104話.VSバルバス
「ユクゾ」
バルバスがそう言った瞬間、その巨体が目の前から消える。
横に居る二体は動いていない。どこに行った!?と思ったと同時に、脇腹に衝撃を受け、浮遊感を味わう。
「ぐぁっ……!!」
「兄ちゃん!」
「テリー!」
そのまま壁へとぶつかり、崩れ落ちる。
なんて力だ!これでも結構しゅび力あるはずだけど、下手したら骨が折れているかもしれない。
「お前の相手は私がしてやンよっ!」
「オモシロイ……!」
玲於奈がバルバスに凄まじい速さで攻撃を仕掛けているけど、その全てを回避している。
でも、バルバスの俺の目には見えないような速さの攻撃を玲於奈は回避している。
俺と玲於奈のステータスには、そんなに差はないはずなのに……どうして玲於奈はあんなに強いんだろう。
「隙アリダッ!」
「っ!?」
「玲於奈っ!!」
バルバスが玲於奈の攻撃を回避し、その一瞬の隙をついて攻撃をする。
嫌にスローモーションに見えたその攻撃を、俺は叫ぶ事しかできなくて。
「させぬのじゃ」
「ヌゥッ!?」
玲於奈を助けたのは、ミレイユだった。
「あンがとミレイユ。ったく、すばしっこい猫じゃン」
「訂正シテモラオウ。我ハライオンダ」
あれ?ライオンってネコ科だよね?いやそんな事はどうでも良い。
俺は立ち上がり、玲於奈の元へと駆ける。
「大丈夫か玲於奈!?」
「私はね。それより兄ちゃんこそ大丈夫なン?無理せず下がってて良いよ。こンな奴くらい、私だけでも十分じゃン」
玲於奈の額には汗が見える。
多分、さっきの戦いでかなりの力を使い、実力を把握したんだろう。
「はは、少しは兄ちゃんらしい事させてくれよ。俺はパッシヴスキルで傷を癒せるんだから、近くに居た方が良いだろ?」
そう言うと、玲於奈は微笑んでくれた。
「私が戦えるのは、兄ちゃんが居てくれンからじゃン……それだけでも役に立ってンよ……」
「え?今なんて玲於奈?」
「な、何も言ってない!」
「ええー。今ぼそぼそって何か言って……」
「……」
「はい!何も言ってません!」
人を殺せそうな目で見られたので、反射的に敬礼してしまった。
なんて理不尽な。
「ふふ、テリーにレオナは相変わらずじゃな。じゃが、奴らは魔王の称号を持つ者達じゃ。ここは妾に任せ……」
おっと、それはダメだ。敵はバルバスだけじゃないんだから。
「なら尚更俺達の出番だな。なぁ玲於奈」
「ン、兄ちゃん」
玲於奈とアイコンタクトで頷き合う。
「どういう事じゃ?」
「そりゃなぁ?」
「そうじゃン?」
「???」
頭にクエッションマークを浮かべているミレイユに、俺達はニカッと笑って言う。
「「魔王を倒すのは勇者の役目だろ!」」
「!!」
まぁ、俺は魔王を守る為に呼ばれた勇者だったりするんだけど。
俺の職業、魔勇者だし。この世界でもその影響があるのかは分からないけど、相変わらずステータスは見れる。
「ホゥ、ソナタラハ勇者デアッタカ。ナレバ生カシテ帰スワケニハイカヌナ」
遥か上から声が聞こえてくる。
俺達はバルバスを見上げ、声を張り上げる。
「異界の勇者、照矢だ!ここからは本気で行くぞ!」
「同じく異界の勇者、玲於奈。降り懸かる火の粉は払わないとじゃン!」
「ソノ意気ヤヨシ。パイモン、バティン、コノ二人ハ我二任セヨ」
呼ばれた二体は、魔物の姿から人の形に変わった。
「ま、元から魔力を奪う為にその場に居た奴らを狙っただけだしね。契約内容と直接は関係ないから、任せるよバルバス」
「右に同じ」
パイモンとバティンと呼ばれた二体、いや二人は、少し後方へと下がった。
戦いに参入してこないのは助かるけど、バルバスが危険になったら手を出してくるはずだ。
その時に、こちらもミレイユとスラリン、ハルコさんがなんとかしてくれると思っている。
「行くぞ玲於奈!」
「了解っ!」
俺は右から、玲於奈は左からバルバスの元へと駆ける。
「我ノ力トナレ『スターダストグローリー』」
これは魔術かっ!?バルバスの巨体を光が包む。
でも攻撃系ではなさそうだ。このまま斬る!
