154話.リヴァル、正体を伝える
「それで、一体何事だ?有無を言わさず連れてこられたんだが……」
そう言うのは困り顔のリヴァルさんだ。というわけで、皆の居る前で母さん達に話した事をもう一度話した。
「成程……それは私の特訓にもなるし、良いな。お前達が私並みに早めになってくれれば、私も特訓相手として申し分なくなるし……うん、良いんじゃないか」
あっれぇ!?リヴァルさんが意外にも乗り気なんだけど!?
「いやいやリヴァルさん!分かってんのか!?その空間で経った時間が、今の時間と時の流れが違うったって、それでも実際に流れてる時間は変わらねぇんだぞ!?」
そう。例えばその空間で10年の時を過ごして、こちらの世界では1日しか経っていなくたって、10年経っているのは変わらないんだ。
「ああ、勿論分かっているさ。ふぅ、もうここに来て隠す必要も無いか。私の歩んできた未来と、もうかなり変わっているからな」
「良いの?リヴァルちゃん」
「何か強制力のようなものが働くかと懸念していたんだけど、それもなさそうだからさ。だから……真実を話す事にするよ、母さん」
「「え?」」
「そっか。分かったよレンちゃん」
「ああいや、呼び名はリヴァルで頼むよ母さん。少なくとも過去の世界での私は、リヴァルとして生きるから」
「ふふ、そっか」
ちょっと待ってちょっと待って。え?どういう事?脳が理解を拒んでいるんだけど。
「いやいやいや、嘘だろ……?リヴァルさんって……蓮華、なのか!?」
「フ……ああ、そうだアーネスト。隠していて悪かったな」
「うっそだろ……あの蓮華が、こうなる、だと……!?」
私とリヴァルさんを見比べながら、そう言うアーネスト。
「驚く所はそこなのか……」
リヴァルさんも苦笑しているけど、未だに私は唖然としていて何も言えない。
だけど、もしかしたら……と考えた事は何度でもある。でも、その度に実力が桁違いに違うから、私じゃないと無理矢理納得していた。
「私が知っている過去とは、今の時点で大分変わってる。まず、私の過去ではこんな話にはならなかったからな。この時点で、ノルンはすでに敵の手に落ちていた」
「「!!」」
「私は母さんや兄さん、そしてアーネストにノルンを救いたい。お前達が強くなれば、私も今よりも強くなる事ができるはずだ。どうか、力を貸してほしい」
そう言って頭を下げるリヴァルさん。答え何て、決まっている。
「頭をあげてくださいリヴァルさん。そんなの、当然じゃないか!リヴァルさんは私達の為に未来からきてくれて、力になってくれた。ううん、これからだってなってくれるって分かってる。だから……私達で力になれるなら、喜んで力を貸すよ!」
「ああ、蓮華の言うとおりだぜ。それとまぁ、なんつーか……やっぱリヴァルさんはリヴァルさんだぜ。どうしても、今の蓮華と似ても似つかねぇわ」
「そうか?まぁ、色々と経験してきたからな。精神は随分と変わったように思う。だけど、体つきは私と同じになるぞ?途中で成長は止まったけど、これからその空間で長く過ごすなら、もう同じ状態にまで成長するだろうな」
「私もそんなグラマラスな体になるの!?」
「それはまぁ、私は未来のお前だからな蓮華。必然的にそうなるんじゃないか?」
そっか、言われてみればそうなんだけど。でも、どうしても私は……今のリヴァルさんのような、大人の色気が出せる気が全くしないんだけど。
「あ、リヴァルさん。未来の俺って、やっぱこのままなのか?」
アーネストがそう質問した。そうだ、アーネストは体の成長が止まってるんだった。
「いや?アーネストも成長は止まっているが、二十歳前後までは成長しているぞ。そこからは止まってるけどな。恐らくだが、体が随時適応していき、その年齢が一番力が強く維持できる体なんだろう」
「そっか、良かったぜ。蓮華に身長抜かれて見た目まで俺の方が幼くなるとか、なんか嫌だからな」
