38.大精霊・ドライアド
道中は前と変わらず。
ただ、私が前回と違い質問しまくった為か、シリウスはずっと上機嫌だった。
シリウスは言うまでもなく美人なので、中身おっさんの身としては少し緊張したりもする。
まぁ、この体になってから、男だった時よりは確実に、女性に対しての意識をしなくなってきたんだけども。
それでも、綺麗な人は綺麗だし、可愛いものは可愛い。
道中に、シリウスがロイヤルガードを目指したのは、他家に嫁がなくても良くなるからだと聞いた。
ロイヤルガードは国を守る要である為、貴族の柵からある程度離れられるのだとか。
家族も弟が居るので、後継ぎは大丈夫らしい。
シリウスの事が大好きな家族達は、娘を他家に取られたくないからと、滅茶苦茶な訓練を幼少期からさせてきたのだとか。
分かるんだけど、それを実際に目にすると引いたろうな私。
まぁでも、政略結婚とか、相思相愛になれたら良いけど、仮面夫婦とかしんどいだろうしな。
「蓮華様、着きましたよ」
馬車を止める。
これでシリウスとはお別れだな。
「それじゃ、行きましょう蓮華様!」
なんて一緒に行こうとしてくるので、止める。
「ううん、シリウスとはここまでだよ。ありがとうシリウス」
その言葉に、驚いた顔をするシリウス。
「な、何故ですか!?」
と聞いてくるから、できる限り優しく答えた。
「私が今回ここに来たのは、大精霊と会う為なんだ。大精霊は、多分私だけでないと会えない。あと、ポータル石を設置する為にね。これで、行き来が楽にできるようになるから」
予想だけど、多分間違っていないはずだ。
ディーネも、人と会うのはあまり好んでいないみたいだったし。
「わかり、ました。蓮華様、また何かありましたら、必ず言ってくださいね!私はどんな事でも蓮華様のお力になりますから!」
なんて笑顔で言ってくれるシリウス。
まったく、なんでそんなに信頼してくれるのか分からないけど。
その気持ちはとても嬉しい。
だから。
「うん、頼りにしてるよシリウス。ありがとう」
と笑顔で言った。
シリウスもまた。
「はいっ!蓮華様!」
と笑顔で言ってくれた。
そのまま馬車で帰ろうとするので、呼び止める。
「あ、ちょっと待ってシリウス!」
「どうしました?蓮華様。何か忘れ物でしょうか?」
と言ってくるので。
「うん、ちょっと待ってね。我が呼び掛けに応えよ、ウンディーネ!」
以前と同じように目の前に大きな滝が出来たかと思うと、そこからディーネが現れた。
「召喚に応じ、参りました」
「ディーネ、シリウスを王都・オーガストに送ってあげてくれないかな。ここまで連れてきてくれたんだ」
その言葉に。
「成程、レンの力になってくれたのですね。分かりました、そういう事でしたら、構いませんよ」
ニッコリと微笑むディーネ。
「蓮華様……」
シリウスが良いのですか?って感じで見てくるので。
「こちらから頼んだ事なんだから。帰りを一人でなんて寂しいでしょ?まだ私は転移を一人でできないから、ディーネに頼る事になるんだけど、そのうち使えるように練習しておくよ」
と答えておく。
そして、お互いに笑顔で別れを言った後、シリウスとディーネの姿が消える。
で、すぐにディーネが戻ってくる。
「それでは、行きましょうかレン」
と言ってくる。
「うん、行こうドライアドの元へ」
と答えて、オーブのあった場所へ進む。
道は覚えていたので、迷う事もない。
途中シーサーペントを倒した場所についたら、また同じのが出てきたので瞬殺しておいた。
ディーネが何とも言えない表情をしていたが、気にしない。
ようやくオーブがあった場所に着く。
そこには、空を飛んだ小さな妖精が居た。
そして。
「あれ?ウンディーネじゃないか」
と、話しかけてきた。
「あら、シルフ。ドライアドは居ないのですか?」
ディーネが答えるが、シルフって、もしかしてあのシルフだろうか。
「ん?んー?なんだろう、この人、何か……」
突然、私の周りを飛び始める。
「なんでかな、凄く落ち着く。この人は?」
「私の質問にまず答えなさいね、シルフ?」
ニッコリと答えるディーネ。
これには慌てた様子で答える。
「ご、ごめん!えっと、ボクがここに来た時にはすでに居なくてさ」
「成程。入れ違いというわけでもなさそうですが……」
「それよりもさ!」
「ええ、分かっていますよシルフ。この方は蓮華、世界樹の化身なのですよ」
その言葉に、凄く納得した風に言う。
「ああ!だからかぁ!なんかボク、レンちゃんの近くにいると世界樹に包まれているような、幸せな感じになるんだよね」
いきなりレンちゃん呼びかい。
「ええ、とてもよく分かりますよ。それに時には、世界樹よりも安らいだ気持ちにさせてくれるのです」
「あー、だからウンディーネが一緒に居るのかぁ」
なんて、大精霊同士で話を進めるので、話しかけられないでいるわけだけど……。
気のせいじゃなければ、後ろから視線を感じる。
なので、後ろを向いて呼びかけてみる。
「えーと、ドライアド、かな?後ろに居ないで、こっちにおいでよ」
「「!?」」
大精霊二人が驚いた顔をしている。
おずおずと答えてくれる。
「あ、あの、いつから私がドライアドだと……」
「気が付いたのはさっきなんだけどね。ほら、この祠、君の気配で満たされてるから、分かりにくいけど……なんとなく、君が一番濃く感じたんだ」
ドライアドが微笑む。
「そう、でしたか。やっぱり、貴女は凄いですね」
凄いって、何がだろうか。
シルフがドライアドの周りを飛びながら話しかける。
「ドライアド、もしかして入口から見守ってたの?」
「うん……話しかけたかった、けど……どんどん進んじゃうから、追いかけるだけで精一杯で……」
あちゃー。
一回来てるから、道迷わないんだよね。
それが裏目に出たか。
「レン、会えたのですから、目的を果たしましょう」
そうディーネが言ってきた。
そうだな、そうしよう。
「えと、ドライアド。私は蓮華、レンゲ=フォン=ユグドラシル」
「ん、私は、ドライアド。木の、大精霊、です。よろしくお願いします、れんげちゃん」
なんかまた変わった呼ばれ方をしたような。
ってあれ、なんか体に木の魔力っていうのかな、それが漲ったような?
