109話.信頼
翌朝。
日が昇り、窓からは暖かな日差しが零れている。
まだ少し眠たいけれど、顔を洗って意識を覚醒させる。
「さて、アーネストは起きてるかな?」
昨日の夜、ソロモンの悪魔達……名をパイモンとバティンと言うらしいけど、そいつらを連れて部屋に戻った。
ちなみに、母さんから色々と貰ってる魔道具の中に、拘束魔道具が沢山あったので、それをつけまくっている。なので、もはや身動きすら取れない状態で安全だからね。
尋問する前に、喉を潤そうと台所に行ったら、母さんとリヴァルさんに出迎えられてしまった。
どうやら全てお見通しだったようで。ただ、この悪魔達を連れてきていた事には驚かれたけれど。
で、最初は私とアーネストの質問に何も答えようとしなかった二人の悪魔達が……
「アーちゃんとレンちゃんの質問に答えないのは、痛めつけられても魔力が尽きたら元の体に戻れると思ってるからかしら?なら、痛めつけながらずっと魔力を供給して還れなくしても良いのよ?それと、絶対に『死ねない』ようにしてあげるから、どこまで耐えられるかしらねー」
と、ボソッと言った母さんの言葉に、二人の悪魔は震えあがって、その後の質問には恐ろしくあっさり答えてくれた。
まず、自分達を召喚した者の依頼は、私を捕える事。それも、殺してはいけないという条件付きだったみたいだ。
召喚した者の名は興味が無くて聞かなかったらしい。
それ以上の情報は何もなくて、結局得られた事は私を狙っている誰かが居るって事だけだった。
その後、時間で残存魔力が無くなったのか、二人の悪魔達は消えていった。
消える前に
「貴方達には本体でも勝てる気がしないわ。本当いつのまに地上なんかにこんな強い奴が増えてるのよ」
「だね。ただ、闇魔界に封印された奴の中には、本当の化け物も居るよ。私達は『ついで』に封印された側だけど、あのリンスレットが『封印するしかなかった』奴が居るからね。今回は私達だったけど、そいつを召喚されたら……君達でも危ないかもね?」
と、心底楽しそうに言ったのが印象に残ってる。
それを聞いた母さんが、真剣な表情をしていたので……何か知っているのかもしれないけれど。
「さ、今日はもう遅いから、二人とも寝なさいね。明日も訓練があるんでしょ?」
一瞬で笑顔に切り替えてそう言ってくれる母さん。
アーネストと顔を見合わせ、リヴァルさんに明日、というかもう今日かな。訓練を休めないか聞いてみた所……
「ああ、構わないぞ。ノルンは良いのか?」
なんて、あっさりと許可された上に、ノルンの事にまで気を回してくれる始末。
流石に気になってしまったので、聞いてしまった。
「あ、ノルンは大丈夫です。……えっと、言っておいてあれなんですけど、理由も聞かずに良いんですか?」
そう言うと、リヴァルさんは凄く柔らかく微笑んで言ってくれた。
「ああ。私はお前達の事を全面的に信用している。訓練をサボりたいからって理由じゃないのは分かっているしな。お前達は強くなる事に貪欲だ。そのお前達が、それより優先する事が出来たんだろ?なら、構わない。私はお前達のやりたい事を止めるつもりはないからな」
私達は本当に幸運だと思う。自身の事を理解してくれて、信用してくれて。
リヴァルさんとは出会って間が無いのに、どこか旧知の仲の様な感じを受けるけれど……それはリヴァルさんの醸し出す雰囲気というか、そういうのがあるからなのかもしれない。
「「ありがとうございます!」」
私とアーネストが同時に礼を言ったら、リヴァルさんは頷いて部屋を出て行った。
大精霊達の住む家でリヴァルさんは寝泊りしているからね。
「それじゃアーちゃん、レンちゃん、おやすみ。明日は出掛けるなら、朝食は早めに作っておいてあげるね」
そう言って母さんも部屋を出て行った。
残された私とアーネストは、そのまま座り込み息をはいた。
「はぁ~、許可が下りて良かったな蓮華」
「ああ、緊張したなー。私もあんな包容力がある大人になりたい」
「無理じゃね?」
このアーネストは、即答しおった。
「おま、仮にも私の元のくせにそういう事を言うか」
「むしろ俺だからこそ、無理だと思うんじゃねぇか」
おお、凄い説得力だ。
「見てろよアーネスト。ノルンから淑女の嗜みを学んであっと驚かせてやる」
「いやお前、俺が紳士の礼節を学んでキリッとしてたら、驚くより笑うだろ?」
「うん、笑うな」
「即答かよ。そういう事だぞ」
成程。
「まぁとにかく、明日はシリウスの家に集合だからな。ちゃんと起きろよ?」
「おうよ。そんじゃ、俺も部屋に戻るとするわ。お前こそ起きろよ蓮華?寝過ごしたら俺が幼馴染みポジで起こしに来てやっても良いぞ」
「あと5分ーとか言うのか。っていうか、それは女の子がする側だろ!」
「なら蓮華がしてくれよ」
「嫌だ」
「即答かよ!」
なんてアホなやり取りをしてから、ベッドで寝転んだ。
案の定、意識は一瞬で夢の中へ。
昨日の事を思い出しながら、アーネストの部屋へ入る。
「Zzz……」
こいつ、私に起きろよとか言っておきながら、自分は寝ているとか良い度胸だ。
そ~っとアーネストの横に移動する。
ぐっすりと眠っているアーネスト。
アイテムポーチに手を入れて、取り出したるは油性の黒マジック。
キャップを外し、いざアーネストのおでこにある文字を書こうと近づいたその時。
「はっ!?今なん……いっづぅ!?」
「っぅ~!?」
アーネストが飛び起きた為、アーネストのおでこと私のおでこがぶつかった。
べたなキスとかにならなくてホッとしたけど、とても痛い。
「お、お前、何してんだよ……いてぇじゃねぇか……」
「いや、アーネストが寝てたから、おでこに肉って書こうかなって」
「いやホントなにしようとしてんだよ!?」
「あはは。冗談だよ、冗談」
「その右手に持ってるもんが無ければな!?」
目ざとい奴め。
「ったく、そんじゃ着替えるわ」
「うん、早くしろよ」
「……」
「……?」
着替えようとしないアーネストを不思議に思って見ていると。
「いや、着替えるんだから、出ろって蓮華」
「なんでだ?」
「……」
アーネストの裸なんて見ても、何とも思わないんだけど。
「はぁ、まぁ良いか。お前、俺以外の男の前で同じ事すんなよ?」
なんてアーネストが溜息をつきながら言うので、反論する。
「失礼な奴だな、私だってそれくらい気を付けてるよ。だけどアーネストなら別に良いじゃん」
何度目か分からない溜息をアーネストがついた。
「はぁ……。ホントお前は……。こっちが慣れるしかねぇよな、重い信頼だぜ全く……」
小声で聞き取れない事を言っていたけど、あれは絶対何か私の悪口を言ったな?後で覚えておけよ?
それから下に降りて、母さんと兄さん、アリス姉さんと共に朝食をとり、『ポータル』を使ってオーガストの街へと飛んだ。
ちなみにアリス姉さんが凄くついてきたがったのはご愛嬌。
「さって、そんじゃ案内頼むぜ蓮華」
「ああ。こっちだよ」
そうしてアーネストと二人、シリウスの家へと向かった。