「ははっ。お前は変な所を気にするんだな。私にとってアーネストはアーネストだぞ?」
片目を瞑ってウインクするリヴァルさんに、アーネストが慌てている。
「その見た目でそういう事言うのやめてくれよ!めっちゃ心臓に悪いわ!」
なんだろう。相手は未来の私なのに……嫉妬してるわけじゃないんだけど、むずがゆいこの気持ち。
「フ……だけど、私の相棒はお前じゃなく、私の時代のアーネストだ。アーネストは強いぞ、私もずっと苦戦してる」
そういえば、リヴァルさんは私達の敵だと最初言った。それってつまり……
「リヴァルさん。もしかして……今リヴァルさんが敵対しているのって……」
「そうだ。私の家族が全員、敵になっている」
「「!!」」
なんて、ことだ。母さんも兄さんも、アーネストすらも敵になっているっていうのか。
そんな絶望的な状況でも諦めず、戦ってきたのか……。
「そう辛そうな顔をするな。私にも味方は居る。ミレニアや大精霊達は今も仲間だしな。今の時点ではまだ出会っていない者も居るが、そいつらもかなりの強さだ。私だけなら、もう負けていただろうさ」
「リヴァルさん……」
リヴァルさんの顔に、悲壮感は無い。強いな……力が、じゃない。勿論力も強いのは知ってるけど……その心が。母さんや兄さん、アーネストにノルンまで敵に回って、そして……あれ?アリス姉さんは?
「ねぇリヴァルさん、アリス姉さんは……」
「……すまない、それについては言えない。それはお前の為でもある」
「私の……?」
「ああ。それに、もう過去は変わった。きっと私と同じような事にはならないだろうさ。だから、気にするな」
そう言うリヴァルさんの表情は切なくて……これ以上聞く事は躊躇われた。
「さて、話を戻そう。私は蓮華達と一緒にその空間で特訓をする事に異論はない。むしろこちらからお願いしたいくらいだ。最初は私が教える事になるだろうが、追いついてくれれば私も相手として非常に助かるからな」
リヴァルさんの言葉に、私とアーネストは顔を見合わせて頷く。
「よろしくお願いします、リヴァルさん!」
「すぐに……とは言えねぇけどさ、絶対に追いついてみせるぜ。頼む、俺達を鍛えてくれ!」
そう頭を下げると、リヴァルさんは微笑んでくれた。
「ああ。期待している。後、どうせならノルンも加えたいが……」
なんて、リヴァルさんが言ってきて笑ってしまった。
「ははっ!やっぱリヴァルさんは蓮華なんだな」
「どういう事だ?」
「それ、ここに来る前に私も言ったんだ」
「フ……成程」
そう微笑むリヴァルさんは、やっぱり綺麗で。私は本当にこんな綺麗な人になれるんだろうか。自画自賛になるから変な気持ちだけど、リヴァルさんはとびきりの美人だ。
「話はまとまったようだな。私とクロノスはこれで戻るが、何かあれば来ると良い。力になってやれる事があれば、協力してやるからな」
「それでは皆様、どうかご武運を」
そう言って、アテナとクロノスさんは去って行った。
あの人達も物凄い実力者なんだよね。最強の女神、ユグドラシルと互角の存在。私とアーネストの目指す場所。
「よぅし、絶対強くなってやる!」
「おう!」
私達は気合を入れる。そうだ、絶対に母さん達に追いついて、大切な家族を守って見せる!
「ふふ、気合十分だねアーちゃん、レンちゃん。その空間はミラヴェルと一緒に作っておいてあげるから、ノンちゃんを呼んできたら?リンには先に伝えておいてあげるから」
「ありがとう母さん!行くぞアーネスト!」
「おう!……ってちょっと待て!お前『ポータル』でまだ魔王城行けねぇだろ!?」
「あ……」
そうだった。だから魔界の陸路で行ってたのに、忘れていた。
「はは……そうか、私も昔はこんなだったな。私が使えるから、安心してくれ」
「……やっぱリヴァルさんが蓮華の未来とか嘘だろ?」
「なんだとー!?」
失礼しちゃうね!……でもうん、私も少しそう思ってしまったので強く言えなかったり。
さぁ、ノルンに事情を説明しに行こう!




