113話.VS亜種サイクロプス
大きな扉を通り入った場所は、今までのダンジョンとは違い、一つのフロアになっているようだった。
薄暗い地下に、蝋燭の光だけを頼りに周りが見渡せるような。
「『サンライト』」
太陽の光が届かない場所を光で照らす。見晴らしが良くなった事で、ようやくその巨体を目にする事が出来た。
「で、でっけぇじゃン……」
先程の扉よりも、更に大きなその体。
そして特徴的なのが、目が一つしかない。
「サイクロプス、だね」
「だな。しかも、こいつの肌の色……通常の緑じゃなくて、赤い。稀に居る特別力の強い個体、亜種だな」
私の言葉に、アーネストが補足する。
こいつがボスって事かな。
まぁ、一太刀で終わらせるかな。
「はぁぁっ!」
サイクロプスの前まで『ワープ』で移動し、ソウルを振るう。
肉を斬る感触が伝わって……こない。
見れば、サイクロプスの皮膚の上で刃が止まっている。
「なっ!?」
「蓮華!避けろっ!」
「っ!そぉいっ!」
サイクロプスの体を蹴り、後ろへと跳躍する。
先程まで私が居た場所に、サイクロプスの拳が空振りした。
しかも、その空振りから衝撃波が生まれ、壁へとぶつかった。
「うへぇ、こいつもしかして強い……?」
着地してから、思わず零してしまった言葉を、照矢君が拾った。
「蓮華さん!そいつ、物理攻撃無効ってパッシヴスキルを持ってるみたいです!」
あー、魔法には弱いって奴かな。
「了解、それじゃ……」
「蓮華にばかり任せるのもなんじゃからな、ここは任せよ!」
そう言うミレイユの足元に、巨大な魔方陣が浮かび上がる。
おお、あれが別の異世界の魔法!
「喰らうがいい!『遠隔連鎖魔術・インジェクターレギオン』!」
ミレイユの後ろに召喚された9つの物から、凄まじい光線が一斉にサイクロプスへと放たれる。
あの魔力量は、私が使う魔法と遜色ない、むしろ上かもしれない。
あれを直撃したなら、もう灰も残ってな……
「玲於奈!避けてっ!」
「なっ!?」
魔法が直撃した事で、煙が舞い姿が見えなかった事が災いした。
照矢君が叫ぶも、玲於奈ちゃんは両手を前にクロスさせ、もう防御態勢に移っていた。
避けれないと瞬時に理解し、防御する事に決めたのは流石の戦闘センスだと思う。
だけどあの一撃はダメだ。あれを喰らえば、骨が折れるだけじゃすまない。
「『ワープ』!」
「蓮華サ……!」
「グオォォォッ!!」
「蓮華ぇぇっ!!」
『ワープ』ですぐ傍まで移動した私は、すぐに玲於奈ちゃんを突き飛ばし、サイクロプスの一撃を直撃した。
流石に踏ん張りきれずに壁に衝突した。ドゴオオオオン!と、凄まじい音がする。
壁にクレーターが出来上がってるよ。
「蓮華サン!大丈夫っスか!?すンません、私のせいでっ……!」
玲於奈ちゃんが心配そうに駆け寄ってきた。
でも大丈夫、実は全くダメージを受けていないから。
なので、軽快な動きで立ち上がる。
「え、えぇ!?蓮華サン、思いっきり吹き飛ばされたじゃン!?」
「ああ、うん。私の障壁を突き破れるほどの威力じゃなかったみたいだね」
「しょう、へき?」
玲於奈ちゃんがきょとんとする。
あ、その表情可愛い。ってマジマジと見たら失礼だよね。
「うん。何ていうのかな、オーラとか魔術で体を守るのと同じようなものなんだけど……」
「えーと……ATフィールドみたいなもンすか?」
ああー……似てるかもしれない。
「玲於奈ちゃん、意外とゲーマーだったりする?まぁ似たようなものかな。ただ、障壁は受けた分減っちゃうから、毎回同じ値以下のダメージを無効とかは出来ないけど」
「あはは、蓮華サンも知ってるって事は、結構やってたンじゃ?」
「それはもう、装甲が上がる装備をさせて、敵軍の中に突っ込ませたりしてたよ」
「分かります!別名、あんたら盾になれフィールドじゃン!?」
「ぶはっ!!」
玲於奈ちゃんのあんまりと言えばあんまりな略し方に吹き出してしまった。
「あははは!まぁ障壁は時間で回復するんだけどね。で、人によってこの障壁は大小あるんだけど、玲於奈ちゃんがあのゲームやってたなら分かると思うけど、本人の防御力が高ければ高いほど、この障壁は減らないわけだよ」
