126話.ランカー
「「「ランカー戦?」」」
オウム返しで聞き返す私達に、アリアさんは丁寧に教えてくれた。どうやら、私達はポイントで100位付近に一気に上がったと言うのだ。
というのも、「マナクルス」の魔物を選んで、当然返り討ちに合う場合があるわけだけど、その場合挑戦した者の総ポイントから1%ほど、その魔物にポイントが加算されるシステムらしい。
つまり、挑んで返り討ちにした数が多い魔物ほど、倒した時のポイントが多くなるという事だね。
で、今回倒した「不沈艦」は、今まで誰も倒していない魔物。つまり、数々の挑戦者達のポイントが凝縮されていたわけで……結果、私達は一気に100位台へと台頭したみたいだ。
「はは。一気に上がるとは思ってたけど、もう挑戦できるのか。よし、師匠命令だ。そのまま各々の闘技場で、ベスト3まで上がってこい」
「「「「!!」」」」
その言葉に驚いたのは、私達三人に加えて、アリアさんもだった。この人今日でどれだけ驚かされたんだろうね。
「勿論このまま終わるなんてしねぇぜ!でもよ、どうせならてっぺんを取ってこいとか言わねぇの?」
アーネストが不敵に笑いながらそう言った。リヴァルさんの事だから、どうせそうだなって言うんだろうなぁ。
「いや、1位は今のお前達でも無理だな。私でも勝てるかどうか分からない相手だ」
「「「なっ!?」」」
これには私達も本気で驚いた。リヴァルさんの強さは、とてもよく知っている。私達じゃ絶対に敵わないし、あの母さんや兄さんだって認めてる数少ない人だ。
そんな凄い人が、そこまで言うなんて。一体、どんな人なんだろう。
そう考えていたら、アリアさんがおずおずと手を挙げて質問をした。
「あ、あの、少しよろしいですか?その、蓮華様にアーネスト様、ノルン様の強さはとてもよく分かりました。ですが、リヴァル様は……いえ、只者ではない事は察する事ができますが……」
アリアさんの疑問に、リヴァルさんが答えるよりも速く私達が同時に答える。
「ああ、私は……」
「「「リヴァルさんは私(俺)より滅茶苦茶強いよ(ぜ)(わよ)?」」」
「……」
アリアさんは、また驚いて固まってしまった。
リヴァルさんは頭をポリポリと掻きながら苦笑している。
「……はっ。し、失礼致しました。あの「不沈艦」を軽く圧勝して見せた御三方からすら、そこまで……。あの、リヴァル様は闘技場にご興味は無いのですか?」
アリアさんの純粋な疑問に、リヴァルさんはハッキリと言い切った。
「ああ、ない。私はもう、ここに用がないからな」
「そう、ですか……残念です」
アリアさんは本当に残念そうに答えた。私もリヴァルさんが戦う所を見てみたいけれど……それよりも、もうという言葉が少し気になった。
未来で、リヴァルさんは闘技場に参加していたんだろうか。いや、きっとしていたんだろう。そして、一位の人と面識があるのかもしれない。
「確か、通常戦と違ってランカー戦は日程の予約が必要だったな。三人共、手続きをしてしまえ」
「「「はいっ!」」」
それから私達はこの街の宿泊施設に泊まり、闘技場のランカー達と戦う事になった。
最初のランカーとの戦いは二日後で、100位のウォルフという魔族の方だった。特段見どころのようなものはなく、初級魔法で一撃だった。
晴れて100位になった私は、その後すぐに90位の方へと戦いを申請。その日のうちに受理され、翌日に戦う事に。
これまた言う事もないかな……。という具合に、順調に順位をあげていった。20位に挑む頃には、すでに私達の名前は広がっていた。
街を歩いていると応援してると声を掛けられるし、闘技場ではどちらが勝つかの賭けをしているので、儲けさせて貰ったから驕りだって物をくれたりした。
なんていうか、魔族の方達も気さくな人が多いと感じたよ。それは私達が強いから、なのかもしれないけれど……。
そして、闘技場のランカーに挑む日は続き、私は2位に、アーネストは3位に、ノルンは2位にそれぞれ到達した。
「あー、相手の日程のせいで、お前らより上がるの遅くなっちまったなぁ」
アーネストの言葉に、私達は苦笑する。
「しょうがないでしょ、それは。それに、私達はアンタが2位に負けるなんてこれっぽっちも思ってないわよ」