「私が言うのもなんですが、契約完了が速すぎませんかドライアド」
「だって、れんげちゃんなら大歓迎、だよ?」
あ、契約完了したんだ。
今ので!?
「あー、驚いてるね。ついでっていうのもあれなんだけど、ボクとも契約しちゃおレンちゃん」
「そんな簡単に、って、うわ!?」
体から風の魔力が湧き上がる。
え、今のでまた!?
「よろしくねレンちゃん。っていうかね、わざわざ会いに来てくれなくても、ボクやドライアドは自分から会いに行って、契約を迫ったと思うよ?」
え、どういう事だろう。
考えていたら、シルフが教えてくれる。
「精霊はね、世界樹の近くがマナの関係もあるけど、大好きなんだ。なんていうか、落ち着くからね。それぞれの属性の大精霊が、基本祠から出ないのは、そこが一番心地良いから」
「はい。私であれば綺麗な水がある場所が好ましいですし、ドライアドであれば、世界樹の場所は祠の場所よりも好んでいるでしょう」
「うんー。世界樹の近くは、大好き。でも、れんげちゃんの近くも好き、だよ?」
なんて言ってくる。
「そっか、私の近くも好きって言ってくれるなら、嬉しいな。でもやっぱり、世界樹の近くには敵わないか」
笑って言ったら、いきなり予想外の事を言ってくる。
「ん、んん?……れんげちゃんの傍、あったかい……?うん、れんげちゃんの傍、大好きだよ?」
「おぉい!?この数秒で何があった!?」
いきなり世界樹に追いついちゃったよ!
「クス、レンの傍は癖になりますよドライアド」
人を食べ物みたいに言うなっての。
いや、ドライアドって植物の大精霊なら、あながち間違ってないのか?
光合成的な。
「っていうか、ウンディーネだって、自分から会いに行ったでしょ。ボク見てたんだからね」
とシルフが言う。
そういえば、ディーネとはソウルと出会った日にはじめて会ったんだよな。
「だって、レンと話がしてみたかったんです。しょうがないじゃないですか」
なんて可愛らしく言うディーネに笑うしかない。
「ボクもそうだけど、世界樹の近くが特に好きな大精霊は、自分から会いにくると思うよレンちゃん。まぁボクは祠が魔界だから、特殊な方だけどね」
あ、よく考えたら、魔界に行く手間が一つ省けたのか。
それはラッキー。
「世界樹ってくらいだから、水と木と風、あとは土とか?」
と聞いてみると
「そうだね。後は月のルナマリヤや日のアマテラス、光のレニオンや闇のカオスとかかなぁ」
シルフが答えてくれる。
そんなに自分から会いに来てくれそうな大精霊が居る事に驚く。
「まぁ、世界樹が嫌いな精霊なんて皆無だから、心配しなくて良いよ?ボク達は特に好きってだけだから」
ちょっと照れるけど、嫌われるより全然良いね。
でも、気になる事があるから聞いてみる。
「そいえば、ディーネは見た目人間になってついてきてくれてるけど、二人はどうする?」
その言葉に悩む素振りをみせる。
「んー、ボクは人間の姿って苦手だし、妖精の姿で人間がいっぱいいる所は行きたくないしなぁ……レンちゃんの傍は凄く魅力的なんだけどなぁ」
「うんー、私も、れんげちゃんの傍には居たいけど……人間がたくさんいる場所は、無理かなぁ……」
うーん、やっぱり基本人間がたくさんいる所は無理か。
あれ、人間がたくさんいる場所は、か。
そいえば、母さんのユグドラシル領はすんごく広いのに、住んでるのは母さんと兄さんだけだったんだよなぁ。
「それなら、ユグドラシル領で、私達の家でも作る?」
と思いつきで言ってみたら。
「「「それ良い!!」」」
とすんごく歓迎された。
「お、おお。凄いくいつきだね。母さんに相談は要るけど、多分OK貰えると思うからさ。そこで私達の家を作ろう。なんていうか、これから増えそうな気がするしさ」
その言葉に。
「あぁレン、最高です」
「れんげちゃん、私達の為に……ありがとぅー!」
「あはは、ボク達大精霊が皆集まれる場所かぁ、素敵だね!ボクももちろん協力するからね!」
なんて言ってくれた。
うん、思いつきだったけど、楽しくなりそうだな。
アーネストにも協力させるか、あいつなら言わなくても手伝いに来そうだけども。




