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3.魔術と魔法

 簡単にこちらの自己紹介(元の世界の名前ではなく、蓮華、アーネストと名乗った)を終えた後。


「魔術と魔法、これらは似て非なるものなんだけど、なんでか分かるかな?」


 と聞いてきた。

 魔術と魔法、ニュアンス的な違いは分かるんだけど。


「魔術のがなんか強そうな気がする」


 アーネストが答えた。

 うん、俺もそんな気がする。


「ふふ、まぁその認識は間違ってはいないよ。どう考えても個人が持つ物より、世界に存在する物の方が量が多いからね、普通は」


「どういう事?」


 俺が質問すると、簡潔に答えてくれる。


「魔法とは、自身の中にある魔力を使って、発現する力なんだよ。で、魔術とは逆に、世界に満ちているマナを消費して力を発現するんだ」


 成程、そう言われたらなんとなく理解できる。

 先程の言葉の意味も。

 そう考えていると、意味深な笑顔で見つめてくる。


「な、何か?」


「ううん、二人とも本当に理解が早くて助かるよ。で、一応言っておくね。まずアーネストは魔法を使えない。そして蓮華は魔術を使えない」


「「え!?」」


 二人して驚く。

 そりゃそうだ。

 なんで今の話からそんな事に繋がるんだ。

 マーリンさんが言葉を続ける。


「魔術というのは、世界に満ち溢れているマナを体内に取り込んでから行使するんだ。その際に、魔力があればあるだけ、その伝導率が悪くなるんだよ。つまり……」


「ひょっとして俺は、魔力が高すぎて魔術が使えない……?」


「ピンポーン。正解。これは、蓮華という存在を創り出した事の弊害と思ってほしい」


「「!!」」


 創り出した。

 そう、彼女は言った。

 つまり、俺は……。


「やっぱり……人間じゃないのか俺……」


 そう、絞り出すのが精一杯だった。

 確かに、鏡で見た俺は物凄く綺麗だったのだ。

 そう、作り物のように。


「そうだね、蓮華は人間じゃない。だけど、姿は人間と全く変わらないよ。ただ、世界樹から創り出された体だから、体内の魔力が凄まじすぎて、魔術を使える要素が全くないんだ。だから、魔法が使えて魔術も使える人もいる中で、蓮華だけは絶対に魔術は使えないんだよ」


 世界樹とかいう気になる点もあったが……。


「それが、俺の中に魔力がありすぎるからって事か」


「そういう事。だから、使う魔法はこの世界の常識から外れた魔法が使える。恐らく、どんな魔法使いも蓮華には到達できない」


「…………」


 喜んで良いのか悪いのか。

 考え込んでいるとアーネストが尋ねた。


「なら、俺が全く魔法を使えないっていうのは、俺の中に魔力っていうの?それが一切無いからなのか?」


「ピンポーン、そうだよ。しかも全く無い。だから、凄まじくマナの伝達力が良いんだ。魔術を扱ってアーネストを超えられる者は存在しないだろうね」


 二人揃ってポカーンとする。

 いやだってそうだろう、よく読んでいた異世界物の、チートとかそういうのに酷似しているんだから。


「まぁただ、それも君達はまだ器だけだからね。そう成れるも成れないも、君達次第なわけだけど……どうする?こんな得体のしれない私に教えを乞えるかい?」


 その問いに答える。


「一つだけ。俺達を……いや、俺を召喚した理由はなんですか?それと俺が二人いる事も聞かせてください」


 そう、普通なら一人だ。

 それが何故二人……いや、二人でも問題はない。

 それが別人ならば。


 今回疑問なのは、俺が二人なのだ。

 しかも、片方は女の子になって、片方は若い頃の俺に。

 更に記憶もちゃんとあるのだ、お互いに。

 しかも同じ年齢だった。


「はぁ……」


 ロキさんが頭に手をあてて、悲しい表情で溜息をついた。

 マーリンさんが瞳を輝かせて答える。


「だって君、女の子になりたいって思った事あるだろう?」


「っ!?」


 いや、確かに自分が女の子だったらなぁとか考えた事はあるけれど、そんなの女性だって男だったらなぁとか、考えた事はあるんじゃなかろうか。

 自分は男(だった)ので分からないが、多分、きっと、ある人はあるはずだ。

 と思っていたら、素敵な笑顔で言われた。


「そういう事だよ!」


「「納得できるかぁぁぁぁっ!!」」


 二人の本気の叫びが響いた。


「はぁ……それで、女の子にして召喚したのは百歩譲って理解しました」


「ん?いや召喚したのは男の子の方だけだよ。蓮華は魂をその体に移しただけだから。蓮華は召喚じゃないねぇ」


 ……もう脳が考える事を止めそうだった。


「魂って二個に分かれたりするんですか……」


 だから、こんな意味の分からない事を口走っても、許されると思うんだ。

 それに対して彼女はのほほんと言った。


「ううん、コピー、複製っていうのかな?同じの創ったの」


 俺達は固まった。

 顔を引きつらせながら、聞きたい事を聞いていく。


「うん、分かった。マーリンさんが色々と規格外なのはとても理解できた。それじゃ、アーネストが若い姿なのは?確か、俺もそうだけど、三十五歳の時が最後の記憶なんですけど」


「レンちゃん」


 そうマーリンさんが急に呼んできた。


「いきなりニックネームですか。なんですかもう……」


「俺じゃなくって私って言って?」


「そんな事今どうでも良いだろうがぁぁぁぁっ!!」


 俺は本気で叫んだ。

 もう今日のこの短い間に、日本で生きてきた一生分を叫んだ気がする。


「大事な事だよ!俺っ子も好きだけど、レンちゃんの見た目には合わないんだよ絶望的に!レンちゃんは清楚で可愛いんだからね!?」


「知るかぁぁぁぁっ!!」


 追加更新で叫んでしまった。


「落ち着け蓮華」


「アーネスト……」


「怒っても、可愛いだけだぞ?」


「死ねやぁっ!」


 ゴン!!


