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174話.仲間と仲間(アスモデウス)

「待っていたよ、アスモデウス。君と会えるのを、とても……とても心待ちにしていたんだ」


 ソロモンが微笑みながらこちらを見て言った。私の知るソロモンとは、姿が随分と幼く……どこかで、見た事がある気がする。どこだったかしら……。


「ああ、この姿に戸惑っているのかな?以前より肉体が若くなってしまってね。けれど、力はこの通り……」


 ソロモンの全身から凄まじい魔力が漆黒の闇となって迸る。その力は、今感じる魔力量だけでも全盛期のソロモン以上だと分かった。


「どこでこれだけの魔力を……」

「ふふ、以前の僕は才能だけで戦ってきた。けれど今回は違うよ。ちゃんと強くなる努力をしたんだ。褒めてくれるかい、アスモデウス」

「はいはい、偉いですねソロモン。それで?私を呼んだ理由を聞いても?」

「つれないなぁアスモデウス。でも、そんな猫のような君も僕は気に入っているよ。要件というのは他でもない、また以前のように僕に仕えて欲しい」

「……」


 ここで『断る』と言っても良い。けれど、敵の内情を知るには取り入るのが一番だ。少し悩むけれど……リンなら分かってくれるはず。それに、いざとなればタカヒロがなんとかしてくれるはず。

 いつの間にか、そう思っている自分に苦笑する。無謀にもリンに挑んで返り討ちにあった青年。見た目と違い、中身は私と変わりないくらい生きているようで、手の内を決してさらさない……いけ好かない男。

 そんな男は、家族に飢えていたのかもしれない。リンを主と認め、ノルンを自分の子供のように大切にした。私とはよく口喧嘩をするけれど……そう、良い友人で同僚で……リンを慕うという共通の想いから、仲間と認めた数少ない男。


