149話.新たなペット
「皆、ごめんなさいっ!」
初音が去った後、アリス姉さんがこちらを向いて、頭を下げた。最初なんの事か分からなかったけれど、すぐに初音に飛び掛かった事だと察する。
「良いよ、アリス姉さん。結果的に私達は全員無事だったし、きっとアリス姉さんがしなくても、私が飛び出してたと思うから」
「だよなー。蓮華はそういうとこあっからなー」
「なんだと!?」
「お前が今自分で言ったよな!?」
なんてアーネストと言いあっていたら、後ろから笑い声が聞こえた。
「ぷふっ……ホント蓮華サンにアーネストサン、そういうとこずるいっスね。これじゃ何も言えねぇじゃン?」
「流石お姉様、元から言うつもりなかったのに、さもあったけれどこの雰囲気で言う気が無くなったって感じで言うなんて!」
「余計な事を言う口はこの口かぁ!」
「いひゃい!いひゃいれすおねぇさまぁ!?」
ハルコさんが玲於奈ちゃんに頬を捻られて笑いながら涙が出ているのを見て、こちらも毒気を抜かされてしまった。
「にしても彼女、只者ではありませんねぇ。本気の私でも、勝てるかどうか……」
スラリンさんの言葉に、照矢君達の表情が変わる。やっぱり、スラリンさんはとんでもなく強いんだろうか。
「ローズとしてのお主がそこまで言うか。ふむ、妾達も以前より大分強くなっておるが……まだまだ足りぬという事じゃな」
「つってもさ。このダンジョンが500階までなら、これ以上の敵は居ないって事じゃン?」
「そうだね……ここのボスでレべリングするとしても……って、ここでのんびり話してたらボスがリポップするんじゃ!?」
照矢君の言葉に、そこに転がっている巨大な魔物を見る。良い事を思いついた私は、ソウルを持ってそこへ近づく。
「お、おい蓮華?」
「よっ」
一閃。巨大な魔物の体を斬る。そのまま引き抜かずにしばらく。ソウルが血を吸っているのが分かる。
「えっと、ソウルイーターって剣に血を吸わせてるんだよね?」
「確かそう言ってたじゃン。理由知らなかったら、凄い絵面じゃン……」
「そこは理由知ってても絵面は変わらねぇだろ……」
なんて後ろで色々言う声が聞こえるけど、聞こえなーい。
ソウルの強化は私の強化に繋がるから仕方ないんだよ、うん。
そして、血を全て吸い終えたのか、ソウルの恍惚とした感じが伝わってくる。
どうやら相当美味しかったようだ。
「ついでだし、復活するまで待ってようか」
「「「「「え」」」」」
皆の声が重なって笑ってしまった。
というわけで、ボスが復活するまで待つ事少し。甦ったボスに一閃した所、一撃でまた倒れたのでソウルに血を吸わせる。
「あ、レベル上がった」
「私も。これ寄生ってやつじゃね兄ちゃん」
「俺達何もしてないもんな……」
ソウルからもっと、もっとと言う声が聞こえる。かなり美味しいらしい。
「皆、もうちょっとここで狩りしても良いかな?ソウルがこのボスの血を気に入ったみたいで……この機会にもっと倒そうかなって」
「私は蓮華サンが良いなら構わねぇよ。経験値貰ってばっかでこっちが悪い気がすっけど」
「それこそ構わないよ。どうせ一撃だし」
その言葉に苦笑した玲於奈ちゃんは、照矢君を見て頷く。
「俺も全然構いません。納得のいくまでやっちゃってください。俺達は俺達で、少し戦い方の訓練しておきます」
「お、なら俺暇だし付き合ってやるよ」
「アーネストサンとやれンの!?っし、やる気出てきたじゃン!」
「お手柔らかにお願いしますアーネストさん」
「へへ、それはどうすっかなー!」
