162話.買い物を終えて
「お会計……に、2359万9459ゴールドになります」
「はい、これでお願いします」
一つの街で食料品を全て買い占めるのは他の皆の迷惑になるので、色々な国へ『ポータル』を使って移動して買っていった。
アイテムポーチの中なら入れた時から時間が進まないので、劣化しない。温かい物は温かいまま、冷たい物は冷たいままだ。
ちょっとずるをしようと、レストランとかで料理を頼んでそのまま入れたらどうかな?って提案したら
「食器そのまま盗む事になんだろ」
とアーネストに呆れた目で言われた、悔しい。いや考えたら当たり前だったんだけれど。
「あ、なら屋台とかでたくさん買っておくのはどうですか?それなら容器も使い捨てですし、売る側も利益が出るしで良い事尽くしじゃないですか」
なんて照矢君がフォローしてくれて。その案は速攻で採用され、出店で売っている様々な食べ物を手分けして買い占めて行った。
「俺、一回で良いからたこ焼きとか焼きそばとか、作れるだけっ!って言ってみたかったんだよな!」
「子供かお前は」
「なんだと蓮華!俺がそう思ってたって事はだな、お前も……」
「アー!アー!聞こえないー!」
うん、確かに私もそう思った事はあるけれど。それを口にしないのが品性というか理性というか。
ほらみろ、玲於奈ちゃんとハルコさんも苦笑しちゃってるじゃないか。
「あ、私もアイスクリーム作れるだけっ!とか言ってみたかったじゃン!丁度あっこで売ってるし、ちょっと買ってくンよ!」
「お姉様、私も行きますー!」
玲於奈ちゃんとハルコさんがソフトクリームを売っている屋台へと駆けて行く。美味しいよねアイスクリームもソフトクリームも。
「俺と蓮華にノルンとゼロ、それにリヴァルさんとタカヒロさんの合わせて6人分で、どんくらいそこで暮らす事になるかはまだ未定だけどよ……こんだけ買い込んだら数年は楽勝じゃねぇか?」
「そうだね。大食いのアーネストが3人分くらいあるかもしれないけど」
「ぐっ……俺は育ちざかりなんだよ!」
「私だってそうだよ」
「そういやお前、小食になったよな。ダイエットでもしてんの?」
「お前、それ絶対私以外の女性に言うなよ?」
「分かってるって。蓮華にしか言わねぇよこんな事」
お互いに気軽に話せるこの関係を、私は心底気に入っている。おそらくアーネストもそうだろう。
「なんかすぐお腹いっぱいになるんだよ。でも、果物とかならいくらでも食べられるんだけど。なんでだろう?」
「自然に関する物ならいくらでも魔力に変換できるとかじゃねぇの?」
「え、でも肉だってそうなはずだけど……あれ、そういえば私食べ物を魔力に変換してるのかな?」
「俺に聞くなよ!?」
そりゃそうだけど。うん、これは一度母さんに確認すべきかもしれない。もしかしたら、いくらでも食べれるようになるかも……
「ただいま!注文して、とりあえず今食べれる分だけ持ってきたじゃン!……って、どしたン?」
両手にソフトクリームを持った玲於奈ちゃんが、怪訝そうな顔でこちらを見てくる。私達は気を取り直して、玲於奈ちゃんからソフトクリームを受け取った。
「うめぇっ!やっぱこれだよな!」
アーネストはチョコレートのソフトクリームを選び、私はストロベリーのソフトクリームにした。なんか見た事もない色をしたソフトクリームがあったんだけども。
「ふむ、アーネストサンはチョコ、蓮華サンはイチゴっと」
気付けば、玲於奈ちゃんが何かをメモしていた。何を書いてるんだろう?
