165話.休憩時間
アーネストと二人、大精霊達が住んでいる家へと向かう。タマモが横をちょこちょこと走っていて可愛い。アリス姉さんも一緒に行こうとしたら、母さんが連行していった。
「ちょっ!?私も蓮華さんと行きたいんだけどマーガリン!?」
「貴女の体の事なんだから、貴女が居ないと始まらないでしょー」
「それ今じゃないとダメなのー!?」
「よく言うじゃない?いつやるか?今でしょ!って」
「えぇぇぇー!?」
うん、母さん。その言葉がこの世界でも使われてるとか初めて知りましたが。
「それじゃ、行くわよアリスー」
「そんにゃぁー!」
首根っこを鷲掴みにされ、ずるずると引きずられていくアリス姉さん。顔が助けてーって訴えてるけど、無理なので横を向く。諦めずにアーネストの方を見たアリス姉さんだったが、アーネストも横を向いた。
がっくりと項垂れたアリス姉さんは、そのまま奥へと消えた。
「母さんの実験はいっつも突然だから諦めるしかねぇよな。下手に口出したら付き合わされるし、何も言えねぇな蓮華」
「だなぁ。まぁ今回はアリス姉さんの体の事みたいだし、仕方ないね」
なんて会話をしながら歩いていたら、目的の家へと着く。まぁあんまり距離離れてないからね。
「お邪魔しまーす」
呼び鈴とかないので、扉を開けて中に入ると、リヴァルさんと大精霊の皆が話をしているようだった。リヴァルさんはソファーに腰かけながら、周りに大精霊の皆が集まっている。
「リヴァルさん、まだ話中?」
「お前達か。いや、大丈夫だ。もう良いのか?」
「うん、買い物は済んだし中も少し見てきたよ。重力っていうか、マナが凄い重くて体が思うように動かせなかったよ……」
「ふむ……成程な。という事は、お前達はまず普段の生活を普通に出来るようになる所からだろうな」
流石リヴァルさん、お見通しのようだ。それにしても……何故だろう、大精霊の皆がいつもと違う、ような?こう、感覚的なものなんだけど……なんていうか、濃いというのだろうか。
首を傾げていると、リヴァルさんが言った。
「大精霊達は位が一段階上がっているからな。そこら辺が以前と違って感じるんだろう」
「位?」
「ああ。お前達に分かりやすく言うなら、レベルアップしたって事だ」
「「成程!」」
それは分かりやすい!でも、大精霊もレベルなんてあるんだ。
「私もお前達と共にその空間へ行くわけだが、大精霊達も連れていけ蓮華」
「え!?」
「勿論、私達と一緒に特訓をするわけじゃないがな。その空間のマナを循環させるのが目的だ」
「ど、どういう事?」
「この世界はユグドラシルの……世界樹のマナにより体が補強されている。だが、その世界はそうではないだろう。だから、普段より体が重く感じたはずだ」
成程……そういう面もあったのか。
「この世界から大精霊達を短い間とはいえ居なくさせるのは不味いからな、分身体を作ってもらって共に行くつもりだ。もう話もついているから安心しろ」
リヴァルさんはその事を皆に伝える為に、先に来ていたんだね。
「まぁ、それだけではないんだが……それはまた後で伝えよう。さて、私は別の用事があるんでな、これで失礼する」
そう言って扉を開けた所で、声をかける。
「リヴァルさん!夕食、今日はこっちで食べるよね!?」
リヴァルさんはフッと笑って
「ああ」
そう言って、今度こそ外へと出て行った。
「あれ絶対蓮華じゃねぇわ。どう成長したらあんなにかっけぇ大人になるんだよ」
なんて言うアーネストの足を踏む。
「いでぇっ!?そ、そういうとこだぞ?」
五月蠅いやい。私だってそう思ってるんだ。
「レン、アーネスト。それなら今日はもう時間は余っているんですね?」
なんてディーネが聞いてくる。他の大精霊の皆も、心なしかワクワクとした目で見てる気がする。
「そうだね。久しぶりに皆と過ごそうかな」
「お、なら俺部屋に戻って遊ぶもん持ってくるわ!」
アーネストはそう言って走って出ていく。その姿を苦笑しながら見て、皆へ笑顔を向ける。
「それじゃ、今までどんな風に過ごしてたのか、聞かせてよ」
そう言ったら、皆わいわいと語りだす。イフリートとサラの口喧嘩とか、カオスの中二病にレニオンが突っ込んだり、ヴォルトがセルシウスに怒られてたりと、目まぐるしく変わる話題に笑みが零れる。
それからアーネストが持ってきた色々な遊具で、暗くなるまで皆と遊んだのだった。
☆☆☆☆☆
蓮華達と別れてから、魔界の海へと飛ぶ。魔物達の動向を探る為だ。空から確認すると、地上海と魔界海の狭間で凄まじい渦が起こっていた。
「手は出すまいと思ってたが……これは今の地上の者達では手に余るか」
渦から、凄まじい大きさの魔物……いや、魔獣が姿を現す。海魔クラーケン、全長600メートルを超える大きなイカだ。こいつの厄介な所は、眷属を凄まじい速度で増やして放つ繁殖性にある。
今はまだその権能を生じていないようだが、私達が特訓を終える数日の間放置していれば、海をイカが覆う事態になるだろう。
「ミレニアが抑えて尚、このクラスの魔物が出現するんだな。あの時は私も捕えられていたし、誰がこいつを倒してくれたのか分からないが……今回は私が消滅させるとしようか」
体の中にあるソウルを、表に出す。人馬一体ではないが、今のソウルは私の意思でどこにでも出現させる事が出来る。ただ、その精神はもう失い、昔のように話しかけてくれる事は無い。
「さぁ行くぞソウル。あの時果たせなかった事を、今……!」
それは、昔の約束。息を引き取るのを見守った、少女の願い。私の時代では叶わなかった。だが彼女がこの時代で死ぬことは無い。
何故なら、その元凶は、今ここで絶つからだ……!