私がずっとボスを倒してはソウルに血を吸わせている間、アーネストが照矢君と玲於奈ちゃんを相手に模擬戦をして、ミレイユとスラリンさん、ハルコさんは地面に布を敷いて座ってそれを見ていた。
アリス姉さんはこっちにきて、ちょこんとしゃがんでこちらを見ていた。
それから、ざっと100回くらい倒した所で、ボスに異変が起こった。
「ヴ、ヴゥ……」
復活した途端、私に平伏したのだ。
「あ、あれ?さっきまでこんな事なかったよね?」
「うん、敵意はずっとあったね。だけど今はそれを感じないよー」
アリス姉さんもそう言うなら、間違いない。
「もしかして、ソウルの効果かな……」
"はい主。一定量の血を吸った為、隷属の効果が出ました。以後、この種族が主に敵意を向ける事はないでしょう"
隷属って……。向かってくる明確な敵なら倒しやすいけど、最初から服従してる相手に剣を向ける程鬼じゃない。
「えぇと……この場合どうなるんだろう。このボス、こっちに敵意無いけど……でも、ここに居る以上倒されるよね?」
「ヴゥ……ヴゥ!」
ボン!という音ともに、巨大な魔物が小さな狐に変化した。
「キュゥ!」
え、狐ってコンって鳴くんじゃないの?っていやいや驚く所はそこじゃない。小さな狐に変化した魔物は、私の足元に擦り寄ってきて、顔をぐりぐりと押し付けてきた。
「ぐぅぅっ……!!」
「蓮華さん!どうしたの!?何か凄い攻撃されたの!?」
「か、可愛い……」
「……」
アリス姉さんが呆って表情になった気がするけど、仕方ないじゃないか。私に懐いたのって、ティラノサウルスだったし大きいのしか居なかったんだもん!
私は子狐を抱っこする。
「よしよし、うちに来るかい?ここに居ても討伐されちゃうかもしれないし」
「キュゥ!」
「その返事ははいと見るよ?」
そう言ったら、手をぺろぺろと舐めてきた。うは、可愛い。
「蓮華、それさっきのでけぇ魔物だよな?」
「そんな姿は忘れた」
「おま……いやまぁ良いけどよ」
「良いんですかアーネストさん……というか、蓮華さんだったから一撃でしたけど、滅茶苦茶強かったですよそいつ。俺達の攻撃じゃ歯が立ちませんでしたし」
「こいつが決めたら、もう決定なんだよなぁ。母さんも兄貴も絶対反対しねぇだろうし。それにアリスだって……」
「蓮華さん蓮華さん!名前はどうするの!?」
「そうだなぁ……」
「ほらな?」
「あ、はは。よく分かりました」
アーネストと照矢君達が何か話しているようだったけれど、そっちは今は気にしなくて良いだろう。
それよりも、アリス姉さんの言うように名前だね。
「コンコン、コン吉、コン太ならどれが良いだろう?」
「待って蓮華さん、その三択なの!?」
「え?おかしいかな?」
「うぐぅ、そんな純粋な目で言われるとぉ……!」
「おい蓮華、それうちで飼うなら俺達の意見も聞け!」
アーネストがそう言ってくる。そうだな、確かにそうだ。ペットだって家族だからね。
「うん。ならアーネストはどんな名前が良いと思う?」
「そうだな……」
顎に手を添え、考えるアーネスト。
「よし!コン子、コン太郎、コン吉郎とかどうだ?」
「むむ、どれも良いなアーネスト……!やるじゃないか」
「ま、待って待って!?ま、マーガリンやロキにも話を聞こう!?ねっ!?」
何故か必死なアリス姉さんに、それもそうかと頷く。
「やべぇ、蓮華サンとアーネストサンのネーミングセンスが変わらねぇンだけど……」
「どんな人にも変な所ってあるんだなぁ……」
照矢君と玲於奈ちゃんが苦笑しながらそう言っているのが聞こえた。
え、そんなにおかしいかな?
私達は小狐になった魔物を抱いて、外に出る事にした。