「皆さんお待たせしました」
「あ、兄ちゃん!」
何を隠そう、今はトイレ休憩のお時間だったので。
「便器からあったかい水が飛んで出たのじゃ!?」
「こ、こらミレイユ!そう言う事を大声で言わない!」
「だ、だってじゃなテリー!」
ああうん、他の異世界にはウォッシュレットとかないのかな。魔石で似たよう物作れそうだけれど……。
とりあえず全員揃ったので、また買い物を再開した。
照矢君達はダンジョンで過ごす間の物。だけど、そのアイテムポーチと中身の物は全て元の世界へ持って帰って良いと伝えているので、私達から渡したお金とは別で、自分達で稼いだお金で色々と買っているようだった。
ただ、私達が特訓する空間で過ごす時間が長くても、この世界ではそんなに時間が経たないはずなので、照矢君達はそこまでの時間レベル上げを行えないと思うけれどね。
そうして買い物を終えて、家に帰ってきた。もう夕日が昇っていて、そろそろルナマリヤの時間になりそうだ。
一応補足しておくと、ナンパ野郎は結構居た。居たけれど、アーネストや玲於奈ちゃん(照矢君ではなく)に撃退されていた。
玲於奈ちゃんがとてもかっこよかったです。
「ただいまー。アリス姉さん、良い子にしてたー?」
「うん、してたよー!って!私は小さいお子様じゃないからねー!?」
「あはは、ごめんごめん」
私に抱きついてくるアリス姉さんの頭を優しく撫でる。柔らかく絹のような感触が気持ち良い。
「お帰りアーちゃん、レンちゃん、それに皆も。買い物に行ってたの?」
「うん、たくさん必要になるかなって」
「それなら、現品を一つ買っておいて、魔法で複製すればずっと減らないんじゃない?」
「「あ……」」
ぐっはぁ!そういえばそうだっ!最初から母さんに言えば良かったー!
「ま、まぁまぁ蓮華さん。俺達も買い物楽しかったですから」
「そ、そうそう蓮華サン!それに、食いモンだけじゃなくて、色々買えたじゃン!」
「そうだよね、ありがとう……」
うん、市場にお金を循環させたという事にしておこう。気を取り直して、と。
「それで母さん、時間の流れが違う空間は出来たのかな?」
「うん!バッチリだよレンちゃん!とりあえず中に行ってみる?」
「大丈夫なの?えっと、生涯で何時間しか入ってられないとか、そういう制限あったり……」
「なんでそんな制限つける必要があるの?元々神しか使えないような空間だよ?自分を鍛える事しか興味のない人なら別だけど」
言われてみればそうだよね。そこで過ごして、戻って来たら自分だけ歳を取ってて、周りは変わってない……いわゆる浦島太郎の時代は変わらず自分だけ歳をとったパターンなわけで。
そんなの、誰だって嫌だろう。
「ちなみに、あの空間で1年過ごしても現実世界では1分くらいだよ?」
「うぇぇっ!?」
それはつまり、60年過ごしても1時間しか経たないって事!?
「兄ちゃん、私らレベル上げする時間あンの?」
「蓮華さん、アーネストさん。1440年ぐらい過ごしてきてもらって良いですか?」
「「ぶふっ!」」
一日くらいレベル上げさせてくれって意味だよね?分かるけど1440年ってちょっと。
「人生14回くらいクリアしろってか?」
「その計算は1回の人生を100年生きれたらだけどなアーネスト……」
「流石にそれは飽きるぞ多分。いや強くなる為ならそんくらいするべきなのか……?」
うーん、あるラノベでは1億年修行してたって話も読んだけれど。流石にそれはちょっと……いや、まだ100年すら生きていない私には想像もできない。
「それじゃ、私達がどれくらいで戻るかは置いておいて、2日……ううん、3日は照矢君達もレベル上げに使うって事でどうかな?」
「はいっ!それでお願いします!」
その案に照矢君も玲於奈ちゃんも嬉しそうだ。
「話はまとまったかな?それじゃ、ついてきてね。場所はここから少し離れた所に作ったからね。扉をくぐればその『世界』へ出るから。特訓に適した『世界』を創っておいたから、驚くと思うよー」
なんて、母さんはまるで子供のように楽しそうに笑って言うので、こっちは逆に身構えてしまった。
こういう時の母さん、鬼畜仕様なんだよね……。




