111話.ダンジョンの奥へ
玲於奈ちゃんに案内されながら辿り着いたダンジョン。
走って、なんて言ってたので、そこまで距離は無いのかと思っていたんだけど、途中までオーブのあった遺跡と同じ道だった事もあって、結構な距離だった。
どれだけ飛ばしたんだろうか。ダンジョンの入り口で見張りをしている騎士の方達が驚いてたからね。
「あれ嬢ちゃん、帰ったんじゃなかったのかい?」
「ン、帰ったよ?ほら、ダチ連れてンでしょ?」
「「……」」
騎士の二人が、信じられないという表情で口をあんぐりと開けている。
「こ、ここから街まで片道数時間は掛かるんだが……嬢ちゃんは凄……って……れ、蓮華様ぁ!?」
「そ、そ、それにアーネスト様まで!?」
私達に気付いて、表情を直しビシッと敬礼してくれる。
流石に話はまだ伝わってなかったのかな?
「おはようございます。中へ入らせて貰いますね」
「「ハッ!お気をつけてっ!」」
凄いあっさり通されてしまった。いやまぁ、冒険者であれば誰でも行けるって話だったし普通なのか。
「十階までは行けるんだったよな?なら、最初に行くのは決まってんな!」
アーネストの言葉に、玲於奈ちゃんの眼が光った気がした。
「もち十階からっしょ!」
「だよなっ!」
「え、ちょ!玲於奈!?アーネストさん!?」
アーネストと玲於奈ちゃんとは対照に、照矢君は焦ったように言った。
「さ、最初は一階ずつ慎重に行った方が……!」
「いやいや兄ちゃん、騎士団が浅い層は掃討してるって言ってたじゃン?なら、最奥から行くのが良いに決まってるじゃン?」
「そ、それはそうかもしれないけど、ダンジョンの敵の強さも分からないんだし!」
尚も言い争っている二人を横目に見ながら、考える。
実は私がこのダンジョンについてきたいと言ったのには理由がある。
それは、ソウルイーターの強化をしたいと思っていたからだ。
ソウルイーターは、血を吸って強くなる。魔物を倒せば、倒した魔物に特攻が付加されていくように。
また、機能も拡張されていく。最初は成れなかった銃モードが増えたように。
私は普段、ソウルに血を吸わせてあげられていない。だからか、ソウルの能力はまだ低い。
この機会に、色んな魔物の血を吸わせたいと思っている。
「照矢君、それに玲於奈ちゃん。それとアーネスト。悪いんだけど、1階からでも良いかな?今回はどんな所なのか見て回りたいんだ」
なので、当たり障りのない理由をつけて話す。
「ン、蓮華サンがそう言うなら、しゃーねぇじゃン?」
「あー、そうだな。ま、それはそれで面白そうだからなっ!」
二人とも納得してくれたので、照矢君もホッとしているようだった。
慎重だね、嫌いじゃないよそういう所。
リーダーは臆病なくらいで丁度良いんだ。それがパーティを守る事に繋がるからね。
「その代わりと言ってはなんだけど、今回の先頭は私が行くよ。アーネストは後ろを警戒してくれ」
「あいよ。こん中で索敵持ちはいるか?」
「うぃっス。私が使えるじゃン」
「お、玲於奈か。なら俺の前は頼むわ」
「了解したじゃン」
「凄い、あの玲於奈が素直に言う事聞いてる!?」
驚く所そこなの照矢君。
「だって蓮華サンと同格の人じゃン?安心して背中任せられンじゃン」
「おう、絶対にお前達の事は守るぜ?」
「う、うス」
アーネストがいつも通り、笑顔で恰好良い事を言う。
あれ、なんか玲於奈ちゃんの頬が少しだけ赤いような……。
「おねぇさまぁ!!」
「だぁー!抱きついてくンな!お前は前だろケイ!」
「乙女センサーが反応したんです!」
「なンなンそれ!?」
あぁ、うん。なんとなく理解できるような。
「青春ですねぇ」
「じゃなぁ」
なんて、スラリンとミレイユがのほほんと眺めていたけれど、照矢君は意外と苦労してそうな気がした。
「照矢君、男一人だと大変そうだね……」
「分かってくれます!?って蓮華さんも女性じゃないですかっ!それもとびきり綺麗な!」
