93話.リヴァルの話-前編-
「さて、ここなら誰に聞かれる事もないよリヴァルちゃん。……ううん、今はレンちゃんって呼んでも良いかな?」
「はは、やっぱり母さん達にはばれてるか」
「そりゃね。それに時を渡るなんて、時の大精霊であるミラヴェルの力を借りないと不可能だもの。で、ミラヴェルが力を貸す相手となると自然と答えは出てるでしょ?」
ソファーに腰かけながら、マーガリンは苦笑する。
ロキもまた苦笑しながら相槌を打つ。
「アーネストやノルンに抱きついたり、アリスの事を姉さんと呼んだり……隠すつもりならば色々と抜けている所が変わっていませんからね」
「うぐっ……」
今の時代の蓮華とは違い、成長し大人の姿の蓮華ではあるが、ロキの言葉に苦笑するしかなかった。
「しょうがないじゃないか……母さんや兄さんとこうして話せるのもそうだけど、アーネストやノルン、それにアリス姉さんとは本当に久しぶりに会えたんだから……」
その言葉に、皆一様に表情が厳しい物へと変わる。
「それは、未来の私達は蓮華の傍に居ないと?」
ロキは少し厳しい口調で、蓮華に問いかける。
勿論、蓮華に対して怒っているわけではない。
未来の自身に、何をしているのだと憤慨しての言葉だった。
蓮華は咳払いをしてから、ゆっくりと語りだした。
「母さんと兄さんは……私とアーネストを守る為に、ソロモンに従った。操り人形として、今もソロモンの味方に居るんだ」
「「「「!!」」」」
「地上と魔界はずっと戦争を繰り返してる。ソロモンの治める魔界と天上界に対して、地上は僅かな戦力……レジスタンスとして、私やミレニア、ミラヴェルを中心にソロモンに対抗してる状態なんだ」
蓮華の説明に驚きを隠せなかったが、グラスに注がれたワインを一口含み、マーガリンが口を開く。
「という事は、ミレニアとミラヴェルが協力してレンちゃんを過去に繋げてくれたのね?」
「うん」
「そっか。ならアーちゃんやノンちゃん、それにアリスはどうしたの?」
その言葉に、蓮華は俯く。
少しの間の後、蓮華は口を開いた。
「アーネストは、私を守る為にソロモンの手に落ちました。今は、意識は無くソロモンに操られています。ノルンも同じです。そしてアリス姉さんは、……私と、同一化しました」
「「「「!!」」」」
「今の私は、精霊王の位を頂いています。そしてその際に、アリス姉さんは完全に消滅しました。私を、守る為に……!」
手を握りしめ、口をきゅっと結び、体を震わせる蓮華。
それを見て、アリスティアはそっと蓮華の体を抱きしめる。
「アリス姉さん……?」
「辛かったんだよね、苦しかったんだよね。でもね、未来の私はきっと、後悔してないよ。だって、大好きな蓮華さんを守れたんだもん。身も心もボロボロになって、それでも戦って……分かるよ、その見た目だけでも、どれだけ頑張ってきたのか……」
アリスティアに抱きしめられながら、ポロポロと涙を流す蓮華。
それを見た三人は、ある決意を胸に秘める。
「話しなさい蓮華。何故、そうなったのかを」
「ええ、話してレンちゃん。何故、そうなったのかを」
「母さん、兄さん……」
「私達が」
「潰してあげますよ」
マーガリンとロキがハッキリと言い切る。
それを聞いた蓮華は、目に涙を浮かべながら、笑顔で応える。
「ありがとう。せめて、過去の私だけでも、私のようになってもらいたくないんだ。協力してほしい」
そう言う蓮華に、ロキは首を振る。
「違いますよ蓮華。救うのは貴女もですよ」
「そうそう。どっちのレンちゃんも、私達の大切な家族なんだから。未来の私達をどうやって操ってるのか、それも聞けば対処できるはずだし。レンちゃんの行動で、未来は確実に変わったのよ」
その言葉に、蓮華は笑う。
「おかしいな、こんな風に笑うのは久しぶりなんだけど。涙が止まらないや。母さんと兄さん、アーネストにアリス姉さんも……私を守る為に……うぁあぁぁああああっ!!」
泣き崩れた蓮華を、マーガリンとアリスティアが抱き寄せる。
ロキはその様子を優しい表情で見ていた。
そして少しの時間が経った後、涙を拭った蓮華の表情は、少し穏やかなものへと変わっていた。
「ありがとう皆。それで、皆に協力して貰いたい事の一つに……この時代の蓮華には、私に起こった事は話さないで欲しいんだ」
「それは、どうして?」
マーガリンが優しい表情で蓮華に質問をする。
蓮華はその瞳を見つめ返し、答えた。
「うん。きっと、あいつは自分を責めるから。私が、そうだったからね。私は、ミレニアやミラヴェルのお蔭で立ち直ったけど、それでも今でも自責の念は強い。これは、今の私が背負うべきもので、今のあいつが背負う物じゃない」
その言葉を聞き、皆首を縦に振る。
「ありがとう。そうだ、詳しい話をする前に……アリス姉さん」
「なーに蓮華さん?」
「精霊王についての話をずっとはぐらかしていた理由、知ったからね?私と同化なんて認めるはずないからね?そこの所、この時代の蓮華としっかりと話し合ってもらうからね?本気でその点許してないからね?分かった?アリス姉さん」
「あうぅぅ!?」
「「「ぶふっ」」」
突然の蓮華の話に、アリスティアはしどろもどろになる。
それを見て、マーガリン達は吹き出してしまった。
「あいつには私と違う道を歩んで貰いたい。私の中に、アリス姉さんは今も生きてる。だけど、話をする事はできない。力は手に入れたけど……アリス姉さんを失って得た力なんて、私には必要なかった。アリス姉さんがずっと傍に居てくれる方が、何倍も、何倍も良かったんだ……!」
「蓮華さん……」
辛そうに言う蓮華に、アリスティアはただ蓮華を見つめる事しか出来なかった。
何故なら、もし蓮華に危機が訪れた場合に、自身が同化する事で防げるのなら、躊躇わずにそれを選んでしまう事が分かってしまうから。
「約束してアリス姉さん。絶対に、私と同化しないって。きちんと傍で、私と一緒に力を合わせるって」
真剣な表情で見つめてくる蓮華に、アリスティアは両手をあげ、降参の意を表する。
「分かったよー。できるだけ頑張……」
「絶対に、だよアリス姉さん」
「……はい」
「あはは!アリスもレンちゃんには形無しね」
「ふ、蓮華ですからね」
マーガリンとロキは微笑みながら言い合う。
それを見て蓮華とアリスティアも笑顔となった。
「それじゃ、これから何が起こるのか……順序立てて説明するね。対策は、その後に」
蓮華の言葉に、先程とは打って変わって場が静まり返る。
それから、ぽつりぽつりと語られる蓮華の話に、皆一様に厳しい表情となるのだった。




