117話.時の狭間~ソロモン王~
見渡す限り何もない場所。
それが時の狭間と呼ばれる『空間』である。
他の世界と隔離された場所に存在し、その名の通り時間の流れの違う世界。
それは他の世界よりも早く、それは他の世界よりも遅く。
"王よ。ソロモン王よ。器の力は増大した。そろそろ我の力を扱わぬか?"
聖剣のように光を感じさせる刀身が半分。しかし、漆黒の闇を感じさせる刀身が半分。
その名をゴエティアという魔剣が、現在の主足るソロモンへと声を掛ける。
ソロモンはゴエティアを振るうのを止め、その場にあぐらをかいた。
「もう少し待ってくれゴエティア。まだこの器は育つから。力の受け皿は大きければ大きい程良い。ずっと待っていたんだよね?もう少しを待てないという事もないだろ?」
"ハハッ!それもそうだ。いやすまぬ、王の歩く先を早く見たくてな、気が急いてしまっていたようだ"
刀身は剣だが、まるで若者が笑っているかのように感じたソロモンは微苦笑した。
「だけどそうだね、何者にも負けぬ力を蓄えてから支配に取り掛かるつもりでいたけど……その足掛かりを僕が行う必要も無いかな」
"フム?"
ソロモンの呟きに、ゴエティアは首を傾げる。いや刀身なので、実際は動いていないのだが。
「時の狭間に居ながらも、魔界は監視していたんだ。そこで見つけたんだよね。僕の72使徒に勝るとも劣らない、良い性根をした魔族をさ」
"そいつを手足に使うつもりか?王よ"
「土台を整えて貰うのも良いかなって思ったんだ。何から何まで僕がするのは、手間だからね」
"クク、王は力を見せつけるだけでよかろうとも"
「うん、それじゃ少しだけ外へ出ようか。今の僕の力でも……こいつくらいなら跪かせれるだろうから」
"承知した、王よ"
ソロモンが手を翳すと、空中に人が通れるほどの輪が出来た。
手に魔剣ゴエティアを持ったまま、ソロモンはその輪を潜る。
景色が変わり、そこは周りが空にまで達しようかという程の高さの木々に覆われていた。
その先に大きな屋敷がある。
屋敷の後ろは下が見えない崖となっていた。
"フム、魔界の奥底……冥界で言えばコキュトス……ジュデッカのような場所だな"
「言い得て妙だね。ここは高位魔族が好んで住む場所だからね。環境が劣悪なんだ」
ソロモンは話しながら、屋敷へと歩いていく。
無遠慮に扉を開け、中へと入る。
その気配に気付かぬわけもなく、その屋敷の主人は声を荒げた。
「何者だ!この俺をゼクンドゥスと知っての狼藉かっ!」
ゼクンドゥスが放つ強大な魔力を、まるで意に還さずにソロモンは淡々と告げた。
「初めましてゼクンドゥス。僕はソロモン。君を僕の配下に加えたくて、今日は来させてもらったんだ」
「配下、だと!?この俺を、配下だと!?」
ゼクンドゥスは高位の魔族、いや魔神である。
配下を持つ事はあっても、配下になるなど考えた事がなかった。
それ故に。
「この俺にそんな大言を吐くとはな。どうやら死にたいようだ」
並みの者ならば、立っている事も出来ないほどの魔力がゼクンドゥスの体から迸る。
しかし、ソロモンはそれを受けても、まるでそよ風を受けたかのように涼しい顔をして立っていた。
これには流石のゼクンドゥスも警戒をする。
「……少しはできるようだな。下手に実力があると、簡単には死ねないかもしれんぞ」
「大丈夫だよ、僕は君を殺すつもりはないから」
「ぬかせっ!」
ゼクンドゥスは右手に魔力の剣を創りだし、ソロモンの心臓へと突き立てた。
ソロモンは微動だにしない。
「フン、口ほどにも……何!?」
ソロモンの心臓を貫いたかのように見えた剣は、その刀身が消えていた。
「俺の魔力を、掻き消したというのか!?」
「うん、僕の能力の一つでね。僕に魔力は通じないんだ」
「なっ……!?」
勿論この力にも制限はあり、自身の魔力量より下まではという条件があるが、それを全て説明などする必要はなかった。
ただそれを見せた事で、目の前の力ある魔神の心を折る事には成功したのだから。
「君は、今の魔界に満足しているのかい?リンスレットが行う統治って、軟弱じゃない?」
「満足など、していない……」
ソロモンの問いかけに、苦渋の表情をしてゼクンドゥスは答える。
「強者がなんで弱者に足を引っ張られないといけないんだい?僕の支配する魔界は違うよ。強者の為の世界だ」
「……俺は手に入れたい者がいる」
「手に入れればいいさ。もし僕とそれが被るなら、僕に君が勝てば良いだけだよ」
そう笑うソロモンの足元へ、ゼクンドゥスは跪いた。
「王よ、俺の力を貸す。その道、共に歩みたくなった」
その言葉に、ソロモンは微笑み返す。
「うん、よろしくねゼクンドゥス」
「ハハッ!」
(俺は蓮華を手に入れたい。だが、蓮華には仲間が居る。俺だけでは不可能だ。ソロモン、お前を利用させてもらう)
こうして、ソロモンは強大な力を持つ魔神、ゼクンドゥスを配下へと加えた。
「それじゃゼクンドゥス、もう少し配下に加えたい者がいるから、一緒についてきてくれるかな?」
「承知致しました」
恭しく礼をするゼクンドゥスに、ソロモンは微笑む。
"王よ、この者は真の意味で服従しているわけではないと思うが"
(分かってるよゴエティア。だけど、利用するのはこちらも同じだからね)
"ククッ……王には要らぬ世話だったようだな"
(ううん、ありがとうゴエティア。また気になった事があれば、言ってくれると嬉しいよ)
そうして、ゼクンドゥスを連れて次なる魔神の元へと移動する。
闇が少しづつ、動き始めていた。