「でも中身男だからね。気持ちは分かるつもりだよ」
「うぅ、蓮華さん……俺、異世界転生もので、ハーレムってちょっと憧れてたんですけど、やっぱり気を許せる男友達が欲しいです……!」
気持ちはよく分かるので、肩をポンポンと叩いておいた。
私には幸いアーネストが居たからね。
「おーい、そろそろ進もうぜ?蓮華が先頭なんだろ?」
「了解。それじゃ皆、行こうか」
アーネストに返事をしてから、皆でダンジョンを進む。
最初の地下5階までは、薄暗い岩で出来た洞窟の中を進んだけれど、6階からがらりと雰囲気が変わった。
見渡す限りの平原で、川まで流れている。
物理的にどうなってるんだこれ。
「景色が随分と良くなりましたねー」
「そうじゃな。あの魔王ダンジョンに通じるものがある気がするのじゃ」
スラリンとミレイユが話しているのを聞きながら、地面の草に触れてみる。
うん、触り心地も同じ、ただの芝生だ。
「魔物も好戦的な奴がいねぇな。こっちから仕掛けねぇ限り襲ってこねぇし」
アーネストが言うとおり、なんていうかその辺の野生動物のように、ただそこに居るってだけだ。
そのせいで、あまり倒せていなかったりする。
なんというか、こちらから攻めるのもね……。襲ってくるなら、正当防衛と言うか……ここら辺は元の世界の常識のせいかな。
「とりあえず階段を探そうか。アーネスト、階段の場所探知できる?」
「ああ、『サーチ』使ってみっか。ってかお前も出来るだろ蓮華」
「それが、何度か使ってみたんだけど、発動しないんだよね」
「「「「「!?」」」」」
皆が凄く驚いた顔をする。どうしたんだろう?
「おま、そういう重要な事は気付いた時に言えよ!?」
「え?えっと、ごめん?」
「お前それ事の重大さ分かってねぇな!?もしなんかあった時困るだろうが!」
「え?でも『サーチ』以外は使えるし……」
「「「「「……」」」」」
あれ、なんか沈黙が痛いのは気のせいかな。
「オーケー、俺が使ってみるわ。……魔術は使えるな。でも魔法も他は使えるんだよな?」
「うん。魔法の『サーチ』は発動しなかったよ。なんでだろ?」
「うーむ……」
アーネストが腕を組んで考えているけれど、多分分からないだろうな。
「蓮華、『サーチ』とは索敵の魔法という事で良いんじゃな?」
「あ、うん。そうだよミレイユ」
「ふむ。なら恐らく、お主の『サーチ』の範囲が広すぎて、絞れていないのかもしれぬな。少し魔力を抑えて発動してみてはどうじゃ?」
「成程……それじゃ、もう一度試してみるかな。『サーチ』……うわっ!?」
「どうした蓮華!?」
瞬間、物凄い情報量が頭の中に一気にきて、頭がパンクするかと思った。
成程……これは発動できなかったわけだ。これだけ範囲を極小にしてこれじゃ、最初に使っていた範囲だと頭が壊れていたかもしれない。
「大丈夫、情報の多さに頭痛がしただけだから。成程、扱い方に気を付けないと危ないねこれ」
「って事は、使えたのか?」
「うん、大丈夫。次の階はここから20km先にあるね。魔物の数はそこまでに412匹で、こっちに殺意向けてるのは居ないかな」
「相変わらず、蓮華の魔法は普通と違うな……」
「そう?」
「普通、そこまで詳細にわかんねぇっての」
そうなんだ。もっと詳しく言うと、魔物の名前や性別、能力とかも分かるんだけど。
これ鑑定の一種じゃないかなぁ。
あ、そうだ。照矢君があの時、気になる事言ってたね。良い機会だし、聞いてみよう。
「ねぇ照矢君」
「は、はい!なんですか蓮華さん!?」
物凄く緊張しているように見えるのはなんでだろう?
「えっとね、あの時街の人達のレベルが低いって言ってたじゃない?それってどうして分かったの?」
「あ、ああ、その事ですか。俺達は『スキル』で『鑑定』ってのがあって、ステータスが見えるんです。なんかゲームみたいですよね」
おおおお!やっぱり鑑定ってあるんだ!
