34.街道
ズバァ!
「アッシ!止めを!」
「了解!」
ザシュゥ!
「ギャァァァッ!」
「うっし、上出来だな」
私達は街道を進んでいる。
もちろん馬車ではなく、徒歩でだが。
意外にも街道には魔物が溢れていた。
少し脇道に逸れるだけで、それはもううじゃうじゃと居る。
最初にこの道を通った時は、そんな事は無かったはずだ。
三人に話を聞くに、今年まではそんな事は無かったそうだが、ここ最近マナが溢れてくるようになり、魔物も活性化したのだという。
うーむ、こんな所にも影響が出ているとは。
そういえば、この三人だが、流石にロイヤルガードのシリウスと比べるのは酷かもしれないが、割と戦えていると思う。
リーダーのグレクは身軽さは無いが、的確で強烈な一撃で獲物を仕留めるか、弱らせている。
魔道師か魔法使いだと思っていたアッシは、魔法戦士だった。
杖に魔力を注ぎ、マジックブレードにして斬りつけていた。
コレンは魔法使いのようで、グレクやアッシのサポートに徹していた。
うん、良いパーティだと思う。
私?見てるだけだよ。今の所何もしていない。
楽だね、うん。
「にしても、こんなに魔物が多いなんてな。街道進んでるだけでこれじゃ、他は考えたくねぇな」
「それね。にしても、植物系の魔物が異様に多いわよね」
「グレク、コレン、ここら辺はドライアド様の加護が強いから、魔物もその影響を受けているんだよ」
「へぇ、そうなのか」
「そうなのね」
その言葉に、はぁと溜息をつくアッシ。
「グレクは仕方ないけど、コレンは知っててよ……」
と愚痴るアッシだった。
「へぇ、アッシは博識なんだな」
と思った事を言ってたら
「そ、そそそそんな事ないですよ!僕なんてまだまだで……!」
めっちゃ狼狽えていた。
どうしたんだろうか。
それを見ていたグレクとコレンが呟く。
「「惚れたな(わね)」」
聞こえた私は、あー、と思ったが。
まぁ、中身はおっさんなんだ、ごめんよと心の中で謝っておいた。
そしてまた街道を進む。
そろそろ夕方かな、という頃に、それは現れた。
「グル……」
なんだあれ、鹿?にしては、随分と大きいけど。
見れば、三人がカタカタと震えているのが分かる。
「あ、あれは、パイコーン……!」
「と、討伐ランクAの、化け物がどうしてこんな場所に……」
グレクとアッシが言う。
あんまり強そうに見えないんだけどなぁ。
「アンタは逃げなさい。私達は護衛なんだから、アンタだけは助けてみせる」
そう、震えながらコレンが言う。
「ああ、そうだな。蓮華さん、護衛失格かもしれねぇけど、ここから先は守れそうにねぇ。だから、逃げてくれ」
「そう、ですね。蓮華さん、僕達が時間を少しでも稼ぎます。だから、この魔物の出現を街に……ギルドの仲間に伝えてください……!」
決死の表情で言う。
うん、こいつら、自分の命よりも、仲間を慮れる奴らだ。
私は、こういう奴らは大好きだ。
だから、守る。
今はまだ、私の方が強いから。
ソウルを構え、三人の前に出る。
「「「!?」」」
驚く三人。
しょうがないから、認識阻害の魔法を解除する。
「「「なっ!?」」」
今、私はあの王覧試合で見た、私に見えている事だろう。
「騙すような真似になって悪かったね。大丈夫、あいつは任せな」
そう言って、魔物に一歩近づく。
魔物は雷を纏っている。
なら、土が有効だな。
「崩れろ!『アースクエイク』!」
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
とパイコーンの足場が揺れ、割れて穴へ落ちる。
岩雪崩が起き、パイコーンに襲いかかっている。
パイコーンは雷で壊そうとするが、岩には効果が薄い。
そこへ飛びかかる。
「さよならだっ!」
ザシュゥ!!
「GYAAAAA!!」
声にならない声を上げて、胴体が二つに別れ、息絶える。
それを見届けてから、ソウルを鞘に納める。
うん、やっぱ大した事なかったけど、これで討伐ランクAなのか。
長期戦だと強かったとかだろうか。
よく分からないな。
三人の元に歩いて戻る。
「大丈夫だったか?」
私の言葉に、顔を何度も上下に振る三人。
「そうか。あれ、お前達のアイテムポーチに入れて、依頼達成にして良いよ。私は要らないし」
その言葉に。
「で、できませんよ蓮華様!あんなの、俺達じゃどうやったって勝てやしなかった……!」
「そ、そうです。蓮華様、僕達なんかじゃ、受け取れませんよ……」
「蓮華様、私、その……ごめん、なさい」
三人にどうしたものかと思案する。
「んー、なら、貸しって事で」
「「「貸し?」」」
「ああ。三人はこれから、あの魔物より強くなって、オーガストで一番の冒険者になるんだ。そうしたら、貸しはチャラって事で良いよ」
そう笑顔で言う。
「蓮華様、俺……俺、蓮華様みたいに強くなれますか!?」
グレクがそう尋ねてくる。
私は悩んだが、正直に伝える事にした。
「それは分からない。だけど、努力は裏切らないよ。大丈夫、一歩一歩進んで行けば良いと思うよ」
そう、簡単に言うわけにはいかない。
でも、努力は裏切らない、これは本当だ。
その言葉に。
「はいっ!」
と元気良く言うグレクを見て安心する。
「あの、その……私、蓮華様だと気付けなくって、それで……」
しどろもどろになっているコレン。
「そうしていたのは私だからね。気にしなくて良いよ」
と笑顔で言ったら
「は、はいぃ……!」
なんか顔を赤らめてしまった。
この世界にきてから、この反応が多い気がする。
これが普通なんだろうか。
「ぼ、僕……強くなります。蓮華様に、強くなったって言われるくらい、強く……!」
「そっか、頑張れ」
その言葉に、嬉しそうにするアッシを見てから、皆に伝える。
「それじゃ、仕舞ってから帰ろうか。あ、また私って分からないようにするから、皆も知らない時と同じようにお願いね」
「「「そんな無茶な……!」」」
三人が口を揃えて言うのを、笑いながら魔法を掛け直した。