「そうそう。アーネストが負けるとしたら、あのリヴァルさんが言う1位の相手くらいでしょ」
今私達は、デビルズホテルという宿の最上階に泊まっている。それぞれ個室のスイートルームなんだけど、広すぎて落ち着かないので、こうして私の部屋に集まって雑談している。
リヴァルさんも同じ階の個室でゆっくりしているはずだ。
「まぁ俺の事より、明日の蓮華の相手だな。やっとベールに包まれてた相手と対面できるだろ?楽しみだぜ」
「うん。2位の人が挑まなくなってから、ずっと戦いを見れていないんだよね」
魔の闘技場、元2位のイレーヌさん。凄まじい魔法の連射をしてきて、楽しい相手だった。多分、ダンピールより上だったと思う。
そんな彼女が、負けた時に言った。
「貴女もとても強いけれど……あの方は別次元よ。私は、貴女には勝てないと思うけれど……あの方には、挑みたいとすら思えないもの……。貴女は、あの方に挑むのでしょう?なら、すぐに分かるわ……頑張ってとは言えない、ただ、折れないでね……」
そう言って、舞台から降りていった。その表情は、決して負け惜しみを言っているわけでもなく、ただ本当にそう思っていて、私に伝えてくれたんだと思う。
「そういえばアーネスト、武の闘技場の方は2位もヤバいらしいわよ」
「え、マジで?」
色々考えていたら、ノルンが気になる事を言い出した。
「ええ。なんでも、剣聖って呼ばれているらしいわ。日程の調整も、魔の闘技場に関係しているとかなんとか……」
「「剣聖!?」」
「ど、どうしたのよ二人とも。何か知ってるの?」
ど、どうしたもこうしたも……。ミレニアから聞いた事がある。
確かミレニアのメイド……従者であるシャルロッテが、剣聖だって。
「お、おいアーネスト。もしかして、いやもしかしなくても、シャルロッテが相手なんじゃ……」
「マジか、あのメイドかよ。くぁー!俄然楽しみになってきたぜ!あん時は全然勝てる気しなかったけどよ、今はちげぇ!」
アーネストは凄く嬉しそうだ。ここら辺が、私とはもう違っていると感じる。
私はシャルロッテと戦うとしたら、嬉しさを感じるだろうか?
「どうやら知り合いみたいね?まぁ聞いた話だから確実とは言えないけどね。私の試合は3日後だし、アーネストは2日後よね?なら、明日の蓮華の邪魔はしたくないし、そろそろ戻りましょうか」
「おっと、そうだな。蓮華、リヴァルさんの予想を良い意味で裏切ってやれよな!」
「あはは、善処するよ」
「政治家みてぇな返事だな……」
「それ前も聞いたような気がするぞアーネスト」
なんて話をして、今日はお開きとなった。
そして翌日、魔の闘技場の入り口前ではお祭り騒ぎになっていた。
闘技場の前にはすでに人人人で、溢れかえっている。皆これまでの私の快進撃をずっと見てきたから、魔の闘技場1位との戦いを楽しみにしているんだろう。
リヴァルさんはそんな中、いつも通り受付の前で立っていた。これだけ混雑している中で、リヴァルさんの周囲には少し空間がある。強者特有のオーラというか、そういうものを感じ取って、皆少し距離をあけているんだろう。
私達はリヴァルさんの元へと歩いていく。人が波のように広がり、まるで海を割ったように道が出来上がる。
「蓮華、私は今回の戦いは勝てると思っていない。だから、言える事はこれだけだ。全力で行け」
「リヴァルさん……はいっ!」
私はリヴァルさんに笑顔で返事をする。リヴァルさんは私の頭をぽんぽんと叩いた後、腕を組んで見送ってくれた。
「蓮華!頑張れよ!」
「アンタを倒すのは私なんだから、負けんじゃないわよ!」
アーネストの応援と、ノルンの言葉にちょっと連想しちゃったキャラが居て笑いそうになりながらも、二人に手を挙げて魔の闘技場へと進む。
そして闘技場に辿り着いた時、見知った人が……そこに立っていた。
「よう来たのう蓮華や。まさかもうここまで来れるようになるとは、妾も驚いたぞ?」
そう……吸血鬼の真祖、ミレニア=トリスティア=リーニュムジューダス。母さん達と同格の存在で、ナイツオブラウンドの将、アンジェさんの娘。
最強の魔の者が、そこに居た。