「そ、それって私達も見れたりするのかな!?」
「あ、はい。それじゃ俺のステータスで良ければ。『ステータスオープン』」
御剣 照矢 男(18歳)
職業 魔勇者
称号 魔王に認められし者(極)
Lv.1554
HP 15,890,000/15,890,000 成長レベルS+
MP 5,583,000/5,583,000 成長レベルB
こうげき力 1,895,000
しゅび力 1,890,800
ちから 1,895,000 成長レベルSS
まりょく 1,122,000 成長レベルA
たいりょく 1,890,800 成長レベルS+
すばやさ 1,585,500 成長レベルS
きようさ 1,587,000 成長レベルS
みりょく 600
スキル一覧
『鑑定』
『闇属性魔法』
『火属性魔法』
『ギガントブレイク』(固有技)(剣必須)
『慈愛の心』(パッシヴスキル)
『守護方陣』(パッシヴスキル)
ふおおおお!照矢君が『ステータスオープン』と言ったら、空に長方形のウインドウが出てきた!
「これが照矢君の今のステータスなんだ!?」
「はい。一応、元の世界じゃかなり強くなったんですけど……今回、あの化け物に手も足も出ませんでしたから……」
「そっか、レベル上限ってあるのかな。でも千を超えてるし、9999までは行くのかな?」
「それなら大丈夫ですよー。私が一万を超えてますからー、最低でもそれは超えれますー」
なんて、スラリンがのほほんと言った。
い、いちまん?一万ってスラリンはどれだけ強いんだろう。
思えば、スラリンが本気で戦っている所って見た事ないね。
「もしかして、スラリンって滅茶苦茶強いの?」
「「「「……」」」」
照矢君に玲於奈ちゃん、それにハルコちゃんとミレイユまでが神妙な顔つきで頷いた。
「えーと……そうだ、それって私達も使えたりするのかな!?」
「いや、無理だぜ蓮華」
「え?」
「実は、俺はこの世界にきてから、最初にそれ試した」
「え」
「なんも出なくてガッカリしたのを今でも覚えてる」
「……ぶはっ!!」
「笑うなよ!?」
「いやだってお前、その場面想像したら笑うなって言う方が無理だろ、あははははっ!」
「くぁぁぁ!だから言ってなかったんだよコノヤロウ!」
画面が出なくてポカーンとしているアーネストを想像してしまって、笑いが止まらない。
「それでですね、えっと……これ重要な事かもしれないんですけど、蓮華さんとアーネストさんには、鑑定が効かなかったんです」
「「え?」」
「私も二人のステータス気になったンで、失礼だと分かってたンだけど、使わせて貰ったじゃン。でも、全く見えなかったンよね」
どういう事だろう?私達に鑑定が効かない?
「実力差がありすぎるンかなって思ったンだけど、それならスラリンも見えないはずじゃン?」
「だけど、スラリンは見えるんです」
「えっと、私達以外は全員見えたの?」
「あ、はい。いやそれも正しくないかも……蓮華さんの家族の方達は、全員見れませんでした」
母さん達もか。もしかして、神族には鑑定が効かないとかかな?
「そっか、自分のステータスを数値として見れるって、ちょっと楽しみだったんだけど……」
「だよなー。努力して数値上がったら、やる気も出るってもんだし。そいや、経験値とかどうなってんだ?」
アーネストの疑問は、私も気になっていた所だ。
照矢君が答えてくれた。
「経験値は割り振りじゃなくて、例えば1体を倒した経験値が100なら、全員100貰えるって感じです。ただし、攻撃か支援をしておく必要はありますけど……」
成程。それって私達もそうなのかなぁ?
「なぁアーネスト、私達もレベルって概念あるのかな?」
「どうだろうなぁ。……そういや、俺達最初に厄災の獣倒しただろ?あれでもしかして一気にレベル上がったんじゃないか?」
「あぁ……」
ありうる。それで少し魔物を倒したくらいじゃレベルがもう上がらなくて、体感できてないのかも?
「この弱い所じゃ経験値が皆に全く入ってないって事かぁ。それじゃもうちょっと進んで、強い魔物が居る層を目指そっか!」
「「「「「おおー!」」」」」
うん、相変わらずノリが良くて気持ちが良いね。
それから私達は、ダンジョンの奥へ凄いスピードで進んで行った。