 裏切りなんて悪魔は日常茶飯事。誰でも胸の中には弱さを抱えている。そこを突くのが悪魔の常套手段。その涙もその痛みも、悪魔の糧となる。

 そんな世界で生きてきた私に、温かい光をくれた。家族という、温もりをくれた。タカヒロがリンの城に来てから、場内の雰囲気が変わった。

 魔族の王達の戦いにより多くの傷を負ったリン。見た目ではなく、心に、だ。傷ついて倒れていった多くの仲間達。リンを王と掲げ、信じ、果てていった。

 その涙も、その痛みも、今日で終わるようにと願い、戦い続けた。


 終戦した後、周囲には堂々としていたリンだったが、心は違った。自分を信じついてきてくれた多くの仲間達を失ったリンは、心がボロボロだった。

 それに気付けたのは私とルシファー、そしてレヴィアタンくらいだったろう。日に日にやつれていくリンを見ていられなかった。

 そんな時だった。


「お前が唯一魔王リンスレットか?俺はタカヒロだ。お前に勝負を挑みたい!」

「は?」


 あのリンが、間の抜けた声でそう言ったのが今でも忘れられない。


「正気か?戦争も終結したばかりだというのに、この私にまだ戦いを挑むというのか?」

「俺はその戦争を知らないからな!ただ単に、俺より強いか戦ってみたいんだ!」

「クッ……ククッ……」


 リンがわなわなと拳を震わせているのを見て、あ、こいつ死んだ。って思った。だけど……


「はは……あははははっ!そうか、戦いたいか。それは、ただ戦いたいだけなんだな?」

「そうだけど?なんか別の意味があるのか?」

「いや、はは。そうか、そうだな。良いぞ、戦ってやる。だが、そのまま受けてやるのは私にメリットが無いよな?」

「え、そりゃそうだけど。でも魔界って強さこそ全てなんだろ?戦いも普通なんだろ?」

「それは私が支配する前ではだな。今は私が唯一魔王で頂点だ。そんな統治はしない」

「マジで?ならどうしたら戦ってくれるんだ?」


 頭の後ろを手でかきながら、まいったなといわんばかりの態度でそう言うタカヒロを、私は興味深く見た。

 あのリンを前にしてこの態度。まるで死を感じないこの男に興味が湧いた。

 普通ならば、リンを前にすれば絶対の恐怖を味わう。死を傍で感じ、身動きすら取るのが難しくなる。だというのに、この男にはそれが無い。

 それどころか、死を感じない。相手を殺すとか、自分が死ぬとか、そういう普通ならば感じ取ることが出来る心の動きを全く感じ取れない。


「なら、私が勝ったら、お前には私の部下になって家庭教師をしてもらおう」

「家庭教師!?この世界にもあんの!?」

「あるさ。やはりお前は転生者なのだな?」

「あっ!まぁ、隠すつもりなんてないけどな。良いぜ、なら俺が勝ったら?」

「魔界を半分やろう」

「魔王か!」

「魔王だぞ?」

「リアル魔王だったなそういや……」

「ははっ」


 よく分からない事でリンと会話が弾んでいるこの男に、興味を超えて嫉妬してしまったのだけれど。

 そうして戦いが始まったが、タカヒロの使うスキルという特殊能力は、リンの前には全く通じず、いとも簡単に倒れてしまって拍子抜けだった。


「マジかよ……お前、チートじゃねぇか……」

「はは。神から授かった能力が、神に通じるものか。私に通じるのはお前自身が鍛えた物だけだ。それがお前にはない。神から授かったスキルをどれだけ鍛えても、それは所詮借り物をより強く扱えるようになったというだけに過ぎん」

「くっそー!覚えてろよ、今度は俺の力で勝ってやるからなっ!」

「ああ、覚えておこう。今日からお前は、私のものだからな」

「部下!部下だろ!?」

「まぁ似たようなものだろ?」

「天と地ほどにも差があるわ!」

「はは、そうか。紹介しておこうタカヒロ。こいつはアスモデウスと言って、私の右腕だ」

「アスモデウスって、大罪の悪魔の一人じゃねぇか!」

「なんだ、知ってるのか?」

「ああいや、知識としてだけな。それも、この世界のとは違うかもしれん」

「ふふ、流石大見得きっておきながら、無様に負けた転生者さんは言う事が違いますね」

「ぐふっ!くっ……言い返せねぇ……!」


 心底悔しそうなタカヒロに笑ってしまった。その態度からは、他の悪魔達から感じるものが微塵も感じられなかったから。


「ま、よろしくしてあげますよ。リンから紹介がありましたが、私の名はアスモダイオス=アシュメダイ。まぁアスモデウスと呼ばれていますし、もうそっちで浸透しているのでそれで良いんですけど」

「ああ、だから私はアスモと呼んでる」

「成程。まぁよろしくなアスモデウス」

「リンからの返答を聞いても、そう呼びますか?」

「ああ。だってお前その名前気に入ってないだろ?」

「それであえてそう呼ぶとか、性格クソじゃないです?」

「ははっ!そっちがお前の素だな?俺にはそれで良いぞアスモデウス」

「ぐっ……本当に初対面ですかこの男……!」

「はははっ!」

「笑わないで下さいリンッ!」


 本当に今思い出しても腹が立つけれど、それでもあの男は……悪魔特有の嘘も、腹黒さも無く……話しやすい相手だった。

 あの男なら、私が敵対しても意図を汲み取ってくれるはずだ。


 今もただ静かに私の返事を待つ男へ告げる。


「……良いでしょう。ただ、以前と同じ契約は今回結びません。配下ではなく、同志という立場なら、ね」

「ああ、勿論だとも。君が協力してくれるならば、魔界はもう手にしたも同然だ。そうだ、君ならばよく知っているから紹介は無用だろうけれど、顔合わせしておこうか。セーレ、バエル、ヴィネ」

「ここに」

「アスモデウスもついに来たか」

「久しぶりだな」


 セーレ、バエル、ヴィネ……いずれも王の地位にある者達。中には君主も居るけれどね。懐かしい顔ぶれだけれど、こいつらは強い。大罪の悪魔と呼ばれる私とも、遜色ない実力を持っている。

 ソロモンは、72の悪魔達を従えていた。今では多くが冥府へと送られたり、封印されてしまったはずだが……それでもこいつら程の悪魔がまだソロモンに協力するなんて思わなかったわね。

 私は三人にそれぞれ目配せをした後、ソロモンへと視線を移す。


「ここに来る道すがら、ゼクンドゥスから聞いたのだけれど。『ナイトメア』とも協力関係にあるとか?」

「うん、そうだよ。僕達だけでも事足りるけど、念には念を入れて、ね。それに、なによりサタンは君と同じ地位に居るし動きやすいみたいだからね」


 サタン、リンの言う通りやはり裏切っていたのね。


「まずは僕達のアジトへ案内しようアスモデウス」

「ここではないの?」

「最初はここにしようと思ったんだけれどね。サタンが地上の良い場所を奪ってくれてね。そこに移動したんだ。名前はなんだったっけ。ああそうだ、サンスリー王国とか言ってたかな?」

「!!」


 まさか、地上に堂々と本拠地を構えるつもりだったなんて、予想外だ。敵の内情を調べる為にも、私の判断は正しかったと思う。

 リン、私を信じてくださいね。

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