「いっでぇ!?」


 割と本気で頭を殴った。

 でも痛がってるけど、本気で痛そうではなかった。

 畜生。


「あっはははは!君達は面白いなぁ」


 マーリンさんが本当に楽しそうに笑う。

 こっちは本気で話しているというのに。

 割と本当に息切れしてきたから、息を整えるついでに聞いてみる事にした。


「そういえば、さっき世界樹がなんとかって言ってたよね?」


「そうだよ。レンちゃんの体は、世界樹から生まれた体なんだ。そこにレンちゃんの魂を混ぜた。だから、人間じゃない」


「流しそうになったけど、その世界樹ってなんなんですか?」


「世界樹は、世界にマナを放出している世界中に根を張る大きな樹木の事だよ。この家を出たすぐそこにあるから、後で見に行くと良いよ」


「ちょっと待って。えっと、世界にマナを放出している……って、要は魔術の一番大切な物の生みの親って事ですか!?」


「あはは、レンちゃんは本当に理解が早いなぁ。うん、そうだよ。加えて言うなら、レンちゃんのその膨大な魔力は、世界樹から受け継いでいるから。分かるかな?レンちゃんの魔力は、世界樹そのものなんだ。だから、魔法で魔術と同等の力が扱えるんだよ」


「……」


 もはや開いた口が塞がらなかった。


「それじゃぁ俺は?」


 アーネストが興味深そうに聞く。


「アーちゃんは召喚だよ、間違いなくね。ただ、体を全盛期の物に変更させてもらったんだ。だから、アーちゃんの体は今15歳くらいだね」


「アーちゃん!?」


 あ、そっちに驚くんだアーネスト。

 何度でも言うけど、分かるよ。

 だって俺だし。


「アーちゃんの生きる世界には、マナも魔法も無かったでしょ?だから、そのまま召喚したら、魔力なんて少ししか持っていないんだよ」


「成程、なら俺のように召喚された人は、皆魔術が凄いわけか」


「え?いやいやそんな事ないよ?ただ、アーちゃんの魔力も全部レンちゃんに上げたから、アーちゃんはからっぽってだけだよ」


「何してんの!?いやほんともう何してくれちゃってんの!?」


 今日は叫んでばかりな俺達である。


「だって、少しの魔力なんてあったって邪魔なだけだよ?なら、少しでもレンちゃんの力になって、おまけに伝導率が上がってアーちゃんの力も上がるこの方がよくない?」


「「……確かに」」


 ハモった。

 ちょっと考えて答えた所までハモった。

 流石俺である。

 でも、少し疑問が生まれたので聞いてみる事にした。


「マーリンさん、魔法が体内の魔力を消費して発動するって事は、発動すればそれに応じて体内の魔力を消費するって事ですよね?」


「そうだよ」


「なら、魔術は世界にあるマナを使うなら、いくらでも使えるって事ですか?」


 その質問に、ロキさんはほぉ、という感心したような表情をした。

 マーリンさんは嬉しそうな表情をして答えてくれる。


「ううん。魔術はね、一日の使用限度があるんだ。その魔術毎に、また伝導率によって一日の上限は違うけれどね」


「成程……なら、俺は魔術は使えないけど、アーネストと他の人では同じ魔術でも、使用できる回数が違うって事ですか」


「うん、そうなるね」


 笑顔でマーリンさんが言う。

 魔法は自分のマジックポイントを消費して、魔術は使用回数を消費って事か。

 ん?って事は、剣士でも武道家でも魔術は使えるって事か。

 色んなゲームにあったセオリーは通じないのかもしれない。

 考えていた事が顔に出ていたのか、マーリンさんが続けて言った。


「ただ、魔力がないから魔術が使えるって訳じゃなくてね。適正っていうのもあるんだよ?属性相性もあるし」


「属性相性って、水が適正だと、火は苦手になるとか、そんなんですか?」


 アーネストが質問する。

 俺も同じ事を考えたので、黙って聞いておく。


「そうだね、それも確かにあるよ。でも一番は、本人の適正かな。だから、中には火も水も適性のある子もいるよ。大抵は1属性に秀でていて、他は使えても階級の低いものだけ、がほとんどだけどね」


 階級、という事は、魔法や魔術にもレベルがあるわけか。

 ふむふむと頷いていると、不思議そうな顔で言ってきた。


「二人とも、割とこういう事は知ってそうな雰囲気だね?そっちの世界ではなかったはずなんだけど」


 その言葉に俺達はお互いを見て笑いあう。

 そんな俺達を見て、不思議なものを見るような表情でいるマーリンさんにロキさん。

 アーネストが答える。


「俺達の世界には、確かに魔術も魔法も存在しませんでしたよ。でも想像して、それらを使う物語を創った偉大な方達はたくさん居たんです」


 その言葉に、マーリンさんは驚いた表情をして、すぐに優しい笑みを浮かべる。

 

「そっか」


 簡潔だけど、優しい口調での言葉だった。

 しかし、この時の俺はまだ気付いていなかった。

 自分が世界樹のマナを受け継いでいて、魔術が世界樹のマナを使うという事、自分の魔力が世界樹のマナであるという事の意味を。



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