100話.日常 ☆
「『絶刀』!『絶空』!『絶牙』!」
「甘いですよ蓮華」
最速の突撃を空へと飛ばれ避けられる。
すかさず空への突撃技である『絶空』を使うも見切られて、ソウルを押されて体制を崩された。
けどそこから対空技である『絶牙』で切り返すも、簡単に避けられてしまう。
「連携は上手になっていますが、一つ一つの技の練度が足りませんね。これが『絶刀』です蓮華」
ユグドラシルが刃を構え、その姿が一瞬で目の前まで移動する。
「がはっ……!」
見えていたのに、動く事ができずに直撃する。魔力での防御が無ければ、その刃は私の体を貫いていただろう。
「蓮華、ここは時の聖域ではありませんから、傷は負いますし下手をすれば死に至るかもしれません。それでも、続けますか?」
私は立ち上がりながら、ユグドラシルを見つめる。
「当たり前だよ。私は、強くなりたいんだ。父さんがいつも言ってた。力なき正義は無力なり、正義なき力は暴力なりって。優しさだけじゃ、駄目なんだ。だから私は、力を得る機会を逃したくない……!」
心からの気持ちを、ユグドラシルに伝える。
すると、溜息をつくと同時に、こちらを優しい表情で見つめてきた。
「愚問でしたね。蓮華、ならば私は手加減をしません。死に物狂いでついてきなさい。今後の神々との戦いでも勝てるように、貴女を鍛え上げます」
その瞳は真剣で、私の意を組んでくれた。
母さんも兄さんもアリス姉さんも、そしてユグドラシルも……本当に優しい人達だから。
私に攻撃する事をいつも躊躇う。
だけど、それでは本当の意味で私は強くなれない。
安心感を与えてしまうからだ。
けど、今のユグドラシルは違う。
私を敵として見てくれている。そこに、安全なんていう保証は無い。一歩間違えば死を感じる戦い。
その意識を持たせてくれる。
「行きますよ蓮華。私の身のこなしを学び、体術、剣術をマスターしなさいっ!」
「はいっ!」
魔法は使わず、ひたすらに斬りあう毎日。
アーネストとノルンも毎日傷だらけで、家に帰ると揃ってソファーと座布団の上に倒れ込む。
「き、今日も生きてたぜ……俺、強くなってる……」
「アーネスト、やっぱリヴァルさんの相手はキツイのか?」
お互いに座布団を下にして寝転びながら、でも起き上がる体力も無い私達はそのまま会話する。
いつもは行儀が悪いって怒るノルンも、今はソファーの上で私達と同じようにぐでーっとしている。
「ああ、きっついなんてもんじゃねぇよ。アレは母さんと同レベルの鬼だぞ……」
「うへぇ……」
まぁ、あの強さだしなぁ……それが手加減なしで来るなら、アーネストでもボロボロになるよね。
「ノルンはどう?」
「……」
「ノルン?」
「……」
返事が無いので、頑張って顔をソファーの方に向けると、スヤスヤと寝息が聞こえてきた。
あのノルンがそのまま寝ちゃうなんて、余程体力と魔力を使い果たしたんだろう。
「気力があれば、額に肉って書くんだけどな……」
「ぶっころされるぞアーネスト……」
アーネストがアホな事を言うので、冷静に突っ込んでしまう。
が、そんなおふざけもできない程に私達は体力を使い果たしている。
「アーちゃん、レンちゃん、ノンちゃん……は寝ちゃってるね。お風呂湧いたよー」
そんな中、母さんが居間に来た。
「今日は生活魔法の『クリーン』で手軽にとかダメかな母さん……」
「アーネストに同意したい……」
だって、本当に疲れてるので。
このまま寝ちゃいたいくらいに……。
ああ、まぶたが重い……今ならネロがパトラッシュに言ったのが分かるとか言ったら駄目だよね。
「良いけど……それじゃ私が全身をマッサージしてあげよっか♪」
と言って、手をわきわきとさせる母さん。
嫌な予感がした私は、気力を奮い立たせて立ち上がる。
「わ、私はお風呂やっぱり入ってくるよ」
「そう?それじゃ、アーちゃんには『クリーン』かけてあげるから、マッサージしてあげるね♪」
「ちょ、ま!蓮華!?」
私はアーネストを見ずに風呂場へ急ぐ。
後ろからアーネストの断末魔の声が聞こえた。
やっぱり痛かったか……南無、アーネスト。
お風呂から上がって、さっぱりした所で居間に戻ったら、アーネストが風呂に行く前より身綺麗になりながらも、変な形で寝転がっていた。
「だ、大丈夫かアーネスト?」
流石に聞かずにはいられなかった。
だって、なんか体が変な風に曲がってるんだもの。
「……ああ、不思議と気持ちは軽いぜ。けど、なんでかな。体が動かねぇ」
それは精神と体が分離しちゃってるんじゃないかな。一種の幽体離脱というか。
「アストラルボディが上に浮いてたりしないか?」
「それだと俺は上から俺を見下ろしてるだろ……」
それもそっか。
なんてアホな会話をしていたら、ノルンがソファーから身を起こした。
「あれ、私寝てた……?」
「おはようノルン。少し寝てたみたいだね。私お風呂に入ってきたから、ノルンも入ってきたら?あったまるよ」
「そうね、そうするわ」
と言って足をおろし立ち上がったのだが、そのかかとがアーネストの小指を直撃してた。
「ぐぁぁあぁぁぁっ!!」
「アーネスト!?」
アレは痛い。さっきまで動けないとか言ってたアーネストが、床を転げまわる。
「ご、ごめん」
ノルンはすぐに足を退けて謝ってるけど、アーネストがのたうち回ってるので、笑ってしまっている。
私も我慢が出来ずに笑い出してしまった。
そこへ、アリス姉さんがやってくる。
「皆ー!ご飯もそろそろでき……ってなんでアーくん転げまわってるの?」
「そういうお年頃みたいだよアリス姉さん」
「えぇぇ……」
アリス姉さんが苦笑していると、今度はリヴァルさんがやってきた。
「アーネスト、先程の特訓の反省会を……」
アーネストが出入口へ向かって転がった所へ、リヴァルさんの足がアーネストの急所を踏んでしまう。
「ぐうぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
まさかの2コンボッ!しかもあそこは、あそこは痛いっ!今でこそないけど、あそこへの一撃は何よりも痛いのを元男だった私は知ってる!
