125話.観戦 ☆
魔の闘技場での戦いを終え、リヴァルさんの居る場所に戻ってきた。
受付のこの場所には、天上からぶら下がるように大きなモニターが設置してあって、それぞれの闘技場の戦いを見る事が出来るようになっている。
闘技場で直接見ようにも満員で入る事が出来なかった人や、落ち着いて見る事を好む人は、ここで見るようだ。
ソファー等、座る場所が多々設置されているし、売店もあるので過ごし易い空間と言えるんじゃないかな。
「蓮華、また物足りなかったか?」
周りを見てそんな事を考えていたら、リヴァルさんに声をかけられた。
「そう、ですね。あ、でも彼が全力を出せていたら……結果は変わらなくても、楽しめたかなって……」
「はは、そうか」
私の返答に、リヴァルさんは笑って、アリアさんは口をポカーンと開いていた。美人さんが台無しな表情になってますよ?
「……あ、し、失礼しました。本当にとんでもない方ですね蓮華様は。あの『不沈艦』を相手にそんな事を言える者など、魔界広しと言えどそうはおりませんよ……」
彼がもし全盛期の、創られたばかりの頃だったならば……もっと魔法で長時間戦えただろう。彼の実力は高かったし、その人格も好ましいものだった。
あ、そういえば一つ気になった点がある。
「一つ聞きたい事があるんですけど、良いですか?」
「はい、この闘技場に関する事でしたらなんなりと」
先程までの表情とは打って変わって、仕事人の顔だ。
「えっと、ダンピールなんだけど……今まで負けなかったから、創られてから今まで生きてきたんだよね。なら、今回で私が倒して……次に創られるダンピールは……その……」
「それは……」
同じ人なのか、それがどうしても言えなかった。
アリアさんは言葉に詰まった。きっと、私が聞きたい事を理解して。
それを見たリヴァルさんは、しょうがないなって顔をして私の頭に手を置いた。
「全く同じ存在は居ない。仮に居ても、それはもう別の何かだ。例えば、私がお前をもう一人創れたとして、見た目が同じなら蓮華だと思うか?」
「!!」
「そういう事さ。そして……アレは長い時を偶々生きたから、意思が宿った稀有な例だ。魔剣とかと同じだな。だから、次に創られたダンピールは、全く同じ姿をした別物だと思え」
「そっか……」
意気消沈する私に、リヴァルさんはそのまま頭を撫でる。
「気にするなとは言わない。その気持ちは大事な物だ。だけど、割り切る事も覚えろ。アイツも言ってたろ、気にするなって」
「うん、リヴァルさん……」
「よし、良い子だ」
頭をわしわしと力強く撫でながら、笑顔でそういうリヴァルさん。ちょっと塞いでた心が軽くなった気がした。
それから、まだ帰ってこないアーネストとノルンがどうなっているのか聞いてみた。
「ノルンは……どうやら終わったみたいだな。アーネストは……あいつめ、遊んでるな」
リヴァルさんがアーネストの映っているモニターを見て、ニヤリと笑った。
私もその映像に視線を移す。
武の闘技場は、魔の闘技場より舞台が少し狭い。その為アーネストの機動力が活かし辛いように思う。
だけど、敵の攻撃を全て紙一重でアーネストは避けている。紙一重と言うと、ギリギリで避けているっていうか、語弊があるかもしれない。
そうじゃなくて、完全に見切って避けているんだ。最小限の動きで回避している。
「相手に技を少しでも多く出させようとしているな。いつでも倒せるだろうに、闘技場の敵すら修練相手にしているんだろう」
リヴァルさんの言葉に、私はアーネストとの特訓を思い出した。
「隙ありだぜ蓮華っ!」
空中に飛び上がり、ネセルを左手だけ振るうアーネスト。ネセル、本名はネスルアーセブリンガーという魔剣。
私の魔剣になったソウル、本名をソウルイーターから呼び間違えられた事が原因で、今はネセルと名乗っている。
二本の双剣で、凄まじく細く長い長剣だ。自分の身長よりも長い剣を、アーネストは巧みに扱う。
ただ、ネセルの厄介な所が剣に固形されない所だ。まるで鞭のようにしなったりする。今も柄に近い部分は剣だが、先はアーネストに巻きつくように覆っており、身を守る盾の役目すら担っているのだ。
アーネストの双眸が、私の動きを見逃すまいと睨む。
「『地斬疾空牙』!」
「あめぇっ!その技は喰らわねぇよっ!」
左手にネセルを構えながら、空いた右手で『地斬疾空牙』の生み出した衝撃波を弾く。
空中に居ながら、私の『地斬疾空牙』を避けるアーネストに舌を巻く。
「『オーラ』で弾いたのか!でもその体制からこれは避けられないだろアーネスト!『轟炎翔龍脚』!」
足に炎を纏わせて蹴り上げる。まぁただの炎合わせたキックなんだけど、そのままだとかっこ悪いので、ちょっと名前つけてみました。
ギィィッ!
「っぅ~!!」
「ぐほっ!?」
蹴った私はネセルの硬さにダメージを受け、アーネストはその衝撃を空中の為受け切れずに飛んでった。
地面に数バウンドしたアーネストは即立ち上がり、私に近寄ってきて抗議する。
「おい蓮華!格闘術とかありか!?」
「ありに決まってるだろ。っていうか、ネセルを盾に使う所からこっちも言いたい事あるんだけど?」
「うっ!?」
「それに、『オーラ』で先に私の技を回避したのアーネストじゃん。あれだって弾いてたけど、受け流しっていう格闘術の技みたいなもんじゃないか」
「うぅっ!?」
「それなのに私には格闘術を……」
「だー!ごめんって!俺が悪かったよ!」
「あははっ……」
「おまっ!からかってたな!?」
なんてやり取りをしながら、訓練してたんだよね。
アーネストは、双剣でありながら双剣の戦い方だけじゃなく、状況に合わせた戦い方ができる。
それも相手に合わせた戦い方をするのを好む。私は片手剣(刀)だから、アーネストも双剣でありながら片方だけ使うとかよくするんだよね。
今も敵に合わせて戦っているのか、ネセルを片方しか使っていない。
左手の髑髏が柄にある方の剣のみを振るっている。相手の剣撃を避け、払い、完璧な防御をしながら相手の隙を伺っている。
そうして見ていたら、ノルンが戻ってきた。
「あれ、アーネストは?」
「勝ったんだよね?おめでとうノルン。アーネストはまだ戦ってるよ」
「ありがと。アンタも当然勝ってるんでしょうし聞かないわよ。というか、アーネストがまだなんておかしいわね」
ノルンが首をかしげながらモニターを見て
「ああ……」
と納得したような表情へと変わる。
「あいつ、本当に戦い好きよね……」
「あはは……」
私は苦笑しながら再度モニターに視線を移す。
画面には楽しそうに戦うアーネストと、何故か笑っているように見える魔物が映っていた。
途中の挿絵はソノさんから頂きました。
ありがとうございます。




