101話.ギルドクエスト
-王都・オーガスト-
「それじゃシリウスさん、俺達はまたギルドに行ってきますね」
「ああ。それから、まだ蓮華様からの返事は無いのか?」
「ええ、既読が付かないので、そもそもスマホに触ってないのかもしれません」
俺の周りにも居たんだよなぁ。何の為にスマホ持ってるのか分からない、携帯電話を携帯しない人。
蓮華さんはその手のタイプと見た。いや単純に忙しくて見れてないだけの可能性もあるけど。
「ふむ、私もそのスマホ?というのを欲しいと思ったが、蓮華様とあまり連絡が取れないのなら意味は薄いか」
と残念そうにシリウスさんは言う。この技術を軍事に取り入れれば凄まじい効果になるのはシリウスさんだって分かっているだろう。
けれど、蓮華さんが秘密裏にと伝えただけで、完全に切り分けて考えてくれるんだから凄い。
というか、国の守護神のような方に心から想われてる蓮華さんが凄い。
「兄ちゃん、どしたン?早く行かないと依頼減っちゃうじゃン」
シリウスさんと話していたら、靴を履いて準備万端の玲於奈が後ろから近付いてきた。
「ああうん、伝えたから行くよ」
「先日Bランクまで上がったんだったな。私の推薦状でもCまでしか上げてやれなくて心苦しいが」
「いやいや、それだけでもすンげぇ助かってるよシリウスさン」
「だよな。一番下はFだかEからなんですよね?それだと大した稼ぎにならないし」
「お金の事は気にしなくて良いんだぞ?」
「んー、私達はそういうの嫌なンだよね。自分で出来る事は自分でしたいじゃン?」
「……掃除はしないけどな玲於奈は」
「なンか言った兄ちゃん?」
「ごめんなさい」
玲於奈に凄い顔で睨まれたので、条件反射で謝る。
あれ?俺何も悪い事言ってないのになぁ。
「はは。相変わらず仲が良いなお前達は。「ナイトメア」の件もあるから、何か新たな情報が入ったら伝えるが、くれぐれも注意するんだぞ」
「はい」
「ン」
俺と玲於奈はシリウスさんの元を離れ、ミレイユとスラリン、ハルコさんが待つ外へと向かう。
「ようやく来たのじゃ。遅いのじゃテリー」
「ごめんごめん。シリウスさんから、蓮華さんから返事は来てないか聞かれててさ」
「ふむ、なんぞあったのか……いやあったとしても、あの者達が居るしな」
「ですねぇ」
ミレイユの言葉に、スラリンが同意する。
この王都オーガストに来てギルドに登録して分かった事は、俺達も十分に強いって事。
高ランクのパーティと組む事が何度かあったけど、俺達の方が断然強かった。
俺が剣で斬ったり、玲於奈が魔物を殴り飛ばしたりするのを見て唖然としてたからなぁ。
ミレイユなんて魔力で空気椅子みたいに空中で座って、スラリンと一緒に紅茶飲んでてどこの庭だよって感じだったし。
その俺達からしても、蓮華さん達の強さは異常だ。
そしてその蓮華さんが、自分が一番弱いと言う程にマーガリンさんやロキさん、アリスティアさんは強いのだから、心配するだけ無駄だろう。
きっと、何か忙しくてスマホを見る暇も無いんだと思う。多分。
「私からしたら、スマホを弄ンない時間とか想像できねぇンだけどなぁ」
「玲於奈はずっとスマホ弄ってたもんね。Twitterとかずっとやってたんだっけ?」
アイコンを自分と友達の顔写真にしてたのを覚えてる。友達に頼まれて、お互いにそうしたんだっけ。
玲於奈は自分から自分の顔を公表したりしないしな。昔に襲われた事があって、男に警戒心がとんでもなく強くなったから。
あれから、玲於奈は見た目にも舐められないように意識するようになったし、心も強くなった。
口調もきつくなって、お兄ちゃん時々マジ泣きしそうだけど……。
「タイムライン追ってンとすぐ時間が経つンだからしゃーないじゃン」
俺はスマホはLINEと電話しか使わなかったので、よく分からないけど……そういうものなんだろう。一応登録させられたけど、全然起動していない。
「兄ちゃんと相互になってンのに、兄ちゃんのツイートとか見た事ねぇかンなぁ……」
「俺機械苦手なんだよ……」
「まぁ兄ちゃんは部活の助っ人とかで校内ウロチョロしてたかンな」
うろちょろって。まぁ事実だけど。
「シャイターンにマサトの情報は全く入らぬが、最近なにやら怪しい集団が時折酒場に集まっておるようじゃし、張ってみるのも良いかもしれぬな」
玲於奈と話していたら、ミレイユが思案顔で言い出した。
「でもシリウスさんのメイド達もその情報掴んでたしなぁ……俺達が出る幕なさそうじゃない?」
