144話.王族として
「カレン卿、私ができる謝礼であればなんでもする!だから頼む!私の、私の家族を……助けてくれ!」
俺の必死の願いを、カレン卿は微笑んで頷いてくれた。
「畏まりましたわ。ナイツマスターである事を差し置いても、大切な家族の為に涙する貴方の願い、聞き届けずして何が騎士かっ!」
そう言うと同時に、カレン卿の剣がガイルとリューゼの剣を弾き飛ばす。
俺にはカレン卿の動きは追えなかったが、それはガイルとリューゼも同様であったのか視線を手に移し驚いている。
「憑依には確か、大きく分けて二種類ありましたわね。一つ目は宿主に寄生するタイプ、そしてもう一つは自立した意識のみを宿らせるタイプ。まぁどちらも殺せば一緒なのですが、貴方達はどちらかしら?」
カレン卿が睨むと、二人は一歩後ずさる。強い、それが俺にすら分かってしまう。
執事であるガイルは、元王国騎士団副隊長であった。引退した今も教えを乞う騎士達は多く、よく指導をしているのを見かけた。
メイド長のリューゼは元は冒険者だった。Aランクパーティのリーダーを務めていたらしいが、色々とあってうちのメイドになったらしい。
二人はその辺の奴らとは違う実力者なのだが……それよりもカレン卿は段違いに強い。
「い、良いのか?確かに宿主を殺せば我らも死ぬ。だがそれは殿下の願いを無視する事になるぞ?」
ガイルに乗っ取った奴が、そう言う。俺は悔しくて唇を強く噛んでしまい、血が流れる。
そうだ、俺の頼みを聞かなければ、カレン卿であればすぐにでも倒せるだろう。だけど……、だけど俺は二人を……しかし、それでカレン卿にまで命の危険が及ぶのなら……!
「ふふ、シロウ殿下はお優しいですわね。今、私の命を天秤にかけましたわね?」
「!!」
こちらの考えなど全て見透かしたようなその瞳に引き込まれる。
こんな状況だと言うのに、俺はカレン卿に完全に見惚れていた。
「大丈夫ですわ。何も、殺すだけが憑依を解く方法とは言っておりません。私は確かに光属性の魔法に適性はありませんが、相手がアンデッドの場合の対策も兼ねて、こういう物を持っておりますの」
そう言ってカレン卿は懐に手を入れる。するとそこから、白銀に輝く剣が取り出された。
「これは『聖剣エクスカリバー』。マーガリン様より賜りし一振り。この聖剣は、邪を打ち払う力を秘めていますの。さぁ、貴方達に耐えられるかしら?」
「「ヒッ!?」」
二人の体から、紫色のガスのような物が外に出る。二人の体は地面へと崩れ落ちた。
「ひ、退くぞ!」
「はっ!」
空を飛びガスがサンスリー王国の方面へと逃げていく。
「甘いですわね。この私から逃げられるわけがないでしょう!はぁぁっ!!」
カレン卿が聖剣エクスカリバーを振るう。剣閃が光と成り、逃げた紫色のガスを覆い尽くした。
「「ぐぁぁぁぁぁっ!サタン様ぁぁぁぁっ!!」」
空を穿つように放たれた光は、そのまま何もなかったかのように消えた。空を見上げれば、青く綺麗だった。
俺は急いで倒れた二人の元に行く。
「ガイル、リューゼ!」
二人とも息がある。その事に安堵し、とりあえず二人は寝かせたままに、立ち上がる。そして、カレン卿へ向けて深々と頭を下げる。
「カレン卿、本当にありがとう。私にできる謝礼ならば、どんな事でもする。ただ、今の私に出来る事は少なく……」
「謝礼など必要ありません。言ったでしょう、気概が気に入った、と。貴方が彼らを救うと言った事に感銘を受けたから、手助けをしたまで。もし貴方が屑であれば、助ける気はありませんでしたわ」
それはつまり、俺の行動を見ていてくれたという事。そして、彼女は誰でも助けるというわけではない、という事か。
確かに、この平和な世界ですら、悪人は居るものだからな……。
「貴方のような王族ばかりなら、守る価値もあるのですけれど。あ、これ秘密でお願いしますわね?」
なんて冗談めいて言うカレン卿に、俺は心底絆されてしまったのかもしれない。
「はは。カレン卿は見た目に似合わず、面白い方なのだな。いつも仏頂面をしていたので、気付けなかったよ」
「公私を分けているだけですわ。それで、何があったのか教えて頂けますわよね?」
「ああ、勿論だ」
そして、サンスリー王国の王城で起こった事を全てカレン卿に伝えた。
この事をユグドラシル領にお住いの蓮華様とアーネスト様に伝え、助力を願う事も。
しかし、その事にカレン卿は意外にも難色を示した。
「どうして、ですか?」
「簡単な事ですわ。天上人である方々に、簡単に泣きついて良いと思っているんですの?」
「!!」
「まずは自分達でできる事を全てする。どうにもならなければ、その後で頼むべきですわ。貴方は、最初から力ある方々に全てを丸投げするつもりですか?」
「そ、れは……」
ぐうの音も出ないとはこの事だった。確かに俺は、自分で解決する為に動こうと思っただろうか。
自分には何もできないと決めつけて、最初から蓮華様やアーネスト様に全てを解決して貰おうと、安易に考えていなかっただろうか。
「そう、ですね。俺が……失礼、私が浅はかでした。出来る者に、力のある者に頼る……それは、王族の取るべき行為ではない」
「クス……ええ、そうですわ。それは民のする事。貴族は、民を守る為に存在しているのですわ。民は守ってもらう代わりに、税を納めている。貴族の義務を忘れた貴族など、ただの屑である事を忘れてはなりませんわよ」
「ありがとう、カレン卿。おかげで目が覚めた思いだよ」
カレン卿は俺の顔を見て、優しい微笑みを向けてくれた。
「他国の王族に不敬かもしれませんが、ご容赦くださいませ」
「はは、ではこれも秘密という事で」
「助かりますわ。それと、誰も居ないのですから、俺、でも構いませんわよ?」
そう微笑むカレン卿を見て、心臓が破裂しそうなくらい高鳴るのを感じる。
「……フォース王国インペリアルナイツマスター、カレン=ジェミニ卿。サンスリー王国第一王子、シロウ=サンスリーの名において、フォース王国国王陛下に謁見する機会を賜りたい」
「カレン=ジェミニの名においてその役目、拝命致しますわ」
「と、形式的なものはこれくらいにしておいて……二人を起こすのを手伝ってくれるかな?」
「クス、了解ですわ。どうせ誰も見ていませんもの。ポーション類も常備しておりますから、すぐに使いましょう」
「ありがとう、カレン卿。神は、俺達を見捨ててはいなかった……」
そうしてガイルとリューゼは目を覚まし、俺達は無事を喜び合った。
事情を話し合って今は国に戻る事は諦め、フォース王国へと向かう。
協力を仰ぐために。待っていてください父上、母上。それにカルナス。俺が、いや……俺達が必ず、救ってみせるから。