「おらぁぁぁぁっ!!」
「はぁぁぁぁっ!!」
俺の剣の一撃と、玲於奈の拳がその巨体に当たる。
そう、斬れたんじゃなく、当たった。衝撃が腕まできて、ジンジンと痺れる。
「かったぁぁ!?なんだこれ、硬すぎるぞ!?」
「っぅ!兄ちゃん!鋼鉄殴ってるみたいじゃン!?」
「くっ……!全身がこの硬さなんて事はないはずだっ!弱点を見つければ……そうだ玲於奈、鑑定は!?」
「それ最初にやったンだけど、通じなかった!」
うっそだろ!敵の強さは未知数って事か!
「鉄のように硬いなら、雷で行くか玲於奈!」
「!!了解!」
俺と玲於奈の得意技、『ギカントブレイク』と『ギガストラッシュ』は、剣に雷をまとわせて斬るスキルだ。
俺達が最初に召喚された世界で、ミレイユ達を守る為にレベルアップを繰り返し、覚えた技の一つ。
「『スターダストグローリー』」
またバルバスの巨体を光が包む。
でも関係ないっ!喰らえ!!
「『ギガントブレイク』ゥゥッ!!」
「『ギガストラッシュ』!」
俺と玲於奈の攻撃が同時に交差する。
雷のバチバチとした轟音が鳴り響く。
最初の一撃と違って、手ごたえはあった……気がする。
けれど、そんな思いを吹き飛ばすように、その巨体は一切の傷を負っていなかった。
「コレデ終イカ?ナラバ、次ハコチラノ番ダナ」
バルバスの口に、魔力の光が集まっていく。
この世界は、こんなに強い奴がゴロゴロしてるのか……!
そういえば蓮華さんも言ってたな、この世界には私じゃ歯が立たないような人だっているからって。正直謙遜だと思っていたけれど……本当なのかもしれない。
俺は腕をクロスさせ、玲於奈の前に出る。
「兄ちゃん!?」
「俺が倒れたら、ミレイユ達を頼む!」
「ソノ意気ヤヨシ!最大ノ魔術デ葬ッテヤロウ!『バーストストリーム』!」
バルバスの口から、レーザーのように光が放出される。
その光が俺へと直撃する、正にその一瞬前に。
「「顕現せよ最強の盾!『イージスフィールド』!」」
凄まじい爆音の中で、それでも脳に響き渡る澄んだ声。
バルバスが放った光は、更に強い光の壁に防がれる。
「まったく、他国とはいえこうも面倒毎に巻き込まれるなんて、蓮華お姉様の影響ですわね」
「ふふ、蓮華お姉様の影響なら、少し嬉しくもありますカレンお姉様」
戦場に似つかわしくない、その美しい声に、敵も味方も視線が集中する。
シリウスさんと似た服装の騎士の姿。
片方の女性は2本おさげの燃えるような炎の色をした赤髪で、目つきがつり目できつめだ。
そしてもう片方の女性は1本お下げの綺麗な水のような色の青髪で、少し下がり気味の目をしている。
髪の色もそうだが、前髪が赤い髪の女性は右分けで、青髪の女性は左分けとこちらも対照的だ。
「何者ダ」
二人はバルバスの問いかけを無視し、俺の前にきた。
「妹さんを助ける貴方の雄姿に感激致しましたわ。後はお任せなさい」
「ですね。貴方達は下がりなさい」
そう言う二人に、俺は口をきつく結び、なんとか声を絞り出す。
「俺達では、力になれませんか?」
「兄ちゃん……」
その言葉に、二人の女性は微笑んだ。
「では、共闘といきましょうか」
俺と玲於奈は頷き合い、前を見る。
それを確認した女性は、名乗ってくれた。
「私はカレン=ジェミニと申しますわ」
「私はアニス=ジェミニ」
「あ、俺は御剣照矢です!」
「御剣玲於奈。助けてくれてあンがと」
軽く自己紹介を済ませて、バルバスを見上げる。
ただ待っていたというわけではなく、全身に魔力をいき渡せらせているのが肉眼で確認できる。
今度こそ、やってやる!




