132話.魔力激突
夢から覚めるような、そんな感覚。
目を開けると、私の肩に手を置くリヴァルさんが、私からゆっくりと離れて行った。
その様子を見て、アーネストがホッと胸を撫で下ろすのが分かった。
心配掛けてごめん、アーネスト。もう大丈夫だから。
血管の中を駆け巡る魔力が、出口を求めて暴れまわるのを感じる。行き場のない力を解放させろと告げてくる。
「フッ……殻を破ったか、蓮華」
視線を向けると、ミレニアが微笑んでいた。まるで娘を見るかのような優しい視線。今まで暴走する私を抑えていたんだ。
想像以上に魔力を消費しているはず。だというのに、そんな姿をおくびにも出さない。
手加減して倒さない事は、倒す事よりも難易度が上がる。それも、相手を傷つけないようにとなれば……。
ミレニアもリヴァルさんも、私を抑えながらも、私に傷一つとして負わせていない。暴走する魔力は凄まじかったはずだ。何せ、ユグドラシルの純粋な魔力が溢れ出ていたんだから。
「ミレニア、ありがとう。……アーネスト!戦いを再開するから、下がって見ててくれ!」
「!!おうっ!頑張れよ、蓮華っ!」
そう言って、闘技場から離れて行くアーネスト。勝て、とは言わなかった。それはきっと、ミレニアの力を知っているから。
だけど……アーネスト、今この時は……その予想を裏切るよ。
今にも暴れ出しそうで押さえつけていた魔力を、自分の意思で開放する。
吹き荒れる魔力に闘技場全体が包まれた。
「フ、ククッ……そうか、そこまでの力を身に付けたか蓮華。これは、多少本気を出さねばならぬな?」
そう言ったミレニアは、今まで感じた事のない魔力を放出する。
王都・フォースでミレニアと初めて会った時。その時に死を感じた魔力を更に超えている。
でも不思議だ。あの時感じた、絶対的な敗北を……今は感じない。
むしろ……戦える。あの力と、張り合える。そんな気がしている。
「震えてはおらぬな。うむ、うむ。妾にここまで近づけるとは、嬉しいの。……では、来るがいい蓮華や!この吸血鬼の真祖、ミレニア=トリスティア=リーニュムジューダスが相手になろう!」
ミレニアが背中の翼を広げ、初めて構えを見せた。私を、敵と認めてくれた。
「私は蓮華=フォン=ユグドラシル。神界最強の女神、ユグドラシルの化身だ!全力で行くっ!」
足元に巨大な魔方陣が浮かび上がる。陣には模様によって様々な効果を付与できるのだが、今回行うのは単純な威力上昇効果。
私の使う魔法の威力を上昇させる効果がある。
先程は相乗魔法を使う前に単体を消された。なら、今度は!
「炎の雨よ、降り注げっ!『フレイムシャワー』!」
火炎と水氷は本来打ち消し合う。だけど、調整する事で違う魔法へと合成する事が可能だ。魔法はイメージ、これは雨のように降り注ぐ火だ!
「フ……」
ミレニアは笑って、右手を振り降ろす。すると、ミレニアに降り注いでいた火の雨が消火してしまった。
「火の雨とは面白い魔法を使うの蓮華や。しかし、火が水に弱いのは変わらぬぞ?」
つまり、私と同等の魔力を使った水魔法で対応したわけだ。ならっ……!
「『フレイムランサー』『アイスランサー』『サンダージャベリン』『ガイアジャベリン』……」
私の背に並行して魔法を唱えて槍型の魔法を召喚していく。まだまだ、まだ足りない。
ミレニアに届くにはもっと!もっとだ!
「ほぉ……マーガリン得意のマルチ魔法か。あやつはそこに魔術も加えるがの」
そう、この使い方は母さんの見様見真似だ。凄まじい魔力とたくさんの魔力回路を持つ母さんだからこそ使える技。
でも、その条件なら私も出来るんじゃないか?と思った。私には魔術が使えないから、母さん程の数は作れないけれど。
「余裕だねミレニア。一つ一つにかなりの魔力を込めてるから、ミレニアでも当たれば痛いと思うよ?」
どんどんと増える槍の数。もはや後ろは槍で埋め尽くさんばかりだ。
「そうじゃな、では面白い魔法を見せてやろう蓮華や」
ミレニアが左手から、弓を出現させた。魔力で出現させた弓にしては、飾りが豪華なんだけれど……いや、違う。あれは魔弓!?
「気付いたかえ?これはBow of Artemisと言っての。マーガリンが創った至高の武器の一つ、Gungnirに並ぶ神器じゃ」
ミレニア自身の魔力を、更に上昇させている気がする。不味い、ミレニアの魔力だけでも凄まじいと言うのに、更に強化されるとしたら……!
「……行くよ、ミレニア!貫け槍よ!『エレメンタルサウザンドジャベリン』!!」
背に維持した全魔法の槍を、ミレニアへと解き放つ。
ミレニアは目を瞑り……そして、弓を構えた。
「しかと見よ蓮華。これが魔導の真の力じゃ!『アルティメットレイン』!」
ミレニアの手から放たれた弓が、手元から幾千にも分散し、槍を破壊していく!
「くっ!まだまだぁっ!」
壊されていく魔法の槍を、それ以上の速さで増やしていく。けれど、それが失策だった。
「防げるかえ、蓮華や。奥義……『ストームオブミレニアム』」
悪寒を感じた。その次の瞬間、世界が弾けた。
真っ白な世界、まるで核でも落とされたかのような……そんな、まるで別の世界の出来事のように感じた。
「……!…華や!しっかりせい!」
体を揺さぶられている。私は、意識を失っていたのか。
「ハッ!?こ、ここは!?」
「ふぅ……目が覚めたかえ。済まぬな、少し調子に乗りすぎたようじゃ。お主はまだ封を完全には解いておらぬと言うのに……許せ」
ミレニアがしょんぼりとしているので、慌てて言う。
「ミレニアは悪くないよ!?それに、本気で相手をして欲しいって言ったのはこっちだから!……ありがとうミレニア、私はまだまだ強くなるよ!きっと、いつかミレニアにだって追いついて、ううん追い越してみせる!」
そう言ったら、ミレニアは一瞬きょとんとした表情をして
「そうか」
と笑ってくれた。その表情が柔らかで、美人なのに可愛く感じてしまって困る。
ってそうだ、試合は!?と思っていたら、ミレニアが深刻そうな顔をして言った。
「蓮華や、事情はリヴァルより聞いた。そして、落ち着いて聞くのじゃ。……ノルンが、攫われた」
「!?」
試合の事なんてどうでも良いと思えるような内容を、ミレニアから聞かされたのだった。




