155話.ノルンの家族
「よく来たな。おっと、初めましての人も居るのか。俺はタカヒロだ」
「ああ、初めまして。リヴァルだ、よろしく頼む」
リヴァルさんからしたら初めましてじゃないんだけどね。事情をタカヒロさんになら言っても良いと思うんだけど、勝手な事はしないでおこう。
「綺麗な人だな、リンスレットにも負けてない。それに……滅茶苦茶強いな、どこで知り合ったんだ?」
小声でこっそり私とアーネストに話しかけてくるタカヒロさんに苦笑する。リヴァルさんが未来の自分の姿だと知ったので、リヴァルさんを褒められると間接的に自分まで褒められているように感じてしまって照れる。
「えっと、あはは。それよりタカヒロさん、学園は?」
「ああ、それなら大体の引き継ぎは終えてるぞ。それに、魔王から帰ってこいって言われたら、帰るしかないからな」
そりゃそうだね。タカヒロさんは唯一魔王リンスレットさんの副官だし、そもそもが普通の生徒じゃないわけで。
「もしかしてノルンと一緒に帰った彼の件で?」
確か、ゼロって言ったかな?タカヒロさんはそれを聞いて微笑んだ。
「ああ。ノルンが弟が出来たって喜んでてな。今は基礎知識を教えてる所だ」
「タカヒロさんが直接教えてんの?」
そう聞くのはアーネストだ。アーネストもゼロの事は気になっていたようだね。
「ノルンに教えていたからな、そのままゼロの事も任されたんだ。ったく、この世界の奴らは皆人使いが荒いよな」
その言葉に苦笑するしかないアーネスト。なんでもそつなくこなすから、ついつい頼ってしまうのは分かる気がする。
タカヒロさんに城内を案内されながら、アスモの話題になった。
「そうそう、アスモデウスもようやくレヴィアタン領から帰ってきてな。今はリンスレットから任務を渡されて、城に居ないんだ。後で来てたのを知ったら悔しがるだろうな」
とても楽しそうにそう言うタカヒロさんに苦笑するしかない。二人はノルンの姉と兄のように感じるんだよね。
話していたら、他の部屋よりひときわ大きな部屋の扉の前で止まった。
「ノルン、ゼロ。蓮華達を連れてきたが、入るぞ?」
「ま、待って待っ……」
ガチャリ、とノルンが言葉を言い終える前に扉を開けるタカヒロさん。するとそこには、ゼロに上から乗っかっているノルンの姿があった。
「……すまん、取り込み中だったか」
そう言って部屋の外に出て、扉を閉めるタカヒロさん。
「待ってぇぇぇっ!話を聞いて!これは違うのよ!?」
という声が部屋の中から聞こえた。うん、分かってた。べたな展開だけど、どうせ何かあってあーなったんだろうなぁと。というか多分タカヒロさんは分かっててやったな、間違いない。だって口元が笑ってるからね。
それから部屋に入ると、ノルンとゼロはすでに立ってた。
「ノルン、そういう事は夜にだな……」
「違うっつってんでしょうが!」
悪乗りするタカヒロさんに、ノルンは顔を真っ赤にしながら憤慨していた。うん、焦りまくってるノルンが可愛いから続けてしまうんだよね分かる。
「そこ!ニマニマしてんじゃないわよ!?」
怒られてしまった。ノルンとのこういう会話も楽しいから続けていたいけど、話が進まないからしょうがない。
「コホン。とりあえずその話は置いておくとして」
「捨て置いて良いわよ!」
ノルンが叫ぶけど、気にせず続ける。
「実は、私達特訓する事にしたんだ」
「今までもしてたじゃない」
「お前、言葉足らず過ぎるだろ」
アーネストに突っ込まれるなんて悔しい。家で話した時間の経過が遅い空間での特訓について、アーネストと共に説明した。
「へぇ、それは良いわね。それって人数制限とかはあるの?」
「どうだろう?」
「わかんねぇけど、あっても母さんと兄貴なら大丈夫じゃね?」
それもそうな気はするけど。
