35.報告
「そうでしたか、パイコーンが……分かりました。後はこちらにお任せください。そして、今回の依頼の報酬には、任務ランクが不適切であったお詫びも込めて、多めにしておきます。誠に申し訳ありませんでした」
と深々と礼をされる。
「い、いやいや!途中までは普通に俺達でも対応できてましたから!」
とグレクは言うが、一歩間違えれば死んでいたかもしれないのだ。
三人は死を覚悟した。
それでも、護衛対象の私を見捨てず、守ろうとした。
その心意気が私は嬉しかった。
だから、それを伝えてあげる事にした。
「受付のお姉さん、この三人は私を最後まで守ろうとしてくれた。勝てない相手だと見抜いたのに、私を置いて逃げず、私を逃がそうとしてくれた。そこも、評価して上げてほしいな」
そう大声で言ってやった。
周りから感嘆の声が聞こえる。
三人が滅茶苦茶照れているのが分かる。
「そうですか……成程。依頼を全うしようとする、素晴らしい心がけだと思います。実力をつけて、良い冒険者になってくださいね」
と心からの笑顔で言ってくれているのが分かる。
さて、私はこれでお別れだな。
「それじゃ、後は頑張れ。また一緒に依頼をする事があったら、よろしくな」
その言葉に。
「え!?また俺達と依頼受けてくれるんですか!?」
なんて驚いてきた。
ん?どういう事だろう。
「そりゃ、そういう事もあるだろうし。え?もしかして私とは嫌だった?」
「ち、違いますよ!そうじゃなくて、蓮華様が俺達なんかと」
「「グレク!!」」
「あ」
グレクが私の名前を大声で言った事で、しまったという顔をする。
だけど大丈夫だろう。
なんせ、目の前の三人だって別人だと思っていたんだから。
案の定、別に騒ぎになる事はない。
「大丈夫だよ、私は同じ名前の別人だからね」
ウインクしてみる。
三人は照れたような顔をしている。
おお、割と効果あったんだろうか。
中身おっさんなので、少し恥ずかしかったりするんだけど、最近少しは慣れてきた。
なんか体に精神が引きずられてる気がするなぁ。
アーネストにやったら確実に笑われるな、断言できる。
「それじゃ、私はここまでだ。またな、三人とも」
「「「はい!ありがとうございました!」」」
三人が元気よく言う。
手を振ってから、歩き出す。
私が離れて行く中、周りの人達に囲まれている三人が見えた。
和気藹々(わきあいあい)としているようだから、絡まれているわけではないだろう。
カランカラン!
外に出る。
さて、もう夕方だし、宿を取る……のは勿体ないし、一旦帰るか。
もう場所は後日、シリウスに直接聞こう。
その方が絶対早いや。
そう決めて、家に帰る事にする。
-漆黒の翼・グレク視点-
「受付のお姉さん、この三人は私を最後まで守ろうとしてくれた。勝てない相手だと見抜いたのに、私を置いて逃げず、私を逃がそうとしてくれた。そこも、評価して上げてほしいな」
そう大声で言ってくれる蓮華様に、俺達は照れながらも、感謝した。
きっと蓮華様は、俺達の為にあえて皆に知らしめる為に、大声で言ってくれたんだ。
冒険者は、評判と信頼が一番大事だ。
護衛であれば、護衛対象を見捨てないかが一番重要視される。
そこを、俺達は自分の命が掛かったとしても、見捨てないと公言してくれたのだ。
「そうですか……成程。依頼を全うしようとする、素晴らしい心がけだと思います。実力をつけて、良い冒険者になってくださいね」
受付の女性、エミリーさんがそう言ってくれる。
今まで、一度も見た事が無い表情だった。
俺達の事を認めてくれた、そんな気がした。
そんな事を考えていたら、蓮華様が笑顔になった。
「それじゃ、後は頑張れ。また一緒に依頼をする事があったら、よろしくな」
そして、そんな信じられない事を言ってくれた。
「え!?また俺達と依頼受けてくれるんですか!?」
だから、言ってしまった。
だって、蓮華様は確実に、王国最強だ。
蓮華様が望めば、どんな強者や最高ランクの冒険者だって、喜んで歓迎する。
そんな凄い方が、俺達のような駆け出しの冒険者と、また一緒に依頼を受けてくれると言うのだ。
「そりゃ、そういう事もあるだろうし。え?もしかして私とは嫌だった?」
なんて、とんでもない勘違いをされたから、慌てて否定する。
「ち、違いますよ!そうじゃなくて、蓮華様が俺達なんかと」
「「グレク!!」」
「あ」
蓮華様が蓮華様な事は秘密だった!しまったと思ったが、蓮華様は動じていない。
そして思い出した。
俺達も蓮華様が蓮華様だと気付けなかった事に。
そして蓮華様が言う。
「大丈夫だよ、私は同じ名前の別人だからね」
と言って物凄く可愛らしいウインクをしてくれた。
心臓の鼓動が聞こえる。
この人、こんなに強くて美人で可愛いのに、こんな気さくで可愛らしい仕草をしてくるから、まっすぐ見られない。
俺より年下なはずなのに、何故か俺より年上の雰囲気を出しているし、凄く不思議な方だ。
「それじゃ、私はここまでだ。またな、三人とも」
そんな蓮華様ともお別れだ。精一杯元気な声で答えた。
「「「はい!ありがとうございました!」」」
蓮華様が手を振り、外に向かって歩いて行く。
その姿を見送っていると、周りの人達が声を掛けてきた。
「よぉ、お手柄だったんだってな!護衛対象の人から、あそこまで褒められるなんて見事なもんだ!」
「ああ!今度は俺達と一緒に討伐しようぜ!色々と手解きしてやるよ!」
なんて、笑顔で言ってくれるギルドの冒険者達。
これも、蓮華様のお蔭だ。
俺達は、これから一歩を踏み出す。
蓮華様に誇れるように、今度は俺達が蓮華様に力を貸せるように。
「グレク、蓮華様にここまでお膳立てしてもらったのよ。絶対、上に行くわよ!」
コレンが力強く言う。
「ああ。俺達は強くなる。これからだ!アッシ、コレン、頑張ろうぜ!」
「うん!」
「当然よ!」
二人の心強い返事を聞いて、思いは一つだと知る。
さぁ、明日からも頑張ろう!
-漆黒の翼・グレク視点・了-




