな?」
「「うげぇ」」
私とノルンが同時にそう言うと、ゼロが笑う。
「はは、姉さん達は本当によく似てる」
そう、長く過ごしているうちに、ゼロは私の事も姉さんと呼ぶようになった。
アーネストの事はアーネストと呼ぶんだけど、もはや私達全員の弟になっていた。
合成により創られた命だと聞いたけれど、もう随分と長く一緒に居るから違和感もない。
「ゼロ、間違ってもこの二人を基準にすんなよ?世の女の子達はもっとおしとやかだからな?」
「そうなのか?」
「ああ。こんな男おん……」
「「アーネストォ……」」
「……三十六計逃げるに如かずってなぁ!」
「「まてぇっ!!」」
私とノルンは逃げるアーネストを追う。今日という今日は反省させなければなるまいー!
「やれやれ、元気だなあいつらは」
「そうだな。……タカヒロ、そろそろここを出ても良い頃だろう。あまり長い時間現世と離れるのも、精神衛生上良くないだろうからな」
「それは俺も思っていた。今で大体、千二百年程か?それでも長く居過ぎたくらいだな」
「次があるとしたら、私はもう居ないだろうけどな。でも、教えられる事は全て教えられる時間だった」
「ああ。未来、変えられそうか?」
「もう変わっているさ。そして、私も更に強くなれた。もう、未来に戻っても遅れは取らない。それに、タカヒロも探さないとだしな」
「はは。この世界から出たら、戻るのか?」
「そうだな……私の役目は終わった。だが、アーネストが私の時代に来たいと言っていてな。だから、ユグドラシル領で待つ事にするさ」
「そうか……。ま、お別れは言わないぜ?お前は蓮華なんだろ?」
「ははは、もう違うかもな?」
「なんだそれ」
アーネストを捕まえて引きずりながら戻って来たら、リヴァルさんとタカヒロさんが良い雰囲気で話をしていたので、邪魔しないようにアーネストを縄でくるくる巻きにしていく。
「……何してるんだお前達は」
そうしていたら、会話が終わったのか二人が来て不思議そうな顔で聞いてきた。ノルンと一緒にアーネストをす巻きにしている所ですとは言えなかったので、ノルンと顔を見合わせて苦笑する。
「そろそろ、この世界を出ようと思う。お前達も十分に強くなったからな。例えソロモンが相手でも、今のお前達なら十分に勝ち目があるはずだ」
そう言ってくれるリヴァルさんに、私達は気を引き締めて目を見返す。
「良い目だ。よし、これがゆっくりできる最後の時間だと思え。今晩は私が美味しい料理を作ってやろう」
「やりっ!やっぱリヴァルさんの料理が一番うめぇんだよな!」
「どうしてかしら、同じように真似しても同じ味にならないのは……」
ノルンは長い特訓の末、料理を作れるようになった。本当、まな板を真っ二つにしたり塩と砂糖を間違えたり、目分量で凄まじい量を使ったり、皮を実ごと剥いたり、上げればキリがない失敗の繰り返しの果てに……あれ、思い出したら涙が。
そんな事を考えていたら、リヴァルさんに肩を叩かれる。
「蓮華、私の時代のノルンは料理を作れないままなんだぞ……」
悲しそうにそう言うリヴァルさんに、私は何も言えなかった。