139話.信じるという事
「ちょ、それ大丈夫なの母さん!?」
「地上海に隣接してる国に知らせた方が良いんじゃねぇの!?」
私達が慌てる中、母さんは優雅にソファーへと腰かけた。
「大丈夫よ、ちゃんと対策しておいたからね」
「「対策?」」
「うん。そろそろ……」
「戻ったのじゃ!」
母さんが言葉を言い終える前に、扉が開かれる。そこにはミレニアが仁王立ちしていた。
「まったく、この妾に面倒な事を押し付けおってからに……!」
「ごめーんミレニア。貴女しか頼れる人が居ないんだもーん」
「この、調子の良い事を言いおってからに!」
「その代わり、M&Mのナンバー100台から好きなの10枚上げるから、ね?」
「むぅ……し、仕方あるまい!」
一体何の会話をしているんだろうか?
「えっと?」
「M&Mってなんだ?」
「おいアーネスト」
思わずつっこんでしまう。いや違うだろアーネスト、聞く所はそこじゃない。
「あれ?二人は知らない?結構有名なカードゲームの愛称でね、マジックアンドマジックっていうの」
なんか元の世界でも似た名前のがあったような気がする。カードで対戦するゲームだったかな?やったことはないけど。
「その発案者で原作者がマーガリンでの。今や絶版となったカードも所持しておるのじゃ」
成程。というかミレニアがそういうのやってる事に驚きだよ。
「ちなみに妾は集めているだけじゃがな。いわゆるコレクターというやつじゃ!」
ドン、と机の上に大きなフォルダが数個置かれる。もしかしてこれって……
「これ、全部カード入ってんの!?」
「うむ!」
一瞬言葉が出なかった。凄いな、この量は。座ってるとはいえ、私の頭より高くフォルダが積み上がってる。
というか、ミレニアって公爵家だったよね。お金で全部集めるの簡単なんじゃ?
「蓮華や、お金で全部集められるのではと思わなんだか?」
「な、なんで分かるの?」
「お主ら転生者……いや蓮華の場合は転移者か。まぁどちらでも構わぬが、そ奴らはみな、同じ事を考えるようでな。じゃが、思い出してみよ。妾は発案者を誰と言った?」
「「あ」」
私とアーネストは同時に同じ考えに至る。
「カードにはね、所有者登録があるの。封を開けた人にしか、そのカードは使えないようにね。バトルは専用の空間が一時的に創られるんだけど、そこで他の人のカードは弾かれちゃうってわけ」
無駄に高性能!ゲームなのに凝りすぎでしょ!?
「えっと、トレードとかは?今母さんがしようとしたように……」
「うむ……それでも、レアなカードを譲ろうとしない者は多いのじゃよ。カードで召喚できるキャラクターは実体化もでき、意思疎通まで出来るのでな。友となっている者も多い」
なにそれ凄い。というかそれ大丈夫なの!?
「ああ、勿論じゃが触れる事は出来ぬし、人を襲わせる事も出来ぬぞ」
不安に思った事をすぐに解決されてしまった。しかし、カードゲームか……友達が好きでハマってる奴が居たなぁ。
……ってそうじゃなーい!危うく私までそっち側の会話に集中してしまう所だったよ!
「そ、それはひとまず置いておいて!海底神殿の事だよ!?」
私が焦っているのを、母さんは落ち着いた態度で微笑んで見てくる。ミレニアはそんな母さんを見て、溜息をついた。
「お主、蓮華とアーネストに何も話しておらぬのか」
「だって、先に言ったら二人が飛び出して行っちゃいそうでしょ?」
「ああ、それは否定出来ぬな……」
二人が話しているので、私はアーネストと顔を見合わせる。
「あはは、蓮華さんもアーくんも、まだ気付かないの?」
私達の膝元から、可愛らしい笑顔でアリス姉さんが言ってきた。
「アリス、どういう意味だよ?」
「マーガリンがお礼をしたって事は、要はミレニアが解決してきたって事じゃないのー?」
「「!!」」
そういう事かっ!それなら、母さんがやけに落ち着いているのも頷ける!
「いや、解決はしておらぬぞ?」
「「えぇー!?」」
「あれぇ?」
アリス姉さん、自信たっぷりに言いましたよね!?そんなおかしいな?って顔で言ってもごまかされませんからね!?可愛いけどね!
「海底神殿には『ポータル』が繋がらぬように封じが施してあったでな、それを解除してきたのじゃ。ついでにそこに居た魔物は残らず滅してきたが、魔素が貯まっているのは妾でもどうしようもないでな」
「えっと、つまり……まだこれから魔物が自然発生するって事?」
「そうなるな」
間髪入れず、ミレニアは頷いた。
「放っておいたら、どうなるの?」
「魔物が生まれ、魔界海へと進出するじゃろうな。そこから魔界へ行くか、地上海へ向かうかまでは分からぬが」
「それって、不味い事になる、かな?」
「そうじゃな。数千、数万の魔物が突如出現するじゃろう。人間達の言う、スタンピードと類似した事になるじゃろうな」
スタンピードとは、大量発生した魔物が溢れて暴走する事だったね。確かに、その通りだ。
「ちなみに、レンちゃんとアーちゃんは行っちゃ駄目だからね?」
「「え!?」」
「今回は、各王国に対応させるつもりだよ。なんでもかんでも二人に頼ってたら、成長しないもの。二人はお留守番、良いわね?」
珍しく強めに言ってくる母さんに、私達は反論できるはずもなく……頷いた。だけど……
「二人の友人達は、そんなに信じられない?」
「「!!」」
母さんが優しい目をして、私達を見る。
そうだ、私達の友人達は、とても強い。心も、体も。信じて良いはずだ。
「そうだね。うん、私達は私達で、修行を再開しないとだし」
「おう、そうだな!」
私とアーネストは頷き合う。
「それじゃ、私は国王達に連絡してくるね。ミレニアはリンにお願い」
「人使いが荒いのお主は……報酬は後で受け取りに来るでな」
「はいはーい」
そう言って、二人は部屋を出て行く。
残された私達は……
「それでアリス姉さん、そろそろのいて頂けると嬉しかったりするんですけど……」
「ダーメ♪」
「「……」」
アリス姉さんには勝てなかったよ。その後兄さんが部屋から出てくるまで、私達はアリス姉さんのベッドと化していた。