「成程……つまり蓮華サンは虫さされとか気にしなくて良いじゃン?滅茶苦茶羨ましいンですけど」
「え、そこなの……」
今まで障壁の話でそんな事言った人居なかったから、ビックリだよ。
「蓮華!無事なんだな!?」
二人で話していたら、サイクロプスの相手をしてくれているアーネストが声を掛けてきた。
「大丈夫!それより、そいつ物理無効だけじゃないのか!?」
「照矢に鑑定の結果を聞いたんだが、どうやら魔法は90%カットするみてぇだ!」
えー。物理無効で魔法ほぼ無効とか、あれかな、異世界転生した主人公かな。
50階やそこらで出て良い魔物じゃないと思うんですけど。
ここに辿り着くまでの魔物からランクアップしすぎというか、初見殺しも良い所なんですけど。
「いやいや、それゲームだとクソゲーじゃン……どうやって倒すンだよ」
うーん、そういう無効系って他の弱点があったりするものだけど……。
「あははは!ミレイユ様あんなに自信満々で魔法を唱えたのに、効いてないって……あはははは!」
「こらースラリン!お主笑いすぎなのじゃー!」
あっちはあっちでなんか揉めてるけど。
サイクロプスはアーネストと照矢君が、前衛でなんとか抑えてるみたいだけど……アーネストはともかく、照矢君は一撃でも貰ったらヤバい気がする。
「蓮華サン、なンか方法あるかな?」
真剣な表情で聞いてくる玲於奈ちゃんに、なんと答えたら良いものか。
正直、物理無効魔法ほぼ無効じゃ……あ、ほぼ無効か。
なら、あれ効くかな。成功率普通なら物凄く低いんだけど、こういうタイプの奴には効くかも。
「うーん、試してみるよ。闇魔法に一つだけ、あいつに効きそうなのあるから。えっと、耳を今から塞いでおいてくれる?」
「え?……ン、いつでも良いよ蓮華サン」
玲於奈ちゃんは素直に両手を耳に当ててくれた。
良い子だね。
「アーネスト!照矢君!ミレイユ達の所まで下がって、耳を塞いで!」
「!!了解だぜ!」
「わ、分かりました!」
二人ともサイクロプスの攻撃をかわし、後方まで撤退する。
私はスイッチするように前に出る。
「グオォォォォッ!!」
巨体が大声をあげる。
思わずこちらも耳を塞ぎたくなるくらいの声量だ。
「物理無効で魔法がほぼ無効……この、ほぼって所が味噌だよね。それってつまり、一応効くって事だから。だから……通常ならほぼ効かない魔法だけど……効く気がするんだよね」
そう、闇魔法の禁呪の一つ。成功率は限りなく低いものの、成功すれば実力差に関わらず相手を殺す事が出来てしまう。
その名も……
「冥府へ送ってあげるよ。『デスロード』」
「グガッ!?ギャァァァァァッ!!」
聞き取りにくい声を上げながら、サイクロプスは地面へと倒れた。
「ふぅ……効いて良かった」
「蓮華!やったのか!?」
アーネストや皆がこちらへと走ってくる。
「うん、なんとなく即死耐性は無いんじゃないかなって思ったんだ」
「成程なぁ……でもよ、効かなかったらどうするつもりだったんだ?」
「え?そりゃ、その時はほんの少しでも魔法が効くんだから、死ぬまで魔法乱れ打ちかな?」
「そ、そうか……」
「えげつないじゃン蓮華サン……」
なんか皆がちょっと引いてるような……だって、それしか方法なさそうじゃないか。
「というか、こんな奴がこんな階層に出るって、そりゃ探索が進まないわけだね……」
「だな」
この『ポータル石』は辿り着いた階までなら瞬時に移動できる物だから、次は51階から行けるだろうし、このボスが再度出るのだとしても、照矢君達は飛ばせる。
うん、それだけでもついてきて良かったね。
っと、忘れないうちに……
「ん?蓮華、何してるんだ?」
「ソウルに血を吸わせようと思って。死んだ後なら、無効も消えてるでしょ。よっ!」
ズバッと今度は簡単に斬れる。うんうん、予想的中。
「はいソウル、たーんと吸って良いよ。ついでにこいつへの特攻追加されたら、次から攻撃通るかもだしね」
「蓮華、お前……」
「蓮華サン……マジパネェっス……」
「魔王です、魔王がいますよお姉様……」
「ケイよ、魔王は妾なんじゃが……いや、まぁ蓮華もそんな気がしてきたのじゃ……」
「あはは、蓮華さんは魔王の素質ありますよー」
うん、私の後ろで好き勝手言ってる皆には、後で説教が必要だね。