「もし大丈夫そうなら、ゼロも一緒にダメかしら?」
「俺も?」
今まで黙って話を聞いていたゼロが、不思議そうに言った。
「ええ。アンタ魔神で神族だから、私と一緒で寿命は無いに等しいでしょ?なら、そこで時間が経っても問題ないし」
「俺は、姉さんが良いなら、構わない」
「なら決まりね。良いでしょ蓮華、アーネスト」
「「勿論」」
拒む理由は無い。ノルンの弟なら尚更ね。
「面白そうだな、それ俺も付き合っても良いか?」
「タカヒロさんも!?」
「ああ。スキルとか色々修行したいんだが、中々時間が取れなくてさ。そこなら俺もゆっくり修行できそうだ」
「私は勿論大歓迎だよ!」
「俺もだぜ!リヴァルさんにタカヒロさんもとか、めっちゃ楽しみになってきたぜ!」
もはや大丈夫な事が前提だけど、私も楽しみになってきた。
話はまとまって、リンスレットさんの所に話をしにいったら、予想外な事になった。
「駄目だ。タカヒロは構わんが、ノルンは絶対に駄目だ」
真剣な表情で、リンスレットさんからそう言われてしまった。
それを聞いてノルンの表情が沈んでしまった。普通に言われたなら、どうしてだって食い下がっただろう。だけど、リンスレットさんは真剣だった。
魔界の唯一魔王で、母さんや兄さん達原初の神々と同列の存在。
そんな凄い方が、これだけ真面目に駄目だと断言したからだ。それにはきっと、深い理由があるに違いなかった。
「あの……理由を聞いても、良いですか?」
それでも、やっぱり聞いておきたい。そう思って声を出した。
「……だろ」
「え?」
「ノルンが一気に成長してしまうだろ!?」
「「「「え?」」」」
「これから少しづつ大きくなっていくノルンの成長を楽しみにしていたのに、そんな所で特訓したら戻ってきた時に一気に大人になってしまうだろ!?」
「「「「……」」」」
なんという……いや気持ちは分かるけど!大切な我が子の成長を見守りたいって普通の事だけど!
「おいリンスレット。その空間で修行する事が、何かノルンに悪い事があるから駄目だと言ったんじゃ……」
「そんなわけないだろ」
「……」
タカヒロさんまで二の句が継げない。勿論私もアーネストも絶句している。リヴァルさんは下を向いて笑っていた。
「リンスレットー!?」
「ノルン、お前が行くなら私も行くからな!」
「それこそ駄目に決まってるでしょ!?」
「どうしてだ!?」
「どうしてか言わないと分からないの!?」
「分からん!」
「それでも唯一魔王かー!」
「私はノルンの母親だ!」
「ぐぅぅっ!」
リンスレットさんとノルンの言い争いが始まってしまった。
でも、会話の中身が中身なので、終始ニマニマしながらそれを見てしまう。
「なぁ蓮華、これどっちが勝つと思う?」
「んー……なんだかんだで、リンスレットさんが折れるんじゃないかなぁ。だってリンスレットさん、ノルンの事大好きすぎるでしょ」
「はは、だなぁ」
「それでも少し時間はかかりそうだな。皆俺の部屋に案内するから、そこで寛いでてくれ」
タカヒロさんにそう言われ、私達はこの場を後にする。でも、ゼロが動かなかった。
「ゼロ、どうした?」
タカヒロさんが振り返り声をかけると、ゼロはリンスレットさんとノルンを見ながら言った。
「俺は、ここに、居たい。駄目、かな?」
それを聞いたタカヒロさんは、凄く優しい表情になった。
「そうか。良いぞ、ノルンを頼む」
「うん。ありがとう兄さん」
「おう」
タカヒロさんはそのまま前を向いて、歩きだした。私達もそれに続く。
ていうか、ゼロはタカヒロさんの事を兄さんと呼んでるのか。
寡黙で何を考えているのか分からないけれど……ノルン達と一緒なら、家族の温かさを知って、まっすぐ成長してくれる気がするね。