「なんかぐにゅってしたんだけど……大丈夫かアーネスト……」
リヴァルさんが気遣ってるけど、やめてあげて!アーネストのヒットポイントはもうゼロよ!
「……何の騒ぎですかこれは」
兄さんが騒ぎを聞きつけ、来たけれど……状況を見ていた私以外、分からないよねこれは。
というか、情けなさすぎて説明するのも脱力してしまうけど。
「ノルンは良いからお風呂入ってきなよ……」
「そ、そうするわね」
ノルンにはお風呂に行く事を勧めて、とりあえず状況を説明する事にした。
「あははははっ!アーくん!」
話を聞いて爆笑するアリス姉さんに、気まずそうな表情のリヴァルさん、心配そうな兄さんと三者三様だったけど。
「今日は呪われてんじゃねぇか俺……もうさっさと寝るわ」
と言って二階に上がろうとしたアーネストを、リヴァルさんがホールドする。
「待て、今日の反省会をすると言ったろう」
「ぐはっ!?分かったから、首を絞める必要あるか!?」
「スキンシップという奴だ」
「過激すぎんだろ!」
なんだかんだ、リヴァルさんとも仲良くなっているアーネストだ。
ミラヴェルとも仲良くなっていたし、意外とアーネストはたらしなのかもしれない。
「お前、また失礼な事を考えてただろ」
相変わらず、なんで分かるんだよ。
「ノルンちゃんはお風呂入りに行ったんだよね?ご飯後は並べるだけだから、ノルンちゃんが上がったらご飯にしようよ!」
「うん、了解。リヴァルさん、アーネストとの話はご飯の後でも大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。なら食事が終わったらアーネストに来るように言っておいてくれ」
「聞こえてるよ!」
そりゃそうだ。すぐ傍に居るんだから。
「リヴァルさんも食べていかないの?」
「私はもう自分で作ってしまってな。大精霊達の分も作ったから、今日は皆と一緒に食べるつもりなんだ、すまない」
「そっか、それならしょうがないね」
リヴァルさんは料理も得意みたいで、よく大精霊の皆と食事を取っている。
美人でスタイルも良くて料理もできて、おまけにとんでもなく強い……男が放っておかないんじゃないかな、この人。
「リヴァルさんー!アーく……アーネストさんは見つけたのー?」
今度は小さなアリス姉さん……じゃなくて、アリスちゃんが来た。
本当にアリス姉さんを小さくしただけに見えるので困る。
「ああ、今から食事のようだから、後で来るように伝えた所だよ」
「そっか!なら私達もご飯にしようよー!お腹ぺこぺこだよー!」
「はは、分かったよ。それじゃ皆、また明日」
そう言って、リヴァルさんとアリスちゃんは家を出た。
今日も今日とて、特訓をして一日を終える。
穏やかな毎日だけど、これから何かが起こるんだよね。
だから、リヴァルさんが来たんだから。
気を引き締めて行かないとね……とりあえず、ご飯を食べて英気を養おう!
「アリス姉さん、今日の晩御飯は何かな?」
「ハンバーグだよ!」
「おお、それは楽しみだね!」
「目玉焼きはあるよな!?」
「アーネストは卵焼きより目玉焼き派だもんな」
「ばっか!ハンバーグだからに決まってんだろ!?」
決まってるのか。
居間から台所に移動しながら、そんな会話をしている私達を、後ろから生暖かい視線で見守っている兄さんには気付かないふりをしておいた。
途中の挿絵は、はるきKさんから頂きました。ありがとうございます。




