150話.メタモルフォックス族
ユグドラシル領の自宅へと一旦戻り、母さんと兄さんに事情を説明した。ミラヴェルも離れた所で背を壁にもたれながら聞いていたけれど。
「成程ねー。この子、メタモルフォックス族だね。そのダンジョンに迷い込んで、ダンジョンに取り込まれちゃったんだろうね」
「そんな事あるの?」
「うん。特にこの子みたいに特別強い魔力の持ち主ならね。この子、ダンジョンに吸い込まれずにそのままの肉体で復活したんでしょ?普通は時間でダンジョンに吸い込まれて、新たに出現するはずだよ」
「「あっ……」」
照矢君と玲於奈ちゃんがハッと声を出す。確かに、今までの魔物も消えていたのを思い出す。
「それで、種族の話に戻るね。この子は姿を偽る事ができる種族で、変身、変化、呼び方は色々あるけれど……姿を変える事が出来るんだよ。最初に見た姿は、この子が変化していた姿って事だね。この小狐の状態が素の状態。かなり稀少な種族で、出会えてもこの姿を見れるなんて中々ないよー?」
今も私の膝の上で、指をぺろぺろと舐めてくる可愛いこの子を見る。
「キュゥ?」
なんて声をだして、首を傾げる姿に愛しさがマックスになる。
「そうなんだ。それで、この子飼っても良いかな?」
「良いよー。ロキとアリス、アーちゃんも良いよね?」
「勿論ですとも」
「勿論だよ!」
「あー、まぁ予想通りっつか……蓮華、世話はお前がすんだろうな?」
「勿論。母さん、エサって何をあげたら良いの?」
「うーん?油揚げでもあげたら良いんじゃないの?」
そんな適当な。確か狐は雑食だったはずだけど……。
「ふむ。そこの狐、言葉は理解できていますね?人型になってみなさい」
兄さんがそう言うと、膝元が光ったと思ったら、私と同じ姿をした女性が現れた。
「うぇっ!?」
「キュゥ!」
私と全く同じ姿の女性が、さっきと同じように私に顔をすりすりしてくる。
「兄さん?」
「ふむ、次はアーネストに……その男性に成って見なさい」
「キュゥ」
返事をすると、また姿が光に包まれ、今度はアーネストと瓜二つになった。
うん、それは良いんだけど……
「キュゥキュゥ」
「ヒィィィッ!?」
私は全身に悪寒が走った。
何故かって?さっきと同じように顔をすりすりとこすり付けてきたからだ……アーネストの姿で。
「やめろぉぉぉっ!俺の姿でそんな事すんじゃねぇぇぇっ!!」
「落ち着いてアーくんっ……!」
アーネストが今にも襲い掛かりそうなのを、アリス姉さんがなんとか抑えている。
「ふむ、もう良いですよ。戻りなさい」
「キュゥ」
兄さんがそう言うと、また小狐の姿に戻った。驚いた、言葉を理解しているようだ。それも、兄さんの力を肌で感じているのか、逆らわないようにしているのが分かる。
また膝の上にちょこんと座っているこの子を撫でながら、アーネスト(偽)に擦り寄られた事で摩耗した心を落ち着ける。
「それで兄さん、今のは何の確認だったの?」
「ああいえ、これでアーネストと蓮華が居ない間も観賞……ゴホンゴホン!人型に成れるのですから、食事は特に専用のエサを考える必要はないでしょう」
「そっか、成程……流石兄さん」
「いえいえ」
「俺はちょっとお前の素直さが心配だぞ蓮華……」
アーネストが言うけど、なんでだよ。
「それで、名前なんだけどね」
私の案とアーネストの案を伝えたら、母さんも兄さんもなんとも言えない顔になった。
名前って難しいよね。その人の、人じゃないけど一生ものだもの。だから良い名前をつけてあげたい、これから家族になるんだから。
コンコン、コン吉、コン太……良い名前だと思うんだけど。私の中ではコンコンが最有力候補かな?アーネストのコン子も捨てがたいなぁ。
「コンコンかコン子だよな」
「コンコンかコン子だな」
私とアーネストがそう言うと、アリス姉さんが焦ったように言う。
「ま、マーガリンにロキはどんな名前が良いと思う!?」
アリス姉さんの必死な形相に、母さんと兄さんは……
「コンコンかなぁ」
「コン子も良いですね」
「にゅわぁぁぁー!!」
アリス姉さんが叫んだ。それはもう悲しい表情で。
「ど、どうしたのアリス姉さん?」
「どうしたんだアリス?」
「ど、どうせなら種族名から何かつけるとかどうかなぁ!?」
ふむ、種族名……メタモルフォックスだっけ。でもなぁ、メタモンとかアレを連想しちゃうし、フォックスってまんま狐だし。
「「うーん……」」
私とアーネストは真剣に名前を考える。その間、皆固唾を飲んで見守っていた。
「「メタコン!」」
「いやぁぁぁっ!!」
アーネストと一緒に会心の名前を言ったら、またアリス姉さんに叫ばれてしまった。
両手で頭を抑えながらぶんぶんと顔を振るアリス姉さんに、何故か照矢君と玲於奈ちゃんが肩に手をポンポンと置いていた。何故に。
「うーん……それじゃ、アリス姉さんが決めて良いよ?アリス姉さんの言う名前なら、私も良いから」
「おう、俺もそれで良いぜ!」
「え!?い、良いの?蓮華さんのペットなんだよ?」
「違うよ?私達のペットだよ?」
「~っ!蓮華さんっ!」
感極まったのか、アリス姉さんは私に抱きついてくる。小狐が潰れてギュゥゥ……と言っているのがちょっと可哀相だったけど。
「それじゃ……ええと……う~ん……」
アリス姉さんはああでもないこうでもないとブツブツ言いながら考え込んでいる。
それからしばらく見守る事少し。
「よしっ!決めたよ蓮華さん!」
アリス姉さんが目を開けて、身を乗り出してきた。
「どんな名前にしたの?」
「ふふーん!会心の名前だよ!その名も、モルフォン!」
「「却下」」
「そんにゃぁー!?」
私とアーネストに速攻で却下されたアリス姉さんは心底驚いた顔をしていた。
いやでもね、その名前私達はある蛾ポケ○ンを連想しちゃうんだもん。
「ごめんアリス姉さん、その名前だけは……無理」
「俺も無理だアリス、その名前だけはちょっと……」
私達の言葉に、意味が分からないであろうアリス姉さんはえぇぇぇっ!?と混乱している。
一方でなんで嫌がったのかが分かる、元日本人の照矢君と玲於奈ちゃんは苦笑していた。
「渾身の名前だったのにー。それじゃ、皆で考えようよー」
というわけで、アリス姉さんが言ったと同時にどこかへ行こうとしたミラヴェルを確保し、私達は集まって名前を出しあった。
最終的にミラヴェルの出した案が採用され、この子の名前はタマモとなった。
可愛いし良い名前だと思うけど、コンコンだって良いよね?と未練がましく思っている私だった。