「ふむ、それもそうか。まぁ気に掛けておくに越した事はないのじゃ」
シリウスさんの武闘派メイド達は、高ランクの冒険者達に引けを取らないどころか、より強いまである。
そして目を見張るのはその気配の無さ。
単純に戦えば俺や玲於奈が負ける事はなさそうだけど、事暗殺とかになると俺達は負けると思う。
なんせ、いつの間にか背後を取られる。あの玲於奈ですら、驚いた顔をしている時がよくある。
でも、屋敷を一歩出ると普通の人だから驚くんだよね。
あれだろうか、優れた暗殺者は普通の人を演じるのも優れてるというか……って俺ナチュラルに暗殺者って言ってるけどメイドなんだよな。
この世界のメイドはそれが普通なんだろうか……。
「よし、それじゃ行こう皆」
気を取り直して、俺達はギルドへと向かう。
そしていつも通り掲示板の依頼書を見る。
どれどれ……今日もいつも通り様々な依頼が所狭しと貼られている。
常時依頼というものもあるけど、これはついでに達成できるものが多いからな。
「お、この依頼なんて良いんじゃないかな」
「どれどれ。ン……パイコーン、討伐ランクA……私達はBだけど、一個上までは一応受けれるンだっけ。良いンじゃない?」
玲於奈も賛同してくれたので、その依頼書を剥がして受付に持って行こうとしたら、依頼書に他の手が重なる。
「とっ。貴方達もこの依頼を?」
「あっと、同時かな?」
互いに言葉を重ねる。
あ、この人は確か、この王都・オーガストで一、二を争う高ランクパーティ。ランクAの『漆黒の翼』のメンバーの一人だ。名前は確か……
「アッシ!依頼書取るだけで何を時間かけてるの!?」
「コレン。ごめんごめん、依頼書を取るタイミングが重なっちゃったんだ」
アッシと呼ばれた青年の元へ、いかにも魔導士といった格好をした、ツインテールの気の強そうな女の子が来た。
「パイコーンの討伐を受けるパーティが他に居たの!?ってああ、アンタ達は最近有名なパーティね。『まおゆう』だったかしら?」
そう、俺達はギルドにパーティで登録したのだが、登録名で難儀したんだ。
だから、魔王と勇者の頭文字をとって、『まおゆう』って名前にした。
ミレイユとスラリンは笑ってたし、玲於奈とハルコさんも苦笑してたけど、異論は出なかったから。
「『まおゆう』は確か、ランクBだったわよね。ランクAの討伐依頼は、まだ身に余るんじゃない?身の丈に合わない依頼は、身を亡ぼすわよ?」
コレンと呼ばれた女性は、恐らく俺達の事を想って言ってくれたんだろう。
だけど、玲於奈がそれに反発した。
「私らはまだランクが足りてねぇだけだし?Aランクなンて余裕っしょ」
「そうやって余裕ぶってると、真に強い魔物に会った時に腰を抜かして立てなくなるのよ!」
「あンだと!?」
「なによ!?」
……玲於奈、どうしてそう出会ったばかりの人と喧嘩できるの。
はぁと溜息をついていると、アッシさんも俺と同じような表情をしていた。
お互いに見つめ合い、通じ合った。
うん、この人もそうなんだな、と。
「おーいアッシ!コレン!何してんだ?」
そこへ、大柄な男性が来た。
腕は筋肉質で、鎧を着こんでいる。
「グレク!ごめん、パイコーンの依頼書を探してたら取るタイミングが重なっちゃって、その件でコレンが口喧嘩始めちゃって……」
「あー…、よりにもよってパイコーンの依頼だからな。他の依頼ならあいつも引き下がってただろうけどなぁ」
「討伐対象に、何か思い入れが?」
気になったので、二人に質問をしてみた。
「ああ、あれは俺達がまだ登録したばかりの頃なんだけどよ……」
それから聞いた話は、蓮華さんが絡んでいた。
あの人、男前すぎる。いや女なんだけども。それも超美人。男なんて言ったら殴られても文句言えない。
「ふむ、なら一緒に受ければ良かろう。レオナもあれでは引けぬじゃろうし、そちらの子もそうじゃろう」
「良いのか?」
グレクさんが困った顔でこちらを見てきたので、俺は了承する事にした。
「そちらが構わないのでしたら、俺達は構いませんよ」
「助かる。ならこの依頼、俺達『漆黒の翼』との合同クエストにしようか!」
「「ええー!?」」
さっきまでぎゃいぎゃいと言い合っていた玲於奈とコレンさんが一緒にこっちを向いて声を上げる。
うん、君達もしかして気が合うんじゃないか……。
こうして、俺達は『漆黒の翼』のパーティと共に、魔物討伐のクエストを受ける事にした。




