131話.解放
切り裂いた場所から、まるで蜃気楼だったかのようにアストラルボディを維持できず消えていく大精霊。
見た目が変わらない為、罪悪感を感じてしまう。
"主、アレは似て非なる者です。主が気に病む必要はありません"
(うん、ありがとう)
私の気持ちを察して、気遣ってくれるソウルに感謝しつつ、リヴァルさんによって次々に送られてくる大精霊を倒していく。
目が充血したかのように赤く、狂った精霊という感じがしっくりくる。
躊躇わずに魔法を使ってくるし、その威力は一歩間違えれば致死レベル。
迷わず殺そうとしてきている。
それが何故なのか、ユグドラシルから聞いている。
精霊は、生物の善と悪を内包した存在なのだと。魔物が誕生したのが、人の負の感情が混ざり合った結果なのと同じように、精霊もまた影響下にあるのだという。
時折、荒れ狂う精霊を見かける事があるのも、負の感情が一定量を超えてしまった為、その力を強制的に消費し、許容量まで減らす行為なのだそうだ。
そして、私の体の内側に刻印された大精霊の核は、言うなれば大精霊の半分の力。表に出ている善の力と、裏にある悪の力。
その悪の力を刻んであるのが、私の体なのだ。理由は勿論あって、私の体はユグドラシルの体である事。精霊達のマナの元である世界樹と同じ存在であるこの体は、浄化作用を持つ。
増え続ける憎悪を浄化し、マナへと還元する。世界樹と私で効果を2倍といった所だね。
これは魔物増加を抑制する効果もある。
ここからが私のした事なんだけど、普段は自動で浄化作用で押さえつけていた力を、私が止めた。
そして閉じ込めていた扉の鍵を、開けた。それによって、封じられていた大精霊の力、その半分にあたる量が一気に表に出た。
ここまでは時の聖域でも同じだ。違いがここからで、時の聖域では単純にマナの最大値が増えて、扱いが難しくなっただけだった。体にダメージを受けない性質を利用して、その力をコントロールしようと訓練した。ただ、あまりの膨大なマナに制御する事が難しく、ユグドラシルがいなければ危なかった。
それが、現実ではそれだけでは済まず、大精霊達の意志が暴走した。善の大精霊達を見てきただけに、甘く見ていた。
自我を宿しているとは思えず、負の想いに支配されている。
何体か倒して支配下に置いたけれど、今は感情を無くしていて、人形のようだ。
もしかしたら、このアストラルボディは目に見えない悪意等負の感情を形にしたモノで、それを倒す事で浄化しているのかもしれない。
残すところ、あと2体。
時を司るミラヴェルに、空を司るサクラ。
ミラヴェルが厄介なのは言うまでもないけど、サクラとは私はまだ会った事がない。
(はぁぁっ!)
殺意に満ちた目を向けるミラヴェルを、ソウルで切り裂く。
本当のミラヴェルが相手なら確実に避けられていたと思う。今戦っている大精霊達は、単調な行動しか行わない。
魔法を直線状に放つ事しかしないから、避けるのは簡単だし、こちらの攻撃に対して防御行動を行わない。
扱う魔力量は私より上だけど、当たらなければってやつだね。そして、半分でこの力。
つまりは、表の善の大精霊達は、力を全然出していないという事になる。
もしくは、刻印に力を多く封じていたのか……そこら辺は分からないけれど。
いずれにせよ、大精霊達の本当の力を扱えるようになれば……遠い背中に追いつく事ができる。肩を並べる事ができる。
その為に、ミレニアやリヴァルさんを利用する形になってしまったけれど……後でちゃんと謝ろう。
(よくやった。次が最後の1体だ。お前はまだ会った事が無かったと思うから、色の付いた人形にしておくぞ)
え?もしかして、今までの大精霊の形をとっていたのって、もしかしなくてもリヴァルさんの仕業なの!?
唖然としていると、リヴァルさんが笑い出す。
(ははは。当然だが、大精霊に形などない。今回形にしたのは、味方が仮に敵になった時の予行演習みたいなものだ)
ぐぅ……なんという。仮にでも、そんな事想像したくないんですけど。仲良くしていた人達と敵対するなんて、嫌すぎる。
今回は同じ姿でも、完全に別と認識していたから、対処できた。
これが、もし仮に……アーネストやノルンが敵になったりしたら、私は戦えるだろうか……。
(さぁ蓮華、最後だ。倒して戻ってこい。いい加減、お前の魔法を受け続けるのは限界だ)
その言葉にハッとなる。そうだ、今もリヴァルさんは、私じゃない私に攻撃を受け続けているんだ。
目の前に最後の1体のアストラルボディが出現する。
見た目はスライムが人型になった、という感じ。
空の魔法は珍しく、使える人はほとんど居ない。本物に会えれば色々と教えてもらえるだろうから、今は気にせずに倒すとしよう。
『ワープ』を使い背後へと移動する。これまでの大精霊と同じように、私の姿を追い、魔法を放ってくる。
だけど、遅い。私に魔法が発動する前に、その体を一閃した。
上下に分かれた体は、そのまま霧の様に消えていった。そこで、私の首筋に傷ができる。
恐らく、空属性の魔法の一つ、『タイムエンゲージ』だろう。未来に指定した空間に傷を作り、そこに指定した時間がきたら発動する。分かりやすく言うと、攻撃の予約みたいな魔法だ。滅茶苦茶難易度の高い魔法で、私はこの魔法をまだ扱えない。
発動した瞬間に効果が出るのではなく、タイムラグがある魔法だからね。
これを本当の大精霊であるサクラが使ったとしたら、私は無事ではすまなかっただろう。
全ての大精霊達を倒した私は、意識が徐々に覚醒していくのを感じる。
リヴァルさんやミレニア、それにアーネストやノルン。他にも多くの人に迷惑をかけてしまったけれど……無事に、刻印の解放は成功した。さぁ、第二ラウンドを開始しよう、ミレニア!




